赤ちゃんポストとは?
赤ちゃんポストとは、色々な事情で子育てができない親が匿名で病院などに安全に保護をしてもらう為の施設やシステムのことを指します。別名「こうのとりゆりかご」とも言われており、施設名には赤ちゃんポストではなく「こうのとりゆりかご」とつけられています。
赤ちゃんポストはドイツ発祥のもので、望まない子どもを授かった女性が追いつめられて子どもの命を奪ったり、置き去りにして死なせたりする事を避けるという目的で作られました。
当初想定されていた産まれたばかりの新生児だけでなく、乳児や幼児が預けられるケースも多くあります。
赤ちゃんポストってどこにあるの?
日本に設置されている赤ちゃんポストは熊本県熊本市の慈恵病院にある「こうのとりゆりかご」1つのみです。
赤ちゃんポスト先進国ともいえるドイツのベビークラッペ(Baby Klappe)を視察し参考にして、2007年5月から赤ちゃん(新生児)の受け入れを始めました。
赤ちゃんポストは海外にも
日本には熊本県に1か所しかない赤ちゃんポストですが、似たような制度は海外にもあり、その運用は日本よりも活発です。
慈恵病院がこうのとりのゆりかごを開設する際に見本としたドイツでは、「ベビークラッペ」と呼ばれる赤ちゃんポストが少なくとも90か所以上設置されていますし、アメリカでも100か所以上の赤ちゃんポストが活用されています。
ほかにも、フランスやドイツでは匿名で出産や出生登録できる法制度があり、さまざまな形で赤ちゃんを守るための活動がなされています。
赤ちゃんポストの仕組みって?
赤ちゃんを入れる窓口「こうのとりゆりかご」は専用の通路から入った、あまり人目につきにくい場所にあります。
扉の中の保育器に赤ちゃんが置かれると反応するセンサーがあり、ブザーが鳴るので看護師などの医療スタッフが赤ちゃんを保護するというシステムです。
慈恵病院では赤ちゃんポストに預ける前にまず病院へ相談するよう促しています。相談なしに赤ちゃんが預けられた場合、警察署と児童相談所に通報します。
警察で事件性の有無が調べられ、事件性がなければ赤ちゃんは児童相談所の判断により乳児院へ移されます。
預けた後は扉を閉めると外からは開けられない様にロックがかかりますが、預けることを思い止まった時や、まずは相談をしようと思った時にはインターホンで知らせることが出来ます。
そのため保育器の横には病院の相談窓口の連絡先などが書かれた親宛の手紙が添えられています。
なぜ匿名性なの?
赤ちゃんポストは完全に匿名性で、設置されている監視カメラにも預けた人の顔は映らないようになっています。
それは、赤ちゃんの命を守るためです。匿名だからこそ預けることができ、匿名でなければどこかに置き去りにされる可能性もあるからです。
しかし一方でその匿名性が両親のモラルの低下を助長しているとの意見もありますが、最も優先すべきなのは赤ちゃんの命なので、匿名性が起用されています。
赤ちゃんポストの戸籍ってどうなるの?
