「歯ぎしり」「顎の突き出し」「指しゃぶり」…これってやめさせた方がいいの?
子どもがついついやっている癖にはいろいろなものがありますよね。中には「これはやめさせた方がいいのかも…」と心配になってしまうもの。
中でも「お口の中」に関するものは、子どもの将来を考えるママやパパにとって、大きな悩みとなっていることも多いようです。
その癖や行動が、子どもの将来にどう影響するのか。一度気になりだすと心配になり、やめさせるにはどうすればいいのか悩んでしまいますよね。
小児歯科医に聞く!「歯ぎしり」「指しゃぶり」って放っておくとどうなるの?
実はそんなお子さんの行動から、お口の中で起きている問題を、ある程度予想することができるそう。
今回は、普段から実際に子どもたちの歯を診察、治療を行っている小児歯科医、平場ドクターに話を聞きました。
「よく相談を受ける指しゃぶりや歯ぎしり以外にも、お口が開いている状態や、正中がずれている状態など、意外と気づいていないお口の異常も実はたくさんあります。
その癖がどのようにお口の状態と関係しているかについてもぜひ知っていただきたいです。」
Q:歯ぎしりとはどんな行動のこと?
「一般的にはギリギリと音が鳴るように歯をこすり合わせる行為を指すことが多いですが、これは歯ぎしりの分類の一つで、他に2種類、合計3つのパターンがあります。
- グライディング(ギリギリ)
- タッピング(カチカチ)
- クレンチング(食いしばり 音がしない場合もある)
特に3つ目のクレンチングは音がしないので、気づかないことが多く注意が必要です。」
Q:お口の中ではどんな問題が起きているの?
- 噛む力が強すぎる
- 過蓋咬合(前歯のかぶりが深い)
- 歯並び・噛み合わせに何らかの異常がある可能性
「遊びと同じで、子どもは自分の体力を使い切るまで体を動かします。噛むことが好きな場合、噛む力を最大限に使って歯ぎしりをしてしまいます。
過蓋咬合の場合は、深くかぶっている前歯が感覚的に邪魔になるのでそれを押しのけるような意味合いで歯ぎしりをしている可能性も。
また、例えば噛み合わせが不安定だった場合、落ち着くところを探すような意味合いで歯ぎしりをしていることも考えられます。」
Q:歯ぎしりを放っておくとどうなるの?
「永久歯の生え方に悪影響が出る場合がありますし、歯のすり減りによる知覚過敏や噛み合わせの悪化なども考えられます。
また、顎関節症のリスクが増えること、頭痛や肩こりなどにもつながってしまう可能性もあるんです。」
Q:受診の目安、初診時に伝えることは?
「年齢を問わず、お子さまを日々観察していただく中で歯ぎしりに気づいたら、一度受診してもらうことをおすすめします。
受診時は、歯ぎしりの頻度、いつやっているのか、どのようにやっているのか、それによって痛みなどの症状はあるのかなど、医師に伝えていただくといいと思います。」
Q:家庭で何かできることはありますか?
「歯ぎしりの原因はさまざまで、ストレスなどによる心因性からくるものと、強い咬合力(こうごうりょく)など、物理的な要因からくるものなど、多岐にわたります。
これをしたら治るというものではないですが、歯ぎしりの予防のためにできることをいくつかご紹介します。」
噛む力をつけすぎない
「氷や飴、おせんべいなどの硬いもの、また、グミやガム、スルメなど、いつまでもお口に残るものを食べすぎることがないよう注意が必要です。
食事のときは、お口にたくさん食べ物を入れたり、急いで食べたり、噛む力が強くなりそうな食べ方は避けましょう。」
上下の歯が触りやすい姿勢に注意する
「下向きの姿勢は、上下の歯が接触しやすく、歯ぎしりにつながりやすいと言われています。床でのお絵描きや、高めの枕など、体に対して首が前傾してしまう姿勢には注意してください。」
体を動かして遊ぶ時間を増やす
「特に、動かず何かに集中しているときに歯ぎしりや食いしばりが出やすいので、普段から体を動かす遊びを取り入れていただくといいと思います。」
「顎の突き出し」が気になる…放っておくとどうなるの?
