全てのママに好きな場所に行ける幸せを!「ふたごじてんしゃ」って何?
育児をするママたちにとって必需品でもある「子乗せ自転車」。幼稚園や保育園の送迎や日々の買い出しなど、毎日使っているママが多いのではないでしょうか。
しかしこの子乗せ自転車。「危ない」「このまま乗り続けられるのかな」と不安に感じたことはないでしょうか。特に双子や年子の場合、前後に子供を乗せるためバランスを崩しがちになり、幼稚園や保育園の荷物を入れるカゴもなく、左右に荷物をかけて不安定になることもありますよね。
子供が成長していくにつれて「転んでしまいそう...」という不安が大きくなってしまう。そんなママも多いはずです。そんなママのために今製品化に向けて動いているのが「ふたごじてんしゃ」なのです。
後部に子供用座席が2つ!三輪自転車「ふたごじてんしゃ」の特徴は?
- 前輪1つ、後輪2つの三輪自転車
- 自転車後部に子供乗せが2つ
- 自転車前部に前かご
- ハンドルロックで駐輪するためスタンドがない
ふたごじてんしゃは後輪が2輪になっている三輪自転車。後部に幼児用の座席が2つ縦に並んでいます。前部には荷物用のカゴがついていて、保育園の送迎や買い物にも便利ですよね。
道路交通法では全長190㎝、幅60㎝以内を「普通自転車」としており、ふたごじてんしゃもこのサイズに準じて設計されています。普通自転車は法律上「軽車両」で、歩道と車道の区別がある道路では、車道を通行するのが原則です(「普通自転車歩道通行可」の標識等がある歩道では、車道寄りを徐行する条件で通行可能)。
- OGK「幼児2人同乗用三輪自転車 TWB-001 取扱説明書」(https://ogk.co.jp/system/wp-content/uploads/2019/04/futagojitensha_manu2019.pdf?fbclid=IwAR1wfBlJi-I1x6blRAh54kBWyUP01AdK_nb67_RwbezLCUv4GFJl1q5p7Zc,2019年5月30日最終閲覧)
- 警視庁「自転車の定義」(https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/bicyclette/jmp/bicyclette.pdf,2019年5月30日最終閲覧)
ふたごじてんしゃを考案したのはこんなママ
「ふたごじてんしゃ」を考案したのは、中原美智子さん。現在中学1年生の長男、幼稚園年長クラスの双子を育てるママです。現在はふたごじてんしゃを製品化するため、また双子を育てるママたちがリアルに繋がれる場所づくりのための活動を行っています。
双子を育てながら、こうした活動をしていくのは本当に大変なことですよね。いったいどうして、ただでさえ忙しい子育ての傍ら「ふたごじてんしゃ」という会社を設立することにしたのでしょうか。中原さんが「ふたごじてんしゃ」を作ろうと思ったきっかけと思いを取材しました。
「ふたごじてんしゃ」が生まれるまで
3人の男の子を育てる「普通のママ」が、どうして自ら自転車を作り、またそれを製品化しようと考えたのでしょうか。ふたごじてんしゃが生まれるまでのできごとや、中原さんの気持ちの変化を追いました。
すると、生まれてきた子供たちを幸せにしたいという気持ちの中にある、ママだからこその葛藤や、大きな決断があることがわかりました。
双子が生まれたとき、1人育児との大きな違いに戸惑いました
2009年、長男が6歳の時、念願の2人目を妊娠しました。検査の結果、双子だとわかり、中原さんはとても嬉しかったそうです。しかし出産後、中原さんは1人目の子育てと、双子の子育てに大きな違いを感じはじめました。
毎日授乳、おむつ替え、寝かしつけで時間が過ぎていき、疲れ果てていました。出掛けようとしても、2人を連れて出かけることは本当に困難でした。
お兄ちゃんの時には「色々な景色を見せてあげたい」との思いから行動したのに、双子を連れては出歩く気にはなれなかった、と中原さん。双子用のベビーカーは重く、抱っこは1人しかできません。中原さんは知らず知らずのうちに、家にこもりがちになっていました。
