働くママにとってのライフラインである保育園はなぜ増えない?

首都圏の待機児童が多い都市部を中心に14の保育園を運営している茶々保育園グループの理事長、迫田健太郎さんに保育園の開園と待機児童問題についてお伺いしてきました。なぜ待機児童が減らないのか、減らすためには何をすべきなのか…。迫田さんが語る「子供を社会の一員として見よう」という言葉がどう待機児童問題の改善に繋がってくるのでしょうか。

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待機児童問題について保育園運営者に聞いてみた

待機児童、ここ数年よく耳にする言葉ですよね。働きたいママにとっては死活問題でありながら、個人では何もできないことばかり。多くのママたちが問題意識を持っていることでしょう。

そこで、関東を中心に複数の保育園を運営している茶々保育園グループの理事長、迫田健太郎さんに待機児童、保育士不足、保育園を実際に開園するにあたっての課題など、保育に関わる多くの社会問題についてお伺いしてきました。

課題だらけの保育園開園

編集部撮影

皆様もニュースを見ていていくつかはご存知だと思いますが、保育園を開園するには非常に多くの壁があります。

  • 地域の理解
  • 保育園のイメージ
  • 保育士のイメージ

地域の理解とは、騒音問題や建物によって「いつもの」日常を壊されてしまうのではないか、という住民の不安です。

自分の日常を保育園によって邪魔されてしまうのではないか、好きな景色が保育園によって遮られてしまうのではないか、静かな場所が騒がしくなってしまうのではないか、というような不安が想像できます。その土地を気に入って住んでいる方の当然の不安であり、言い分でしょう。

ニュース等でも耳にすることがあると思いますが、地域の方の声により開園を断念した保育園もあります。そのため、地域の理解は保育園を開園する第一歩になります。

また、保育園に対する周囲のイメージも保育園開園に対するひとつの壁です。

皆さんは「保育園」という場所をどう捉えていますか。迫田さんは、開園する際に様々な地域の方と話す上で、多くの方が「親の代わりに子供を預かる場所」と捉えていると感じたそうです。

幼稚園は勉強する場所、だから近くにあってもうるさくないイメージを持っている人が多い、と迫田さんは話します。社会における「保育」を高める必要があるということでしょう。

そして、保育士のイメージ。

可愛らしいエプロンを着て、子供たちを散歩したり、遊んだりしているイメージをお持ちではないでしょうか。迫田さんは、保育に関する社会問題のほとんどが、保育士という仕事に対する理解不足だと話されました。

人の命を預かっている保育士の仕事が、世間では「子供の相手をする仕事」と思われているため、その重要性が伝わらず辞めてしまう保育士や資格だけ取った潜在保育士が多く潜んでいる、と指摘します。

それにより保育士がいないと、場所を確保しても保育園を開園することはできません。

もちろん開園に向けた壁はこれだけではありません。場所の確保、建設費用の高騰、運用費用など、開園までには様々な課題を解決する必要があるのです。

地域の理解を得るためには

地域の方の理解は、開園する上で大きな課題のひとつです。理解を得るには、何度も説明会を開くだけでなく、必要であれば個別にも対応すると言います。地域の方の声をしっかり聞き、真摯に向き合うことが何より大切だと迫田さんは話します。

求められれば園舎の配置変更も検討

編集部撮影

園児の声、建物が景観に与える影響、送迎の車など、保育園が地域に与える影響は様々。地域の住民の不安に向き合うには、どのように配慮すべきなのでしょうか。

迫田さんのお話では、開園することで音が課題になった時は、住宅街側には窓を作らない設計に変更し、景色への影響が課題になった時は、園舎の配置を全体的に変更するなどと対応してきたようです。

開園するためには地域の理解が必要で、お金がかかってでもやらなければならないことだ、と話します。

茶々そしがやこうえん保育園では、住宅街側一面を壁にすることで音漏れを防いでいます。壁一面窓がないとなるとどうしても部屋が暗くなってしまいます。

そこで、天井を吹き抜けにし、上からの光で補うよう園舎が設計されていました。地域住民の不安をひとつひとつ解消していきながらも、子供たちが快適に過ごせる環境を大切にし、開園しなければという使命感が必要なようです。

保育園は「みんなのモノ」

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また、迫田さんは、地域の方へ話をする際に「子供のために」という事業者のエゴを押し付けるのは良くないと話します。税金で作り運営する保育園、この地域に開園する保育園はあくまでも「みんなのモノ」だという考え方が必要だと。