ここからは、こちらもママのお悩みとして多かった「顎の突き出し」について。赤ちゃんのころは気にならなくても、月齢が進むにつれ心配になったというママも多いのでは?
Q:「顎の突き出し」とはどのような状態のこと?
「下の顎を日常的な位置より前方に動かす動作のことです。お子さまは泣くときによく下の顎が出て「へ」の字口になりますよね!
笑ったり、表情を変えたりするときに、同じような状態になっているとしたら、少し観察してもらうといいと思います。」
Q:顎の突き出しの原因は?そのままにしておいていいの?
「顎の突き出しの原因は、下顎の位置がそもそも前方に位置しやすいバランスになっている『反対咬合』の可能性、もしくは、噛み合わせが深いために、下顎が動きにくく顎の筋肉が窮屈な状態にある『過蓋咬合』の可能性が考えられます。
そのままにしておくと、『反対咬合』だった場合には、その度合いがさらにひどくなってしまうこともあるので受診をおすすめします。
逆に『過蓋咬合』だった場合は、筋肉の凝りをとったり、ストレッチのような感覚でやっていたりと、決して悪いことではないので、そのまま様子をみていただきたいです。」
Q:受診の目安、初診時に伝えることは?
「基準の年齢はないですが、顎の突き出しは、上下の前歯が出てきたあと(1歳以降)から見受けられる場合が多いです。
親御さんの感覚で気になれば、おそらくそれなりの頻度で見られると思うので、気になったらまずは受診してみてください。受診時には、頻度、タイミング、噛み合わせの状態を見て欲しいと伝えてもらうといいですね!」
Q:家庭で何かできることはありますか?
「お口が開いてしまっていると、下顎が前方に動きやすくなってしまいます。下顎の位置がそもそも前方に位置しやすいバランスになっている『反対咬合』の場合、なるべくお口が閉じている時間が増やせるといいと思います。
下顎が動きにくく顎の筋肉が窮屈な状態にある『過蓋咬合』だった場合は、先ほどもお話しした通り、悪いことではないので、無理にやめる必要性はないです。」
少し開いているだけでも「お口ぽかん」?離乳食と関係も
「ぽかん」と聞くと、大きくお口が開いている状態が連想する人が多いですが、実は、上下の唇が少しでも開いていればお口ぽかん(開口状態)としてみる必要があるのだそう。
Q:「お口ぽかん」で考えられる、お口の中の問題は?
「上下の唇が開いていることでさまざまなデメリットがあります。口呼吸、開口、出っ歯、顎の位置が定まらないなどさまざまなことが考えられます。」
Q:「お口ぽかん」には原因があるの?
「お口が開いてしまう原因は、主に上唇の形が成長とともに適切に変化していないことと関係があります。
唇はそもそも、意識をして閉じるものではなく、自然と上下の唇が閉じるように成長していることが大切なんです。その最初のポイントが、離乳食開始のタイミングです。」
Q:「お口ぽかん」と離乳食の関係を詳しく教えて!
「離乳食を通して、上下の唇を閉じてモグモグすることを覚えると、その後、上下の唇が自然と閉じやすい形に成長していきます。
下唇にスプーンを置くと、赤ちゃんは反射的に上唇を下ろし、パクッと上下の唇を合わせて食べます。これは、乳児に備わっている反射運動です。
この食べ方を意識して食事をとることで、上下の唇を自然と閉じやすい感覚を身に付けることができます。」
Q:「お口ぽかん」を放置すると、将来どのような影響がある?
