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👉【1話から読む】【地獄】満員電車に4人の子どもとベビーカー、0歳と4歳が同時泣きの悲劇
気づけばみんな笑顔に
サラリーマンたちの陽気な笑い声が生んだ和やかな空気は、奇跡の連鎖反応を引き起こした。
その騒がしさに、窓際で爆睡していた小学生の長男・海斗くんと長女・美月ちゃんが、むっくりと体を起こす。
「『ん…なに…?』と寝ぼけ眼の子どもたちが、目の前の光景を見てポカンとしていました。無理もありません。母親が涙目で、見知らぬサラリーマン4人に囲まれているのですから」と美咲さんは笑う。
サラリーマンたちは、起きてきた二人にも「おはよう!」「お母さん、大変だったんだぞー?」と気さくに声をかけたという。
小学生二人が起きてくれたことで、美咲さんの心の負担はさらに大きく軽減された。
「奇跡はまだ続きました。あれだけ頑なに泣き続けていた4歳の娘が、いつの間にか泣き止んでいたんです。胸でぐずっていた0歳の息子も、落ち着きを取り戻していました。」
「ありがとう」では足りない感謝の気持ちでいっぱいに
「『助かりました…本当に、なんてお礼を言ったら…』と、私は何度も何度も頭を下げました。胸の中には、感謝の気持ちが泉のように湧き上がってきて…」
しかし、サラリーマンたちは「いいってことよ、お母さん!」「俺たちも楽しかったしな!」と、どこまでも爽やかだったという。
彼らは、美咲さんたちが降りる駅までのわずかな時間、本当に子どもたちの相手をしてくれた。なぞなぞを出したり、いないいないばあを繰り返したり。
その姿は、決して”迷惑な酔っ払い”などではなく、仕事に疲れながらも、誰かのために優しさを分け与えることができる、素敵な大人たちの姿そのものだった、と美咲さんは語る。
電車が、目的の駅に到着する。
「彼らは、自分たちが降りる駅でもないのに、私たちがスムーズに降りられるように人の流れをガードし、ベビーカーをホームに降ろすのも手伝ってくれました。ドアが閉まる直前、もう一度深々と頭を下げると、4人のヒーローはニカッと笑って、軽く手を振ってくれたんです。その笑顔は、一生忘れません」
いつか私も、誰かのヒーローに
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「電車でぐずる子どもを静かにさせるのは、親の務めなのかもしれません。でも、どうしても、そうもいかないピンチの時だってある。親だって万能じゃないんです」と、美咲さんは静かに、しかし力強く語る。
「この日の出来事は、私にそのことを改めて教えてくれました。冷たい視線を向ける人がいる一方で、温かい眼差しを向けてくれる人もいる。職業も、性別も関係なく、困っている人に、ほんの少しの勇気と優しさで手を差し伸べる。そんなヒーローが、この社会にはまだたくさんいるんだ、と」
この経験を経て、美咲さんの心には大きな変化があったという。
「いつか私も、誰かにとってのそんな存在になりたい。子育ての真っ最中の今だからこそ、同じように困っている誰かを見つけたら、あの日のサラリーマンの方々のように、笑顔で声をかけられるようになりたいと、そう強く思っています」
優しさのバトンは、こうして受け継がれていく
このエピソードは、単なる「子育て中の母親が助けられた話」ではない。それは、見知らぬ他者への”寛容さ”と”共感”が、いかに大切かを示す物語である。
冷たい視線や舌打ちは、人を孤立させ、心を殺す。一方で、ユーモアあふれるたった一言の優しさは、人の心を救い、明日への活力を与える。
美咲さんが受け取った優しさのバトンが、また別の誰かへと渡っていく。そうした温かい連鎖こそが、私たちの社会をより良いものへと変えていく原動力になるのではないだろうか。
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