※記事内の写真はすべてイメージ画像です。ムコ多糖症の患者さんではありません。
モヤモヤした不安をそのままにしないで
お話しいただくのは、佐賀県で小児科医として活躍する円城寺しづか先生と垣内俊彦先生。
とても珍しい「ムコ多糖症」の発見・診断に関わった先生方ですが、発見したきっかけはどんなことだったのでしょうか?
発見のきっかけは幼稚園の定期健診から
──今回のムコ多糖症の子どもは、円城寺先生による幼稚園での定期健診がきっかけだったと聞いています。最初はどんなことから気づいたのでしょうか?
円城寺「その子どもを見たときに、おや?と思いました。ムコ多糖症には特有の顔つきがあって、その特徴が出ていたんです。
幼稚園の先生に普段の様子を尋ねてみると、発達の遅れがあることもわかりました。
ご家族の中では特にお母さんも発達の遅れを気にされていたものの、相談先がわからなかったようです。そこで一度私の医院に来ていただき、正確な診断のために垣内先生へ紹介状を書きました」
垣内「私のところではいくつかの検査方法を用いて確定診断を行いました。結果はやはりムコ多糖症でした。かなりめずらしい病気で、おそらく佐賀県では初の診断事例ではないでしょうか。
診断直後はご家族もショックだったようですが、今後の治療方針についてご説明したところ、病名がわかったことや治療法もあることを知り、かえって安心されたようです。
“これから前向きに治療に取り組んでいけそうです”とおっしゃっていました」
治療の成果でご家族にも明るい表情が
──治療を開始してからの変化はありましたか?
円城寺「垣内先生がムコ多糖症の主治医、私が小児科のかかりつけ医としてその子どもを診ていますが、今は表情が生き生きしています」
垣内「ムコ多糖症の症状のひとつで、いびきや睡眠障害の原因になる“扁桃肥大(のどの奥の腫れ)”があったため、切除手術を行いました。
ムコ多糖症と診断されたから、原因が特定できたのです。手術後は夜ぐっすり眠れるようになり、昼間とても活動的になったと聞いています。
お母さんは、病気をみつけてくれた円城寺先生に大変感謝されています」
円城寺「それまでお母さんもいろいろ不安だったと思うんです。でも原因がわかって、お母さんの表情も明るく柔らかくなりましたね」
家族や身近な人が気づくことがとっても大切
──ムコ多糖症はめずらしい病気で、早く発見することが重要だと聞いています。気づくきっかけはありますか?
円城寺「先ほどお話しした特有の顔つきや、大きな蒙古斑、中耳炎をくり返す、いびきなどの症状もあります。
ただ症状はさまざまで、あまり目立たない場合があります。今回は発達の遅れが現れてからの診断になりましたが、その前に治療を開始するのが理想です。
早く発見できればそれだけ早く治療を開始できます」
垣内「ムコ多糖症は小児科医でも診断の機会が少なく、医師だけのアプローチでは発見に限界があります。
明らかに病気だとわかる子は病院へ行きますよね。でも一番重要なのは、元気に幼稚園などに通っている子どもの中から、早期に発見すること。
ですから、身近な人が“何か違うぞ”と気づくことがとても重要です。
親や保護者はもちろんのこと、幼稚園や保育園の先生も気づく可能性が高いと思います。
また、幼稚園・保育園で行う定期健診や、1歳半・3歳健診など医師や保健師が関わる機会があるので、気づくきっかけになるかもしれません」
気になる症状は、かかりつけの小児科へ気軽に相談を
垣内「モヤモヤをずっと引きずるよりも、医師に相談し検査してみてほしいですね。
ムコ多糖症は医師でも判断に迷うケースがあるほどで、実際、疑って検査したら違っていたというケースが私にもありました。
でも、今回のケースで、ご家族もちゃんと検査して本当のことが知りたいと思っていると痛感しました。
検査して違うとわかれば安心材料になると考えることもできますし、もし病気だとしても次の治療法へ進める可能性があります」
円城寺「気になっていることをモヤモヤしたままで終わらせず、できるだけ早くかかりつけの小児科医に相談してもらえればと思います。予防接種を受けるついでに相談してもいいでしょう。
自分の子どもによその子と違うところがあると、お母さんは育て方のせいではと不安になると思いますが、そこに病気が隠れていることもあります。
原因がわかれば治療できることもありますし、接し方もわかります。ぜひムコ多糖症には相談先があること、治療法があることを知ってほしいと思います」
ムコ多糖症ってどんな病気なの?
ムコ多糖症は、「ムコ多糖(グリコサミノグリカン)」と呼ばれるものを分解する酵素が体の中にない、もしくはその働きが弱いことが原因で起こる病気です。
うまく分解されなかったムコ多糖が体の中にたまっていくことでいろんな症状があらわれます。
足りない酵素と体にたまるムコ多糖の種類の違いで7つの型に分類され、日本では「ムコ多糖症II型」の患者さんが多いと言われています。
ムコ多糖症の患者さんの数自体はとても少なく、7つのすべての型を合わせても2~5万人に1人程度と言われています。
希少疾患であることと、初期症状は軽微なために、「ムコ多糖症」と診断が付くまでに時間がかかることもあります。
ムコ多糖症にはこんな症状が見られます
※そのほかよくみられる症状
指がまっすぐに伸びない/皮膚が硬い/びっくりするくらい大きないびき/運動発達の遅れ(寝返りやおすわりができない、など)/知的発達の遅れ(なかなか言葉が出ない、など)/アデノイド肥大…など
多くは0歳~3歳に発症し、いろいろな症状がみられるムコ多糖症ですが、一般に早期にみられる症状には「広範囲の蒙古斑」「くり返す中耳炎」「臍・鼠径ヘルニア」などがあげられます。
子どもにこうした症状がみられ「何か違う…」と気になったママたちもいます。
また、先ほどご紹介した一般に早期にみられる症状以外にも、ムコ多糖症に多くみられる症状があります。
以下のいくつかの症状が重なった場合には、ムコ多糖症の可能性があります。
不安に思ったら相談できる場所があります
ムコ多糖症は早期発見・早期治療が重要です。
うちの子ちょっと違うかも?という直感は、ママだからこそ気づけること。
もし気になっていることがあるならそのままにしないで、早めに信頼できるかかりつけ医などに相談してくださいね。
不安をママだけで抱え込まないことが大切です。
医学監修:
埼玉医科大学 ゲノム医療科 希少疾患ゲノム医療推進講座
特任教授 奥山 虎之