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👉【1話から読む】【地獄】満員電車に4人の子どもとベビーカー、0歳と4歳が同時泣きの悲劇
体力も精神も限界に
「右耳からは息子の甲高いぐずり声、左耳からは娘の全身全霊の泣き声。聞いているだけでどんどん私の精神を削っていきました。」
当時の状況を、美咲さんはそう語る。
彼女はまず、胸に抱いた0歳の陸くんを安心させようと、電車の揺れを利用して体を左右に揺らし始めた。
しかし、体力の尽きかけた彼女には、もはや苦行でしかなかったという。
「つらいです。でも、やるしかない。それと同時に、空いている方の手で、ベビーカーで反り返って泣く娘の背中を必死にトントンと叩き続けました。」
額から流れ落ちる汗が目に入り、視界が滲む。化粧など、とっくの昔に崩れ落ちていただろう。
もはや、自分の身なりを気にする余裕はどこにも残されていなかったと、彼女は力なく笑った。
突き刺さる視線と無言の圧力
「自分の子どもの泣き声って、不思議なもので、周囲の人にどう聞こえているのかを過剰に気にしてしまうんです」と美咲さんは言う。
チラリと視線を上げると、案の定、何人かの乗客がこちらを迷惑そうに見ていたそうだ。眉間にシワを寄せた中年男性、ため息をつく若い女性。彼らの視線は、無言の刃となって美咲さんの心を突き刺した。
「誰も口には出しません。でも、『うるさい』『どうにかしろよ』と、その表情が雄弁に語っていました。私は、まるで公開裁判にかけられた被告人のような気分で、心の中で何度も『ごめんなさい』と繰り返すことしかできませんでした」
静かにさせなければ、という焦りが、さらに彼女を追い詰める。焦れば焦るほど、子どもたちは敏感にそれを感じ取り、さらにぐずりがひどくなるという悪循環。
わかっているのに、どうすることもできなかったという。
響き渡った「舌打ち」という名の凶器
美咲さんが必死に体を揺らしながら子どもの背中をトントンとし続けていると、すぐ近くに立っていたスーツ姿の男性が、これみよがしに「チッ」と大きな舌打ちをした。
その音は、子どもの泣き声よりもずっと鋭く、彼女の心臓に直接突き刺さったという。
「ビクッと体がこわばり、全身の血の気が引いていくのがわかりました」
美咲さんは、反射的にその男性の方を向き、深々と頭を下げた。
男性は、彼女を睨みつけたまま、何も言わずに視線を逸らした。その冷たい目に、彼女の心は完全に折れてしまったそうだ。
涙とともに、「もう無理だ」という心の声がはっきりと聞こえた。完璧な母親でいなければならないという社会からの無言の圧力が、この日、ついに彼女の心の許容量を超えた瞬間だった。
社会が母親に求める「完璧」という幻想
子育て中の親、特に母親は、常に「完璧」であることを求められがちだ。子どもを静かにさせ、決して他人に迷惑をかけないように、と。
しかし、子どもは感情で生きる小さな人間だ。その当たり前の現実が、公共の場では「迷惑行為」と見なされてしまう。
たった一つの舌打ちが、孤軍奮闘する母親の心をいかに深く傷つけるか。このエピソードは、社会の不寛容さがもたらす痛みを、静かに物語っている。
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