やっと双子が自転車に乗れる年齢に成長し、自転車に乗せることにしたのですが、そこにも大きな困難を感じました。1人は前座席にすっぽり入るのですが、後ろの子供はベルトから滑り落ちてしまいそうだと感じました。また、前に体重がかかることでハンドルを取られやすく、意図しない場面でハンドルがグルンと回ってしまい、2度転倒してしまったそうです。
転ばないか常に心配しながら、子供たちの動きで揺れてバランスを崩しがちな自転車を運転することには、疲弊感を抱きました。
出かけられないことが、こんなにつらいとは思わなかった
自分の意思で、行きたい場所にでかけることができないこと。それは想像以上の苦痛だったと中原さんはいいます。
「もっと安心して自転車に乗ってでかけられるようになりたい。大きくなっても前座席に乗せるのではなく、もっと安定して子供を乗せる方法はないのだろうか。」
藁にもすがる思いでインターネットで検索をしていたところ、三輪自転車に子供を2人乗せて運んでいるブログを見つけました。「これは欲しい!」と感じ「どこで買えるのですか」とメッセージを送ったのですが、そのメッセージに返信がくることはありませんでした。
「そうか、この自転車はこの人が個人的に作ったもので、売っていないんだな...」そう思うと同時に「だったら、作ってくれる所を探そう」と考えました。しかし実際にはそれもうまくいかず「無いのなら自分でつくろう」と気持ちを切り替えたそうです。そんな思いが「ふたごじてんしゃ」を作り始めるきっかけになりました。
リアカー店に頼んで作ってもらった一台...でもこれで終わりにはしたくなかった
いくつもの自転車メーカーに、双子を乗せることができる三輪自転車を作ってほしいと掛け合いました。しかし、どのメーカーも「それほど需要がない」「そんなものはできないよ」とかけあってくれませんでした。
そんな時、自宅近くを宅配業者が三輪のリアカーを押して配達をするのを見た中原さん。「三輪だったら、宅配業さんの自転車ならいけるかも!」と思いつき、リアカーメーカーさんを探し始めました。
自転車メーカーではなくリアカー業者を訪ね、ふたごじてんしゃを作ってくれるよう掛け合い、協力してもらえることになりました。この時は2014年。自転車を探し始めてから約2年半後のことでした。試作機を作るにあたっては道交法を調べ、大阪府警に出向き「法的に走ってよい自転車を作る」ステップを踏みました。
約半年後、中原さんにとって始めての「ふたごじてんしゃ」1号機が完成。この瞬間、中原さんは本当に感動したのだといいます。子供を乗せても倒れない。心配をせずに運転できる。前にカゴがあり、荷物を横にかけなくて良い。それは中原さんが欲しいと感じていた自転車でした。
しかしこの時、中原さんの心に3年前に見たあの「ブログ」が思い出されました。
「もしも私が『こんな自転車作ってもらいました、やったー!』とSNSに書き込みをすれば、きっと私と同じように『ほしい!』と感じる人がいる。でもこのままでは、その人にこの自転車を届けることはできない」
中原さんはふたごじてんしゃを自分だけのものではなく「欲しいと望めば手に入るようにしたい」」と感じました。
自転車パーツメーカーOGKと歩みながら、製品化の道へ
しかし製品化するためにはまだまだ課題がありました。製品にするためには改良しなくてはいけない点がたくさんあったからです。しかし、この時協力してくれたリアカー店では改良まで協力関係を保つことはできず、ここで新たなメーカーを探さなくてはいけなくなりました。
いくつものメーカーをお願いする一方、2015年1月にfacebookで「ふたごじてんしゃプロジェクト」を開始。これに対してたくさんの双子やきょうだいを育てるママ、パパが賛同し、ブログなどで活動への応援を呼びかける声が上がりました。そしてその後、自転車に使われている子供乗せ椅子のトップメーカーOGKからついに協力を申し出る声がかかり、製品化への道が開けはじめたのです。2016年12月「ふたごじてんしゃ×OGK」とコラボレーション発表ができました。