身元が分かる場合は、今までの戸籍をそのまま使います。赤ちゃんの父母が育児放棄をし、赤ちゃんが児童養護施設に入ることになっても、それは住所等の問題であり戸籍の問題ではありません。
その赤ちゃんが誰かの養子になると戸籍は変わりますが、施設を移っても親の戸籍に残り続けます。
身元がわからず出生届も出されない状態で赤ちゃんポストに入れられた場合は、単独で赤ちゃんの戸籍を作ることになります。
市区町村長によって作られる戸籍が最初の戸籍となり、名付け親にもなります。熊本県にある「こうのとりゆりかご」の場合は熊本市長が名付け親となります。
赤ちゃんポストの重要性
赤ちゃんポストの存在については賛否あるかと思いますが、赤ちゃんポストが作られた背景には、10代や20代前半の若い女性による乳児の殺害・遺棄事件が相次いだことも関係しており、赤ちゃんの命を守ることを最優先に考えられたものなのです。
実際に、2007年に慈恵病院が開設した赤ちゃんポストには、2019年3月までに144人の赤ちゃんが預けられており、それだけの赤ちゃんの命を救ってきたということは事実です。また、そのうち早期新生児は76人で残りの約半数がある程度育った赤ちゃんだったことからも、母親が何とか育てようとしてきたことが伝わってきます。
赤ちゃんポストの設置については、母親の孤立出産や育児放棄の助長につながるのではないかという問題もありますが、出産や育児に悩む人のためのサポートが不足している現状から、赤ちゃんの命を守る赤ちゃんポストは重要な存在であると言わざるを得ないでしょう。
赤ちゃんポストの現状
赤ちゃんポストが設置されてから15年以上が経ち、2020年度末までに159人の赤ちゃんが預けられてきました。そのうち身元の分からない子どもは2割の31人。実の親が判明した場合でも、もとの家に戻ることなく、育ての親と養子縁組したり施設で養育されたりするケースがほとんど。このことからも、赤ちゃんのときだけ一時的に預かってもらえばよいというわけではないことがわかります。
赤ちゃんポストを設置した慈恵病院には小児科や産婦人科があり、いつ赤ちゃんが預けられても対応できるようにはなっていますが、年間の運営費用は約2千万円で寄付だけではカバーできず大半は持ち出しという現状があります。こうした人員やコスト面の負担が赤ちゃんポストの設置を遠ざけている面もあり、今後は各都道府県に1か所は赤ちゃんポストを作ることが望まれています。
赤ちゃんポストの課題・問題点
赤ちゃんポストは、どうしても育てる環境にない母親が赤ちゃんの命を守るために利用するべく作られたものですが、中には本来の設置目的から離れた理由で赤ちゃんを預ける人もおり、親が安易な気持ちで子どもを手放してしまう危険性が問題視されています。
また、赤ちゃんポストを設置した病院の人員不足や運営費用の負担、若い年齢層に対する認知度の低下による預け入れ数の低下などの問題もあり、今後の赤ちゃんポストのシステムの見直しや援助についても、考えていかなければいけない課題は山積みです。
赤ちゃんポストを使用する理由
- 望まない子供だった
- 子育てできない
- 育児ノイローゼになった
- 何らかの障害があった
理由はそれぞれありますが、経済的な理由よりも親の心の問題がより多く理由に挙げられています。さらに近年では障害児を赤ちゃんポストに預ける親が増えてきています。
赤ちゃんポストのメリット・デメリット
それぞれの意見があるかと思いますが、そもそも赤ちゃんポストのメリット・デメリットとはどういうところなのでしょうか?
赤ちゃんポストのメリット
- 赤ちゃんの命を救うことができる。
- 中絶を防げる可能性がある。
- 赤ちゃんに対する殺人や死体遺棄などの事件を未然に防げる。
- 赤ちゃんポストの存在によって出産・育児に悩む人の存在が明らかになる。
- 赤ちゃんポストに預ける前の相談が増え支援を進めることができる。
命を救うという部分では社会貢献にもなっており、中絶をすると妊娠できる可能性が低くなるとも言われていますので、女性のためのメリットとも言えるかもしれません。
赤ちゃんポストのデメリット
- 匿名性のため、両親とは二度と会えない可能性がある。
- 育児放棄を助長する可能性がある。
- 子どもが出自を知る機会を失ってしまう。
- 孤立出産の増加を招いてしまう可能性がある。
- 子どもを預けるハードルが下がり、安易な気持ちで利用される可能性がある。
両親と会えず、大人になるにつれて本当の親を探したいと思ってもなんの手掛かりもありません。子供を預かってくれる代わりになる代償は大きなものとなりますね。
赤ちゃんポストは現在も稼働中
赤ちゃんポストについて聞いたことがある人でも、日本では熊本に1か所しかないことや、これまでに150人以上もの赤ちゃんが預けられていることはご存じなかったのではないでしょうか。
赤ちゃんポストとは、大前提として赤ちゃんの命を守るために作られたもので、実際にたくさんの赤ちゃんを救ってきました。しかし、メリットだけではなく、安易な気持ちで子どもを手放してしまう人が増えることも考えられ、倫理上の問題、預けられた赤ちゃんの今後、運営上の負担などさまざまな問題や課題も持ちあがっています。
現在も稼働中の赤ちゃんポストですが、若い世代の認知度は低下しており、本来の目的を果たせない可能性も懸念されています。賛否両論ありますが、赤ちゃんを守るための赤ちゃんポストの重要性や、育児・出産に悩む方へのサポートなどは、今後も引き続き議論していくべき問題と言えるでしょう。