Eテレ『フックブックロー』で活躍、谷本賢一郎さん
「はしっても あるいても ちきゅうのスピードは おなじです」こんな歌で始まっていた、Eテレの教育番組『フックブックロー』。現在は放送を終了していますが、あのオープニングソングは印象深いですね。
番組内で唯一、人間の登場キャラクターとして人気を集めていたのが、平積傑作(ひらづみけっさく)こと、谷本賢一郎さん。番組内では「けっさくくん」の愛称で親しまれていましたが、実は番組に出演するまでは挫折と苦労の連続だったといいます。
夢をあきらめきれない会社員から「けっさくくん」へ
Ⓒママリ
谷本さんが音楽に目覚めたのは中学生のころ。先輩から借りたCDでビートルズを知り、その歌声に憧れたと振り返ります。「自分もビートルズのようになりたい」と大学生からは時々都内で歌っていたものの、歌手になるきっかけをつかめず、一度は一般企業に就職。それでもやはり夢をあきらめきれず、退職して都内のロックバーで働き、お客さんを相手に歌っていたといいます。
「夢を追ってバーで歌い始めたのですが、実は3年経ってもお客さんを呼べなくて…。『もう田舎に帰ろうか』と思ったこともあるんです。それでも『まだやりたい』という気持ちだけで続けていたら、お笑いのステージを主催している方から声をかけていただいて、替え歌を歌う仕事をはじめました。それが30歳のころ。歌手を目指してから10年以上経っていましたね」
ステージで歌う谷本さんを見た『フックブックロー』制作担当者から出演の話があったのは、さらに5年後。約15年間、夢をあきらめずにいた結果の出会いでした。
声がかかったきっかけの一つは、インパクト。当時からけっさくくんのトレードマークであるツイストパーマを逆立てたヘアスタイルだったことから「人形に負けないインパクトがある」という理由で声がかかったそう。髪型はアメリカのミュージシャン、ボブ・ディランに影響をうけたといい「この髪型でよかったと思いました」と谷本さんは朗らかに笑います。ステージで観客を楽しませる姿も、担当者の心をつかんだのかもしれませんね。
「日々はんせい堂」で得たもの
番組の中では、古書店「日々はんせい堂」で働く青年、平積傑作としてパペットとともに歌声を聴かせてくれた谷本さん。同僚役であるパペットとのやり取りは、不思議とすぐに慣れたといいます。
「お芝居は『フックブックロー』が完全に初挑戦。人間相手のお芝居ですら一切してこなかったので、パペット相手が『やりにくい』という感覚はありませんでした。放送が続いていくと、だんだん彼らが人形だということを忘れて、日々はんせい堂の仲間「しおりさん」や「もくじい」の表情を感じ取れるようになりました」
パペットには、人形操演者と声優の魂が込められていると語る谷本さん。とくにお芝居の部分は、操演と同時に声優が声を当てているため、より一体感が生まれ、生の会話に近く演じられたそうです。