「お口ぽかんを放置すると口呼吸になりやすく、口呼吸が定着すると、お口の中が乾燥し、口臭や歯の着色、虫歯の原因につながります。
また、唇の力が前歯にかからなくなることで、出っ歯や開口(奥歯は噛んでいるのに前歯が噛み合わない状態)など、歯並びや噛み合わせにも影響が出てしまいます。
さらには、上顎に対して下顎の位置がずれやすくなったり、お口が開くことで締まりのない間の抜けた印象の顔立ちになってしまったりすることも。」
Q:受診の目安は?
「離乳食を始める前(生後5か月になる前)に、一度歯医者さんでアドバイスをもらうとよいでしょう。
それ以降でも、お口がいつも開いているなと感じたら、なるべく早く歯医者さんで診てもらうことをおすすめします。」
Q:家庭で何かできることはありますか?
「日常でお口が開いている度に注意してもなかなか閉じられない場合がほとんどなので、食事のときに集中して『口を閉じて食べましょう』と声掛けをしてもらうとよいです。
食事中は顎が上下左右に動くので、普段よりも唇を閉じる力がより必要になります。そういった意味でも、食事中は唇を閉じる力を付ける効果的な時間と言えます。
また、お口にたくさん入れてしまうと、口が閉じにくくなるので、量に気を付けて食事を入れるようにしてください。
ブクブクうがいや頬っぺたのふくらましなど、唇を閉じて行う動作や遊びを取り入れるのもおすすめです。」
「指しゃぶり」をやめるなら早い方がいい?今すぐ家庭でできること
一口に指しゃぶりといっても、吸っている指の種類や、吸い方、入れている本数など多岐にわたりますよね。指しゃぶりをやめさせるために、普段から家庭でできることについても聞いてみましたよ!
Q:「指しゃぶり」はいつまでにやめるのが理想?
「まず、親御さんから見て日常的に指がお口に入っていると感じたら、それは指しゃぶりだと思ってしばらく観察してもらうといいと思います。
一般的には、2歳半~3歳ごろまでにはやめられるといいですが、それより早くやめられる場合には、もちろん早い方がよいです。」
Q:「指しゃぶり」は将来どのような影響を与える可能性がある?
- 指の入る角度によって上下の顎の位置関係が悪くなりやすい
- 歯が指で押されるため、出っ歯になったり開口になったり、歯並びに影響する
- 唇が閉じられない時間が増え、お口ぽかんになりやすい
- 舌位が悪くなることで言葉の発音などに影響する
- 精神的な依存
「長期間の指しゃぶりがあると、上記のような問題点が成人期まで残ってしまい、矯正が必要になったり、顔立ちのコンプレックス、発音に影響が出たり、さまざまな問題につながる可能性があります。」
Q:「指しゃぶり」で歯医者さんを受診してもいい?
「指しゃぶりは、やめさせたいと思っても、なかなかすぐにはやめられないのが現実です。そのためにも、受診時期はやめさせたい目安の月齢から逆算して考えることが大切です。
基本的には半年ぐらいはかかるので、ゴールを2~2歳半とした場合、そこから逆算して1歳~1歳半ごろに一度歯医者さんで相談されるといいと思います。」
Q:家庭で何かできることはありますか?
- 指しゃぶり防止の苦いマニキュアを使う(安全性に配慮されたもの)
- 手持ち無沙汰な時間を極力減らす
- 手を使う遊びなどを通して意識を指しゃぶり以外に誘導する
- なるべく吸う動作を伴うグッズ(おしゃぶり・ストローマグなど)をやめる
「親御さんの『指しゃぶりはよくないこと』というお声がけ以外で、上記の方法も試してみるのもいいと思います。」
あれ?ちょっとずれてるかも…「正中のずれ」の原因と家庭でできる対策
歯の真ん中のライン、お顔全体でいうと、鼻と顎の先端を結んだ線のことを正中と言います。ここからは、そんな正中のずれによって起こりうる問題、また家庭でできる対策についてお話を伺いました。
Q:正中のずれとはどの程度のずれのことを言いますか?
