何でもない毎日が、幸せだと気づく瞬間…
愛する人と結婚して、子供が生まれて、毎日ささいなことで笑ったり、喧嘩したり。
何の変哲もない日常のように感じられますが、実はそれがとても幸せな日々であると気づかされる瞬間があります。
2年前の6月、突然に夫のがん宣告を受けた、ともこさんもその一人。
ともこさんはそのとき、何を思い、何を感じ、どのような決断をしてきたのでしょうか。
決して他人事ではない、「夫の死別」と向き合ってきた一人のママに、お話をうかがってきました。
元気な夫が受けた、突然のがん宣告
今回お話をうかがったともこさんは、1年前の3月、すい臓がんで夫・まさみさんを亡くしました。
現在は、6歳の娘さんと一緒に暮らしています。
ゆっくりと時間をかけ、少しずつ日常に戻りつつあるというともこさんですが、自分が夫と死別するなんて考えもしなかったといいます。
判明のきっかけは「胃痛」
夫のまさみさんは、がんが判明する数週間前から胃痛を訴えていたそうです。
普段は「痛い」と言わない人だったので、すぐさま病院に行くことに。
「薬を処方されてもよくならず、別の病院で胃カメラを飲んでも“逆流性食道炎”といわれるだけ。
痛みが引かないので、大きな病院で検査してもらったら『肝臓に大きな影がある』といわれました」
検査の結果、末期の“すい臓がん”と宣告されたまさみさん。ステージⅣbで、ほかの臓器に転移している状態でした。
「すい臓がんは見つかりにくく治しにくいので、“がんの王様”と呼ばれているんです。
がん宣告された当時、夫は36歳。まだまだ若いし、とても元気な人でした。
結婚して4~5年だったし、娘もまだ3歳。健康にも気を付けていたのに、なぜ?という気持ちでした」
通院しながらの闘病がスタート
※提供:ともこさん
間もなくして、通院しながら抗がん剤の投与が始まりました。
副作用が心配されていたものの、まさみさんは意外にも元気いっぱいだったそう。
「夫はとても明るい人で、『大丈夫だよ!心配しないで。僕、治すから!』と言っていました。
今思えば、夫は私を元気づけようと笑っていてくれたんですよね。
がんで休職することになった際も、『神様がくれた休みな気がする。家にいるっていいなぁ』なんて言っていて。
娘と夫が毎日遊ぶ姿を見たり、みんなでお出かけしたり、幸せを感じることも多い日々でした」
しかし、突然に現実を突きつけられる日がやってきます。
「抗がん剤の副作用で夫が高熱を出し、うなされて苦しんでいる姿を見て、がんの怖さを思い知りました。
それで、いくら気丈にふるまっていても、夫はがん患者なのだと改めて認識したんです。
判明から3~4ヶ月で副作用が出て、4~5ヶ月のときに頭髪がすべて抜けて…年末にはぐっと具合が悪くなりました」
お金の不安は、心の不安に
まさみさんが次第に弱りゆく姿を見て、ともこさんは不安を抱えるようになったそう。
がんが判明してからは、まさみさん・ともこさんともに休職。公的制度や保険で治療費はまかなえているものの、日々の生活にもお金がかかります。
「がんの免疫療法の場合は保険が適用されず、このとき考えていた免疫療法は5回の投与で100万円以上。効いたら何年も続けるかもしれない。
お金のことは任せて!と夫に宣言したものの、娘もまだ小さいですし、突然不安になってしまったんです。
お金の不安は精神状態に大きく関係するから、夫との喧嘩にもつながってしまいました」
余命宣告を受け、夫は…
年末には寝ていることが増えたまさみさんでしたが、年明けには少し元気が戻り、家族でスキー旅行を決行!
家族の思い出が作れてよかった…と思った矢先、先生から悲しいお知らせを聞くことになりました。
「旅行のあとは抗がん剤が効かなくなり、先生から『できることがなくなりました』と聞かされて。
2月15日、夫の37歳の誕生日に、夫は余命1ヶ月を宣告されたんです」
※提供:ともこさん
ただでさえつらい状況を、誕生日当日に聞かされたまさみさん。
さすがにショックだろうと思ったともこさんでしたが、まさみさんは表情ひとつ変えずに話を聞いていたそうです。
「夫が、『先生がおっしゃることはよくわかります。でも、僕、生きようと思います』と言ったんです。
生きられないと言われ続けても、生きたいと思う気持ち。これには娘の存在が大きいでしょうね。
娘に悲しい思いをさせたくないという気持ちが、彼を支えていたのだと思います」
奇跡のような最期の1週間
3月を迎えたある日の朝、まさみさんが「もう病院に行きたい」と言ったことをきっかけに、緩和ケア病棟への入院が決まりました。
何もできず、自宅で弱りゆく自分を感じるのがつらかったのでは…と、ともこさんは振り返ります。
「入院中、病室で私は毎日泣いていたんですが、夫は『笑顔が好きだから笑っていて』と言いました。
そこで、私ができるのは笑っていることだと気づいたんです。
本人はしゃべるのもつらい状態でしたが、逝く前に1週間、元気な状態に戻ったんです。
ジュースを飲みながらテレビを見て、家族と笑いあって、時々冗談も言って…。最期に彼が、私に残してくれた思い出です」
娘がいるから、今私は笑っています
9ヶ月の闘病の末、亡くなったまさみさん。
ともこさんは、限界まで懸命に生きたまさみさんを誇らしく思う反面、初めは「夫が死んだ」という事実が信じられない日々だったといいます。
「娘もまだ小さいから、『死』というものがいまいち理解できていないようでした。
父親に会いたいと大泣きした翌日には、ケロッとしている。その繰り返しで、どうすればいいのか分かりませんでした」
※提供:ともこさん
「でも、時が解決するということもあり、だんだんと落ち着きを取り戻していきました。
今だって、二人で泣きます。娘も小さいながらに私を支えようとしてくれているし、娘がつらいときは私が彼女を支えます。
娘がいなかったら、今笑っている私はいません。生まれてきてくれて、本当によかった。そう思います」
「人生には、思いもよらぬことが訪れます。私たちみたいな不幸は起こらないでほしいと思うけれど、病気は人を選びません。
子供がいると、毎日大変で、必死に過ごしていますよね。時には家族の嫌なところが目について、不満ばかり募ってしまうかもしれません。
でも、家族が一緒にいて、みんなで笑っている…実はそれだけで幸せなんだと気づきました」
※提供:ともこさん
「夫の病気が判明してから、今後の家計について夫と話し合いましたが、闘病中の本人を前にして『死んだらどうする?』なんて言えませんよね。
病気になったときは、どの蓄えをどう使うか、健康なうちから話し合っておくといいと思います。
そして、病気をいかに早期に見つけるかが大切。家族みんなで体調を気遣いながら、日々過ごしてほしいと願っています」
未来の生活の選択肢を増やすためには
子育てや家事に追われる毎日ですが、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
夫に万が一のことがあったら?子供のこと、夫婦のこと、そして家族の未来のこと。
もしものときに備える“お守り”として、保険について家族で考えておくと安心ですね。
撮影:岡村大輔