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ある小児科医の決意「母親をケアして虐待予防」あなたはどう考えますか?

毎日新聞に掲載されたある記事が、ママ達の間で大きな話題になっています。大分県中津市の小児科医、井上先生に関する記事です。井上先生は1歳半健診で行われる「愛着」を確かめる検査項目から、虐待を疑う事案を発見し、母親をケアしていくことで子供を救う活動をしています。母親を助けることが子供を助けることになると先生は訴えます。

PIXTA

毎日新聞に掲載されたとある記事が注目されています

2月7日、毎日新聞に掲載されたとある小児科医に関する記事が、ママ達から注目を集めています。

小児科医の名前は井上登生(なりお)先生。大分県中津市で小児科の開業医をしています。

先生が子供の虐待を感知するきっかけとしているのが、ほぼすべての赤ちゃんが受診する、1歳半健診なのです。

1歳半健診で、虐待を感知する

健診 PIXTA

ママ達なら覚えがあるのではないでしょうか。

1歳半健診で、身体的な検査が終わったあと、赤ちゃんをママから離し、ママの居る所まで歩いてくるのを確認する検査。
あの検査は「歩けるかどうか」を確認している検査だと思っていませんでしたか?

しかしこの検査は、ママと赤ちゃんの「愛着」を確かめるための大切な「心の検査」でもあるのです。

ママと赤ちゃんの愛着

歩く 赤ちゃん PIXTA

たいていの赤ちゃんはママから引き離されると泣き叫び、たどたどしい足取りでママに向かって一直線に歩きます。

そして、ママに抱っこされると安心して泣き止むのです。

これはママと赤ちゃんの間に強い「愛着」が結ばれている証拠。ママに愛され、赤ちゃんもママが大好きでいるという証なのです。

稀に、こういった行動が無く、ママに向かっていかない場合や、立ち止まる等の行動をとる子が居ます。

保育園に通っている等、ママと離れることに慣れている子や性格上の個人差である場合もありますが、先生はこういった事例があると、ママから注意深く話を聞き、必要な場合は精密検査を行っています。

精密検査で見つかる、母と子の壁

虐待 PIXTA

実際に精密検査(SSP検査)を行った結果、ママと赤ちゃんの間に愛着が築かれない原因が見つかることがあります。

筆者もSSP検査について気になり、調べてみたので以下に掲載します。

SSP検査とは

SSP検査とは「ストレンジ・シチュエーション法(SSP)」と呼ばれ、1つの部屋でママと赤ちゃんだけで遊んでいる中に、ストレンジャーと呼ばれる見知らぬ保育士が入ってきて一緒に遊び、慣れてきたところでママが部屋を離れる検査。

離れた後に、ストレンジャーと2人だけのシチュエーションや、ママが戻ってきた場合、子供だけの場合など7つの場面を作り、その時の子供の反応や母子の様子を見て検査する方法です。

結果は以下のような4種類に分類されます。

  • ママが部屋を出ても後追いがなく愛着行動がないA型
  • ママが退室すると泣いたり不安定になるけれど、ママが来ると回復できるB型
  • 最初からママから離れず、離れると混乱し、再会しても回復しにくく、攻撃的な態度になることもあるC型
  • 急にママを求めたり、逆にママを怖がったり、一貫性が無く安定感がないD型

SSP検査で問題が見つかった場合、主にママのケアを開始します

相談 PIXTA

この検査で問題が見つかった場合、井上先生の病院に併設する発達相談室の保育士により、ママへのケアが開始されます。

育児経験が浅くママが疲れてしまい、ネグレクト(育児放棄)になりかけている場合もありますが、保育士により、子供への声掛けの仕方やスキンシップの方法をきめ細かく指導し、その過程も動画に残してママを褒めることで、意欲を引き出しているのだそうです。

こうした「母親へのケアによる虐待予防」は井上先生が草分け的存在で、強い意志を持って推し進めてきたものなのです。

忘れられない事例「たった4㎏の3歳児」

点滴 PIXTA

井上先生にとって忘れられない事例があります。それは、先生の病院を訪れた1組の母子。

子供は3歳半。しかし、体重がたったの4㎏しかありませんでした。寝返りもできず、食べ物は食べず、哺乳瓶でミルクを飲んでいました。

発達レベルが生後2、3か月。先天的な最重度の心身障害児だと診断を受けていました。

しかし、先生が診ると、障害児とは違う反応を見せる場面があり、先生は虐待(ネグレクト)を疑います。

入院と「愛着」のケアで劇的に改善

先生はその子を入院させ、高栄養のものを哺乳瓶で与えながら、特定の看護師と「愛着」を形成できるケアを始めました。

すると劇的に体重が増え、発達もどんどん進んでいったのです。やはりネグレクトによって、成長が止められていたのでした。

しかし母親を責めることはしなかった

女性 相談 PIXTA

通常の感覚で言えば、この母親は「虐待した母親」。世間的に見たら鬼のような存在です。筆者もこの話を読んだ瞬間は、母親への怒りが止まりませんでした。

しかし、井上先生はこの母親を責めませんでした。逆に子育ての苦労をねぎらい続けたのです。

引き継がれていた負の連鎖

悩む PIXTA

初診から2年半が過ぎたある日、母親はこう切り出しました。「私、おかしいんかなあ」

聞くと、この母親は小さいころ、養父から性的虐待を受けていた。それを最も助けるべき実母には、知らないふりをされていたのだという。

兄弟の中で虐待されていたのは自分だけ。そんな経験から、家族に不幸な人間が1人いないと許せない気がして、生まれた子供にこんな虐待をしていたのでした。

この言葉に井上先生は「お母さんの気持ちはわかるよ」と受け止めます。

そのことでこの母親と先生の間に信頼関係が生まれ、その後も子供は虐待されることなく順調に育ったのだそうです。

否定せず、受け止めることが大切

医師 PIXTA

井上先生は多くの事例を見てきた経験から、虐待する多くの親が、自分も子供の頃になんらかの虐待を受けている被害者だと語ります。

親から肯定されたり共感された経験が乏しく、自分の子供にも共感ができない。そして、周囲に批判されたり否定されると、過去がフラッシュバックしてきて回避しようとしてしまう。

否定するともう井上さんの病院に来なくなってしまう。だから否定は絶対にしない、徹底的に寄り添う。
それが虐待予防への最大の近道だといいます。

その結果、SSP検査の後から先生や発達相談の保育士のアドバイスを受けて「今は育児が楽しくて仕方ない」というママもいるほどなのです。

母親を受け止め、寄り添うことでの虐待予防、あなたはどう思いますか?

守る PIXTA

幼児・児童虐待は決して許されるものではありません。

子供にとっての安全基地であり、唯一無二の存在であるママが、子供の心身を破壊するような行動をすることは、決して命を奪っていなくても、子供にとっては死と同じほどつらいことです。

そんな行動をとってしまったママや、そうなりそうなママに対して、「否定をしない」虐待予防。

子供を守るために、母親から子供を引き離したり、母親に対して「あなたは母親としての資格がない」と言い放ちたくなる事例。

それでも母親に寄り添い、認め、信頼関係を気づく方法は、筆者にとっても、一母親として衝撃を受ける方法でした。

どんな母親でも、子供に対して否定的な態度を取ってしまうことはあります。

そんな母親の「母親になりきれない」「1人の人間としての弱さ」を温かい優しさで包んでくれるケアは、心に響くものがあるのかもしれません。

みなさんは母親のケアと虐待予防について、どんな風に考えますか?

虐待予防 小児科医の挑戦(その2止) 子供を救う近道

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