Ⓒママリ
着信表示に「ユウコさん」の名前を見た瞬間、私の心臓はドクンと大きく跳ねました。
さっきのLINEの返信。
今、ユウコさん宅ではあるはずの商品券が見当たらない状況ということ。
そして、わざわざ電話をかけてきたということは…。
嫌な予感が、じわじわと胸の中に広がっていくのを感じました。
深呼吸を一つして、私は恐る恐る通話ボタンを押しました。
ハルコ「…もしもし?」
ユウコ「あ、ハルコさん?今、大丈夫?」
電話口のユウコさんの声は、先ほどまでの明るいトーンとは明らかに違っていました。低く、硬く、そして、どこかイラ立ちを含んでいるような…。
ハルコ「う、うん。大丈夫だけど…」
ユウコ「さっきのLINE、見たんだけど。本当に、商品券、見てない?」
ハルコ「うん…。見てないし、鞄にも入ってなかったよ」
ユウコ「でもね、絶対にあったのよ。キッチンのカウンターの上に、デパートの商品券を封筒に入れて置いてたの。間違いないのよ」
語気が強くなっていくユウコさんの声に、私は完全に圧倒されていました。彼女がそれほど確信を持っているということは、本当にそこにあったのでしょう。でも、私には全く身に覚えがないのです。
ハルコ「そ、そうなんだ…。でも、私は本当に見てないし、キッチンには…」
ユウコ「だって、ハルコさんたちが帰ってから、どこを探してもないのよ?おかしいでしょ?」
怒りに震えているような声。それは明らかに、私に向けられたものでした。
ハルコ「え…?で、でも…」
ユウコ「さっき、私がトイレに行った時とか、ちょっと飲み物取りにキッチンに行った時とかあったでしょ?何回か、その場を離れるタイミングあったと思うんだけど。その時に、キッチンに行かなかった?」
「疑われている」はっきりとそう感じました。私が席を立った隙に、キッチンへ行って商品券を盗んだのではないか、とユウコさんは言いたいのです。
そんなはずはない。私は今日、ユウコさんが席を立った時も、ずっとソファに座って、メイとココナちゃんが遊んでいるのを見ていました。子どもたちが危ないことをしないか、けんかしないかばかり気にしていて、キッチンの方に目を向けることすらほとんどありませんでした。
ハルコ「行ってないよ。よそのキッチンには勝手に入ったりしてないし、ユウコさんが席を立った時も、ずっとリビングのソファに座って子どもたちのこと見てたよ」
震える声で、必死に訴えました。信じてほしい。私はそんなこと絶対にしない。でも、電話の向こうのユウコさんの反応は、冷たいものでした。
ユウコ「…ふーん。そう」
明らかに、私の言葉を信じていない口ぶり。沈黙が、重く受話器の向こうから伝わってきます。何か言わなければ。でも、何を言えば信じてもらえるのか…。焦りと不安で、言葉が出てきません。
ユウコ「…まあ、いいわ。もう一度よく探してみるね」
ハルコ「う、うん、見つかるといいね…」
ユウコ「…じゃ」
そう言って、ユウコさんは一方的に電話を切ろうとしました。その冷たい対応に、私は思わず念押ししたくなりました。
ハルコ「ユウコさん、本当に私じゃないからね」
ユウコ「…………」
一瞬の間。そして、受話器の向こうから聞こえてきたのは、絶望的な言葉でした。
ユウコ「…ごめんね、今はちょっと信じられない」
その言葉は、まるで冷たい氷のように、私の心を突き刺しました。
たった1つのできごとで見えてしまった、ママ友の本質
このお話では、同じ園に子どもを通わせるママ友同士のトラブルが描かれます。内向的なタイプ主人公・ハルコと仲良くなったのは、明るい人柄のユウコ。2人は同い年で子ども同士も仲がよく、送り迎えで顔を合わせるうちに徐々に距離を縮めていきました。
ところがある日、ユウコの商品券の所在がわからなくなるトラブルが発生。ユウコはその日に自宅に遊びに来ていたハルコを疑い始めます。当然、ハルコは身に覚えがありませんが、盗っていない証拠も出せない状態。2人の仲は険悪なものになってしまいました…。
トラブルを通じて見えてきたのは、明るい性格だと思っていたユウコの、相手を疑ってかかる本質。見たくない部分を見てしまったハルコは、ママ友との付き合い方を見直す決心をします。誰に降りかかるかわからないトラブルから、人付き合いについて改めて考えさせられる作品です。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
サムネイルイラスト:まい子はん