Ⓒママリ
「…ごめんね、今はちょっと信じられない」
電話口から聞こえたユウコさんの言葉に、私は頭を殴られたような衝撃を受けました。信じられない…?どうして?私は何もしていないのに。
ハルコ「なんで?私はキッチンにも行っていないのに犯人扱いなの?」
ユウコ「だって、状況的に考えて、ハルコさんしかいないじゃん」
ユウコさんの声は、怒りというよりも、どこか突き放すような冷たさを帯びていました。
ハルコ「どこかに置き忘れたとか、そういう可能性はないの?」
ユウコ「ないよ。カウンターに置いたのは絶対に覚えてるんだから」
もう、何を言っても無駄なのかも。ユウコさんの頭の中では、私が商品券を盗んだという結論が、既に出てしまっているように思えました。でも、同級生ママの家で商品券を盗んだなんて濡れ衣、絶対に着せられたくはありません。
ハルコ「お願いだから、もう一度よく考えてみて。もし、何か私にできることがあるなら…」
その私の言葉を遮るように、ユウコさんは言いました。
ユウコ「ごめんけど、保育園でも、もう一切話しかけないでね」
ハルコ「え…?そん、な…」
話しかけないで?保育園で?これから毎日顔を合わせるのに?
ユウコ「じゃあ、そういうことだから」
プツッ…ツーツーツー…
一方的に、電話は切られました。呆然とスマホを握りしめたまま、私はしばらく動けませんでした。
(何が起こったの?どうしてこんなことに…)
涙がじわっと滲んできました。悔しい。悲しい。そして、怖い。
すぐにユウコさんに折り返し電話をかけましたが、呼び出し音が鳴るだけで、彼女が出ることはありません。何度かけても、結果は同じです。
LINEを送ってみようかとも思いましたが、何をどう言っていいか、もはや考えがまとまりません。
ちょうどその時、夫が仕事から帰ってきました。私の様子がおかしいことに気づいた夫が、心配そうに声をかけてきました。
夫「どうした?何かあった?」
ハルコ「…うん……実はね……」
私は夫に、今日ユウコさんの家に行ったこと、帰宅後に商品券がないと連絡があったこと、そして電話で泥棒扱いされ、もう話しかけないでと言われてしまったことを、涙ながらに話しました。
夫は黙って私の話を聞き、そして、怒りを滲ませながら言いました。
夫「なんだそれ!ハルコがそんなことするわけないだろ」
ハルコ「うん…でも、ユウコさん、私がやったって決めつけてるみたいで…」
夫「証拠もないのに?ひどすぎるだろ…俺が話してやろうか?」
ハルコ「ううん、いい…」
夫が言ってくれるのは心強いけれど、それで余計に関係がこじれてしまう。それに、今はユウコさんも感情的になっているだろうから、何を言っても聞く耳を持たない気がしました。
ハルコ「今は、そっとしておいた方がいいと思う…。それに、私が言っても信じてもらえなかったんだから、きっと…」
夫「でも、このままじゃ濡れ衣だろ?」
ハルコ「…うん……辛いけど……どうしようもなくて……」
夫は共感して励ましてくれましたが、私の心が晴れることはありませんでした。
明日から、保育園でユウコさんに会ったらどうしよう。ユウコさんは、他のママたちに、このことを話したりするんだろうか…?もし、私が泥棒だっていう噂が広まったら…?
考えれば考えるほど、暗い想像ばかりが浮かんできます。そして何よりメイのこと。メイとココナちゃんの関係が崩れたら、メイはきっと深く傷つくでしょう。
ただ、ユウコさんの家にお邪魔しただけだったのに。どうして、こんなことに…。後悔と不安が、黒い渦のように私の心を支配していくのでした。
たった1つのできごとで見えてしまった、ママ友の本質
このお話では、同じ園に子どもを通わせるママ友同士のトラブルが描かれます。内向的なタイプ主人公・ハルコと仲良くなったのは、明るい人柄のユウコ。2人は同い年で子ども同士も仲がよく、送り迎えで顔を合わせるうちに徐々に距離を縮めていきました。
ところがある日、ユウコの商品券の所在がわからなくなるトラブルが発生。ユウコはその日に自宅に遊びに来ていたハルコを疑い始めます。当然、ハルコは身に覚えがありませんが、盗っていない証拠も出せない状態。2人の仲は険悪なものになってしまいました…。
トラブルを通じて見えてきたのは、明るい性格だと思っていたユウコの、相手を疑ってかかる本質。見たくない部分を見てしまったハルコは、ママ友との付き合い方を見直す決心をします。誰に降りかかるかわからないトラブルから、人付き合いについて改めて考えさせられる作品です。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
サムネイルイラスト:まい子はん