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👉【1話から読む】【地獄】満員電車に4人の子どもとベビーカー、0歳と4歳が同時泣きの悲劇
「迷惑でごめんなさいね」という優しさ
目の前で繰り広げられる、サラリーマンによる全力の変顔。しかし、眠気と不機嫌で泣きじゃくる4歳の陽菜ちゃんには全く効果がなく、泣き声のボリュームはむしろ上がってしまったそうだ。
「『あちゃー、全然笑わねーじゃん!』と、変顔をしていた男性は頭をかいて笑いました。すると、すかさず別の男性が、私の胸でぐずる息子の頭を、そっと撫でてくれたんです。その手つきが驚くほど優しくて…」
そして、その男性はこう言ったという。
「いやいや、お前の変顔じゃ無理だろ。ほんと、うちのが迷惑かけてごめんなさいね、お母さん」
その言葉に、美咲さんはハッとしたと語る。
「『迷惑でごめんなさいね』――そのセリフは、本来なら私が言うべきもの。それなのに、なぜこの人が謝るんだろう、と。しかも、その口調は私を責めるどころか、労わるような温かさに満ちていたんです」
溶けていく氷、ほどけていく心
「いやいや、お母さん、謝ることないって!」「そうそう、子どもは泣くのが仕事だからな!」サラリーマンたちは、口々にそう言って笑った。
その屈託のない笑顔と、当たり前のように肯定してくれる言葉が、凍りついていた美咲さんの心を、じんわりと溶かしていった。
「そのうちの一人の方が、『お母さん、どこまで乗るの?』と優しく尋ねてくれました。誰もが私を”迷惑な存在”として見ていた空間で、初めて”人”として向き合ってくれた気がして、そのシンプルな問いかけが、なぜだか胸に沁みました」
美咲さんが、途切れ途切れに「〇〇駅ですが、迷惑なので次の駅で降りたいんです…」と伝えると、最初に変顔をしていた男性が、豪快に笑い飛ばしたという。
「『いいじゃんいいじゃん、〇〇駅まで! 俺たちもまだ乗ってくからさ、それまで可愛いチビちゃんたちと遊んであげるよ!』って」
「俺たちが遊んであげるよ!」最強の味方宣言
「『てかさ、お母さん。さっき誰かに何か言われたの? おい!そいつどこだー!?(笑)』って、男性が冗談めかして車両内を見回すフリをしたんです。その大声に、他の仲間の方々が笑いながらツッコミを入れて。そのやり取りで、車両内の空気がふっと軽くなったのがわかりました」
さらに、別の一人が自虐ネタで笑いを取り、その場はすっかり和やかな雰囲気に包まれた。ついさっきまで地獄の底にいたはずなのに、世界は一瞬で色を変えた。
見ず知らずの他人の、ほんの少しのユーモアと優しさ。それだけで、人の心はこんなにも救われる。美咲さんはこの時、その事実を涙とともに実感していた。
ほんの一言が、世界の色を変えることがある
人は、追い詰められている時ほど、たった一言の優しさに救われる。今回の場合、それはサラリーマンたちの「大丈夫だよ」「俺たちがいるよ」という、言葉と態度だった。
彼らの何気ない言動は、母親が一人で抱え込んでいた重荷を、いとも簡単に取り払ったのだ。
特別なことでなくてもいい。ほんの少しの共感とユーモア。それが、誰かの世界の色を、モノクロから鮮やかなカラーへと変える力を持つことを、このエピソードは示している。
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