保育園を子供たちのモノにしてしまうと、地域の住民からは「自分たちには関係のない施設」というレッテルが貼られてしまいます。

自分たちに関係のない施設に税金が使用され、「いつもの」日常が奪われてしまう。そのような施設にOKを出す地域の方は少ないでしょう。

そこで、迫田さんは保育園を「みんなのモノ」にするために、14園ある保育園のなかの4園にカフェを設けています。施設関係者以外に住民の方、フラッと寄った方、誰でも利用できるようしていると言います。カフェは4園とも無料で、自由に利用できるようにセルフサービスとなっております。

今年の4月に開園したばかりの茶々そしがやこうえん保育園では、保育園に併設される形でカフェが運用されていました。取材にお伺いしたのは5月中旬頃でしたが、すでに地域の方たちがくつろぎ、談話している姿を見受けられました。

フリーWi-Fiやコンセントの設置されているので、パパが朝子供を送った後に少し仕事をしたり、ママがお迎えに来た際に少し息抜きをしたり、近所の人同士がお喋りする空間であったりと、どこにでもあるカフェと変わらない利用のされ方だそうです。

開園までには数年かかる

お絵かき amana images

地域の方に理解してもらうためは時間がかかり、スムーズにいっても開園までに数年かかります。

待機児童のことを考えると、もっと早く保育園を増やしたいと思ってしまいますが、いざ保育園が開園されるとなれば、地域の方にとってその後、20年も30年もの付き合いになります。

開園することがゴールではなく、その後の保育園を他の施設同様、良い意味で「自分たちのモノ」にしていく必要あると迫田さんは話します。

地域の一員として認められることが、開園後の運営や、地域と子供たちの関係に必要なのでしょう。

保育士は「資格」であって、肩書きではない

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迫田さんが保育園を開園するにあたって、また開園してからも力を注いでいるのが「保育士の育成と保育士という仕事を世に認知させる」ということ。

迫田さんは、保育士として働いている方のモチベーションや社会性をあげたい、世の中に定着している保育士のイメージを根本から変えたい、保育士たちの地位向上が、保育という仕事の大切さを社会が理解するための一歩になると言います。

保育士は、子供と遊ぶことが仕事なのではなく、お母さんたちの代わりに子供を預かることが仕事なのでもなく、これからの社会を預かっていく人たちの今を預かることが仕事なのだ、と迫田さんは話します。

子供たちにとって一番身近な「社会人」

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保育園に通っている子供たちにとって、ママやパパ以外で子供たちが身近に、他人という存在や仕事をしている人を見る機会、自分以外に様々な人間がいるといことを知る機会は、「保育園」でしかないのです。

学ぶことがメインの幼稚園とは違い、保育園は保育をしてもらう場所です。働いている両親が預けていることが多いので、基本的に保育時間は10時間前後になります。子供たちにとって1日の半分が保育園で暮らしていて、それが彼らの世界なのです。

その世界の中で生活する子供たちにとって、何かしらの影響を与えていることをママやパパと同じくらい一緒時間を共にしている、保育士自身にもそれらを理解してほしい。

資格を持っているから誰でもなれるのではなく、保育士である以上、子供を育てることに関してのプロ意識を忘れずにして欲しい。

そして、保育士は「資格」であって、肩書きではない。実際に子供たちに関わっているのはその資格を持っている「人」であることを、保育士自身もママやパパも、社会の人たちも忘れてはいけない、そう迫田さんは話します。

保育士は、どのような仕事とも肩を並べられるくらい大切で、重要な仕事だということを保育士自身が自覚し、プライドを持つことで、世の中の「保育士さん」という考えが変わるのではないでしょうか。

保育園は働くママのライフライン

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様々な視点から保育園、待機児童について迫田さんにお話いただきました。

私が、ここ数年ずっと気になっていること、「待機児童はなくなると思いますか?」と迫田さんにお伺いしたところ、「なくなると思います。」と答えてくれました。理由をお伺いすると、「少子化が進んでいるから」というもの。ものすごく寂しい形でのなくなり方だな、と感じました。

ご存知だと思いますが、保育園に預けられる保証がないから子供を産まない、と選択している人が増えているのは事実です。

私の周りにも、子供を産むことに悩む友人が多くいます。どうして子供を望む人が、会社や社会、国の制度のことを考えなければならないのでしょうか。

皆さんが生きていて水や火が必要なことと同じくらい、働くママ、働きたいママ、それらの家庭にとっては保育園がライフラインである、と迫田さんは言います。

もっと自由に、自分の好きなタイミングで子供を安心して産み、育てることがこの国ではできないのだろうか。

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