「ゼーゼー」「ヒューヒュー」はもしかして...
赤ちゃんが咳や鼻水でつらそうにしている姿を見ると「代わってあげられたらいいのに...」と胸が痛みますよね。
その症状、「RSウイルス感染症」かもしれません。
ママリにも、RSウイルス感染症に関する質問が寄せられています。
「RSウイルス」ってどんなウイルス?
赤ちゃんがかかる呼吸器系の感染症のなかでも、とても身近な存在な「RSウイルス感染症」について、産婦人科専門医の三輪綾子先生にお話を伺いました。
RSウイルスに感染すると、発熱・咳・鼻水など、風邪によく似た症状から始まります。潜伏期間は4~5日ほど(※3)とされ、その後、数日間症状が続くことがあります。
RSウイルスは世界中に広がっていて、どの年代も繰り返しかかる感染症(※4)です。ほぼすべての子が2歳までに感染するといわれています(※1)。
※1:国立感染症研究所: 病原微生物検査情報35(6): 5, 2014
※2:Kobayashi Y et al.: Pediatr Int 64(1): e14957, 2022
※3:堤裕幸: ウイルス 55(1); 77, 2005
※4:国立感染症研究所: 病原微生物検出情報35(6): 137, 2014
生後6ヵ月未満は重症化する恐れも...
多くは軽症で済みますが、重症化すると喘鳴(ぜんめい)といわれるゼーゼーと呼吸がしにくくなる症状や、呼吸困難、場合によっては、気管支炎、肺炎などの症状がみられます。
重篤な合併症として注意すべきものには、無呼吸発作や急性脳症などがあります(※5)。
初めてRSウイルスに感染すると、ウイルスが肺に達しやすく、特に生後6ヵ月未満の赤ちゃんは免疫機能も未熟なため、罹患すると重症化することもある(※2)ので注意が必要です。
国内では2歳未満のRSウイルス感染による受診者が年間10万人以上、そのうち約3万人がRSウイルス感染症で入院していると言われています(※6)。RSウイルス感染症に対する確立された治療法はありません。そのため、症状をやわらげる対症療法や呼吸困難を助ける治療が主体になります(※7)。呼吸困難が強いなどの重症の患者さんは入院して、酸素投与や人工呼吸器で対応します(※8)。
※5 出典:厚生労働省「RSウイルス感染症に関するQ&A」(令和6年5月31日改訂)
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rsv_qa.htm)(2025年8月参照)
※6:堤裕幸: ウイルス 55(1): 77, 2005
※7:国立感染症研究所: 病原微生物検出情報 35(6): 5, 2014
※8:Chirikov V et al.: Clinicoecon Outcomes Res 14: 699, 2022
スウェーデンの報告では、乳児期にRSウイルス感染症で入院した子どもは、3歳時点でのぜん息の発症率が、乳児期にRSウイルス感染症で入院しなかった子どもと比較して21.8倍高かったことが報告されています(図1)。
また、赤ちゃんのRSウイルス感染は、家族に精神的・身体的・経済的・生活面で大きな負担を与えてしまう可能性があります(図2)。
重症化を引き起こすリスクとは?
RSウイルス感染症は、重症化を引き起こす要因もいくつか知られています。
過去の研究からわかっているケースを一部ご紹介しますね。
- 医師より早産に注意するよう指摘されたことがある(切迫早産と診断された)(※9)
- 生後6か月までに託児所等を利用される予定がある(※10)
- 保育園や幼稚園に通っている兄弟がいる(※10)
もちろん、これらにあてはまるからといって、必ずしも重症化や入院につながるとは限りません。保育園に通っている兄弟がいる場合は、感染のリスクが高まるとされており、24時間の親子同室入院となるケースも少なくありません。その際には、上のお子さんのお世話にご家族が苦労されることもあるようです。
「ちょっと気になるな」「心配かも...」と思うときには、早めに医療機関へご相談ください。
※9 出典:厚生労働省「RSウイルス感染症に関するQ&A」(令和6年5月31日改訂)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rsv_qa.htm)(2025年8月参照)
※10 Simoes EA.: J Pediatr. 143: s118, 2003
赤ちゃんを守るためにママができること
ご家庭にRSウイルスでつらい思いをしたお子さんがいると「赤ちゃんを守りたい」という気持ちはますます強くなりますよね。
「赤ちゃんは生まれて半年はママからもらった免疫があるから大丈夫」と聞いたことがあるママや妊婦さんもいるかもしれません。
三輪先生によると「母体から血液を通じて、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除する役割をもつ『IgG抗体』が移行します。ただ『生後半年は病気にならない』というのは誤解です。感染予防は必要です」と説明します。
では、具体的にどんなことに気をつければいいのでしょうか。
日常的にできる感染対策は?
RSウイルスは咳やくしゃみといった「飛沫(ひまつ)感染」だけではなく、ウイルスが付着したものを触ることで起こる「接触感染」などでも広がります。
そのため、咳やくしゃみの症状がみられるときにはマスクを着用し、飛沫感染を防ぎましょう。
また、日常的に触れるおもちゃや手すりなどはこまめにアルコールなどで消毒し、流水・せっけんによる手洗い、手指消毒といった、日常生活でできる基本的な感染対策も欠かせません。
リスクに備えるための選択肢──「母子免疫ワクチン」と「抗体製剤」
RSウイルスのリスクに備える方法として、「母子免疫ワクチン」や「抗体製剤」といった選択肢も出てきています。
母子免疫ワクチンは、妊婦さんが接種することで、RSウイルスに対する「抗体(免疫を守るはたらきをする物質)」が体内で作られ、抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに届き、生まれた瞬間からRSウイルスの重症化を抑制する効果が期待できます。
また、抗体製剤は、生まれてきた赤ちゃんに抗体を直接投与することによって、赤ちゃんの感染や重症化を抑制する効果が期待できます。
母子免疫ワクチンについては、接種できる時期や対象が決められており、抗体製剤については、接種できる対象の方、効果の持続期間、接種回数などが異なります。気になる方は医師にご相談ください。
正しい知識をもって今できることを
RSウイルス感染症は、赤ちゃんにとっては重い症状につながることもあります。日頃から感染対策を心がけつつ、ワクチン接種や抗体製剤については、まずはかかりつけの医師にご相談を。
自治体によっては費用をサポートしてくれるところもありますので、お住まいの地域の制度もチェックしてみてくださいね。
正しい知識や感染対策の積み重ねが、赤ちゃんを守る大きな力になりますように...。
ABR45P062A 2025年10月制作