「正中のずれとは、上下で噛んだときに前歯の正中線(前歯と前歯の間)の位置がずれていることを指します。」
- 1mm以内であれば許容範囲
- 1〜2mmで注意が必要
- 2mm以上は矯正など歯並び・噛み合わせの治療や指導が必要
「上下の歯が2本ずつ生えてくる7~8か月ぐらいですでにずれている場合や、成長とともに徐々にずれてくる場合とさまざまです。
歯磨きのときなど、ずれていると感じたら、一度歯医者さんで診てもらうことをおすすめします。」
Q:お口の中ではどんな問題が起きているの?
「歯における正中のずれは、下顎の位置のずれを意味します。頬づえや寝方の癖などによって、左右不均等な力がかかっていたり、食事の際に使い方に偏りが出てしまったりすることで正中がずれる場合があります。
また左右の顎のずれは、矯正でも治療が難しい場合が多いので、なるべく低年齢の時期にずれていく原因に気づくことが大切です。」
Q:正中のずれを放っておくとどうなるの?
「ずれが大きくなると、顔の見た目が歪んだり、噛み合わせが悪くなったり、顎関節症のリスクも高まるなど、さまざまな問題が出てきてしまうので注意が必要です。」
Q:家庭で何かできることはありますか?
寝ているときの向き癖や、普段の姿勢を見直す
「寝ているときの向き癖や、うつぶせ寝で床や手が顎を押してしまっている場合など、寝ている時間に顎に左右非対称の力が加わっていないか確認する必要があります。就寝時は時間そのものが長いので影響が大きくなります。
あとは、頬づえなど、日常生活の中にも顎に対して左右非対称の力がかかる癖はたくさんあるので、そのような癖がないかどうか確認していただくといいと思います。」
食事の仕方を見直す
「右利きのお子さんの顎は左にずれやすい傾向があります。また、食器が上手に持てない場合が多いので左手が遊んでしまい、体が左へ傾いたまま食べてしまうことも。
体が左に傾くと、顎も重力で引っ張られ左にずれやすくなります。左で噛んでいることが多ければ、右で噛むように誘導し、なるべく食器は持ちやすいものにして体が傾かないように注意してあげてください。」
平場ドクターからママ・パパたちへメッセージ
「お子さまの歯並び・噛み合わせは、すべて遺伝で決まっているわけではなく、日常の生活習慣や食事とも関係して、良い方向にも悪い方向にも成長します。」
0歳〜3歳の時間を有意義に使いましょう!
「年齢が小さいときに、歯並び・噛み合わせを少しでも良い方向に向けるための知識やアドバイスがあれば、その子の成長する時間をより有意義に使えると思います。
お子さまは日々成長していくので過ぎた時間は戻りません。だからこそ、早めに歯医者さんで歯並び噛み合わせのためにできることのアドバイスやサポートを受けていただければと感じます。」
悪くならないために小さいときから歯医者さんへ
「今は『虫歯ができないように歯医者さんへ』という時代。歯並び・噛み合わせについても『悪くならないために小さいときから歯医者さんへ』を多くの方に知っていただきたいと思っています。」
生活習慣に着目した診断とお子さまに合った治療法を提案!「Sodachi歯科プロジェクト」
小さいころからの意識付けで、歯医者さんへの苦手意識も軽減させてあげられそう!今できることから始めたい!そう思った方もきっと多いですよね!
そんなみなさんにぜひ知って欲しい、あるプロジェクトがあるんです。小さいころからの生活習慣に着目した診断と、お子さまそれぞれに合った治療法を提案してくれる「Sodachi歯科プロジェクト」です。
小児歯科デビューをして、ぴったりのアドバイスをもらおう!
自分自身では意識できない赤ちゃんのため、少しでも不安や疑問を感じたらぜひ気軽に来院してみてくださいね。みなさんの小児歯科デビューを応援しています!
監修:高田泰、平場鉄也