まだまだ改良点や、電動アシストのことなど、様々な課題があるものの、一歩ずつ前進しているから嬉しいという中原さん。1人のママの「安心できる自転車が欲しい」という思いから、ここまでたくさんのパパママが求めていたものが製品化しつつあるのは、本当にすごいことですね。
中原さんが語る「私が”ふたごじてんしゃ”という会社を作った理由」
2016年7月、ふたごじてんしゃという1人のママの行動から始まった活動は、「株式会社ふたごじてんしゃ」という会社になりました。
会社になった理由について中原さんは「自転車を売るだけじゃなく、ママを笑顔にするための活動を幅広くしたい。そのためには会社になったほうがやりやすいことが多いのです」といいます。ふたごじてんしゃを使って、ママたちの育児をよくしたい。そのための活動をより広く大きく行うために、会社化したのです。
「ふたごじてんしゃ」は、自転車屋さんではないんです
「ふたごじてんしゃ」は企業として歩み出したのですが、"自転車屋さん"ではありません。
ふたごじてんしゃの製品化が中原さんにとってのゴールではないのです。自転車を通じてどんなママでも「自分の行きたい場所に、自分の意思で行ける」という自由を持てること。安全、安心な自転車に乗ることで、育児を笑顔で楽しめるようになることが目的です。
販売だけではなく、すでに子乗せ自転車を持っているママが短期間だけふたごじてんしゃを借りられる仕組みや、行政で貸し出しできる仕組みを作るのも目標なのだそうです。「いよいよ子供たちが大きくなってきて不安だけれど、2人を乗せるのはあと1年足らず」というママもいるはずなので、もしもこうしたサービスがあったら嬉しいですよね。
各地で試乗会、オフ会を開催!ママたちの交流の場に
ふたごじてんしゃは各地でオフ会や自転車の試乗会を実施しています。また、多胎サークル情報を集め、ママたちのコミュニティ作りや参加の手助けをする活動も行っています。活動していくうちに協力を申し出るママも現れ、ママたちみんなの大きな輪になっています。
「ふたごじてんしゃを見てみたい」というママはぜひ「ふたごじてんしゃ」のfacebookページに「いいね!」して試乗会情報をチェックしてみてくださいね。また、多胎サークルを探している方は、ふたごじてんしゃのホームページから探すことができますよ。「いいね!」によって社会に「ふたごじてんしゃ」のニーズを示すことができます。欲しいと感じた方はぜひ「いいね」してください。あわせて、多胎サークル情報の提供も必要としています。
中原さんが多胎サークルの情報を提供する理由は「ママたちが出かけるきっかけを作りたい」ということと「人はたくさんのコミュニティがあるほうが、閉鎖的にならずに色々な自分をだすことができるから」なのだそうです。ご自分が育児中に引きこもってしまい辛い気持ちになった経験があってこその活動なのですね。
家は縛られる場所じゃない!自転車をきっかけに子育てをもっと良くしたい
最後に中原さんに「ふたごじてんしゃ」でやりたいことを聞いてみました。中原さんは笑顔で「ママが行きたい場所にいける自由をつくり、ママの笑顔をつくること。家は縛られる場所ではなく、帰ってくる場所だから」と話してくれました。
育児中の大変だったことや「こんなものがあったらいいのに」という思いはみんなが持つものですが、それを「子育ては自分で望んだのだから仕方ない」と諦めたり、自分の育児が終わるまでの「一時的な思い」で留めたりせず、これから先同じ思いをするであろうママたちのために活動をすることはとても難しいことです。そんな活動が、確実に実現に向かっていっているのは本当に素敵なことですね。
ふたごじてんしゃが製品化した後の未来を見つめる中原さんの表情はとても輝いていました。取材をした私も年子を育てる1人の母として、その未来がとても楽しみになったインタビューでした。1日も早く「ふたごじてんしゃ」がママたちの手に届く日がきますように。
※画像はすべて掲載許可を得ております
※本文中に出てくる「ふたごじてんしゃ」は試作段階のものであり、製品化後のものとは若干仕様や見た目が変わる可能性があります。