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先生方の協力も得られ、数日後、学校の会議室でハヤトくんの保護者との話し合いが行われることになりました。私たち夫婦と、ハヤト君の父親と母親、そして先生方が同席しました。ハヤトくんの親御さんは、私たちを見るなり、どこか困ったような、疲れたような顔をしていました。
夫が、ハヤトくんからのメッセージの内容を読み上げました。相手の父親は、それを聞くと、少し顔をしかめました。母親は俯いて、何も言いません。
「うちのハヤトが、そんなことを……すみません」
相手の父親は、そう言って謝りましたが、どこか他人事のように聞こえました。先生方が、ハヤトくんの最近の学校での態度や、学習面での変化についても話してくれました。そして、ハヤトくんの親御さんが口を開きます。
「私たち夫婦共働きで、仕事が多忙なもので……。なかなかハヤトのことに目が届かなくて。放任主義というわけではないのですが、正直、ある程度自由にさせていましたから……」
ハヤトくんの親御さんは仕事で多忙なため、ハヤトくんはほとんど野放し状態。私たちは、この発言に続く言葉を聞いて、がく然としました。
「でも、もう15歳なんだし、ある程度は自己責任なんじゃないですか?」
静かに見えたハヤトくんの母親が、ふとそう言い出したのです。その言葉に、夫の怒りが爆発しそうになりましたが、私がぐっと手で制しました。
「いいえ、そんなことはありません」
私が反論しました。
「今は中学3年生です。受験期で、将来を決める大切な時期です。まだ自立していない子どもが、恋愛で勉強をおろそかにしたり、親に無礼な態度を取ったりしているのに、注意しないのが親の責任でしょうか」
私の言葉に、ハヤトくんの母親の顔色が少しずつ変わっていくのが分かりました。夫ができるだけ冷静な口調を保って続けます。
「彩加には、将来の夢があります。その夢をかなえるために、今頑張らなければならないんです。正直申し上げて、あなたの家の息子さんとは、娘を付き合わせたくない」
そう言い切った時、ハヤト君の父親の顔はどんどん赤くなり、バッと立ち上がったと思うと「どうもすみませんでした」と一言だけ言って、部屋を出て行ってしまいました。それを見たハヤトくんの母親は「息子によく言い聞かせます」と言って父親を追いかけていきました。
話し合いははっきりとした決着がついたとは言えませんが、私たちにとっては意味のあるものとなりました。正直「この親にして、この子あり」そう思わざるを得ませんでした。 ※1
「自己責任」と、言い放った親
受験期なのに、彼氏にのめり込み、成績が下降し始めた娘・彩加を心配し、ついに動き出した両親。ところが、ハヤトくんの両親は「仕事が忙しい」と、言い訳をし、あろうことか「自己責任」と言い放ったのです。ですが、冷静に反論した彩加の母。
ただ、はっきりとした決着がつかないまま、終わってしまった話し合い。その後、ハヤトくんの両親が、どのような話を彼に伝えたのかは不明ですが、よくない変化が訪れます。彩加は食欲がなくなり、顔色も優れない状態に。そこで、彩加に許可を得て、ハヤトくんとのやりとりをチェックします。すると…。
彼氏の本性があらわに
ハヤト「お前の親が、わざわざ学校に言いつけたんだろ」
ハヤト「俺の内申、下がったらどうしてくれるの?」
ハヤト「親に言いつけるとか、彩加って子どもすぎ」
ハヤト「お前のせいで、俺の受験、どうなるかわかんないな」
信じられない内容でした。自分の非を認めず、全てを彩加のせいにし、内申点を盾に攻撃している。あまりの身勝手さに、怒りよりも、ハヤトくんという人間への嫌悪感が募りました。そして、こんな言葉をぶつけられていた彩加の気持ちを考えると、胸が張り裂けそうでした。彩加の返信も、弱々しいものでした。
彩加「ごめんね…」
彩加「私だって、どうしたらいいか分からないよ」
ハヤトくんは彩加の心を深く傷つけ、追い詰めていました。彩加はそのやりとりを見た私に、涙を流しながら、震える声で言いました。
「ママ……ハヤトは、優しくなんかなかった……」
「ママたちが、守ってくれなかったら、大変なことになっていたかもしれない……。ごめんなさい……」
その言葉を聞いた時、私は彩加を強く抱きしめました。本当につらい思いをさせてしまいました。でも、これで目が覚めてくれたという安堵もありました。
彩加は、自らハヤト君に別れを告げる決意をしました。
彩加「ハヤト、私たち、もう別れよう。もう会わない」
ハヤトくんからの返信は「は?なんで?」という短いものだけでした。 ※2
ハヤトくんは、両親から強く咎められたのでしょうか。真相はわかりませんが、今度は彩加を攻撃するなんて…。ですが、彩加はようやく目が覚めます。自ら別れを告げたのです。
そして彩加は、両親に心からの謝罪をし、以前のように素直さを取り戻します。
強く、たくましくなった娘
それから、彩加は人が変わったように受験勉強に打ち込むようになりました。以前のように上の空でスマホをいじることもなく、真剣な表情で参考書に向かいます。塾にも一度も休まずに通い、分からないところは積極的に先生に質問するようになりました。
私たち夫婦も、彩加のサポートに全力を尽くしました。夜食を作ったり、分からない問題があれば一緒に考えたり。時には厳しい言葉をかけることもありましたが、彩加は素直に受け止めて、前向きに頑張り続けました。
そして、迎えた受験と合格発表。合格発表の日、彩加は真剣な表情で志望校のホームページを開きます。緊張で、私の心臓はバクバク音を立てていました。彩加も、小さく息を止めて、画面を見つめています。そして、そこに表示された自分の受験番号を見つけた瞬間、彩加は大きく目を見開きました。
「ママ!私、受かったよ!」
彩加の叫びに、私も思わず飛び上がって喜びました。夫も駆け寄り、私たち家族は抱き合って喜びを分かち合いました。流した涙は、これまでの苦労と、そして何よりも彩加の頑張りが報われた喜びの涙でした。
希望の高校に進学できた彩加は、入学式の日、本当に晴れやかな笑顔をしていました。あの時の苦悩を乗り越え、大きく成長した娘の姿に、私は胸がいっぱいになりました。
今回のできごとは、私たち家族にとって、大きな試練でした。しかし、その試練を通して、私たちは多くのことを学びました。親として、未熟な子どもを導く責任があること。そして、子どもの「自由」という言葉の裏に隠された危険を見抜くこと。何よりも、子どもの言葉に耳を傾け、時には厳しい決断を下してでも、彼らの将来と幸せを守るのが親の役目だと。
思春期の子どもとの関りには難しさもありますが、親が本当に大切なことは何かを伝え続け、最後には信じて支えること――。その積み重ねが、本当の家族の絆を育むのだと実感しました。 ※3
彩加にとっては、ハヤトくんと付き合いは、苦い思い出となってしまいました。ですが、家族で危機を乗り越え、家族の信頼関係と絆はより深まりました。これから先、また困難なことにぶつかったとしても、家族で支え合って乗り越えて行けそうですね。
本作では、娘に彼氏ができたのがきっかけで、少しずつおかしくなってしまったときの様子が描かれています。受験期も重なっていたため、危機感を覚えます。中学生は思春期もあり、難しい年ごろです。ですが、わが子の異変を放置せず、真剣に向き合った両親の強さに、勇気をもらえる作品です。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










