Ⓒママリ
翌朝、重い足取りで保育園へ向かいました。ゆうべはほとんど眠れませんでした。ユウコさんに言われた「信じられない」「話しかけないで」という言葉が、何度も頭の中で繰り返されて…。
保育園の門をくぐると、ちょうどユウコさんとココナちゃんが靴箱の前にいるのが見えました。私の心臓が、またドクンと大きく鳴ります。
(どうしよう…。挨拶、した方がいいよね…?でも、「話しかけないで」って言われたし…)
迷っているうちに、ユウコさんがこちらに気づきました。目が合った、と思った瞬間、ユウコさんはプイッと顔を背け、ココナちゃんの手を引いて足早に教室の方へ行ってしまいました。
(…やっぱり、無視された)
分かっていたことなのに、実際にその態度を取られると、胸がズキリと痛みました。まるで、汚いものでも見るかのような、冷たい拒絶。周りにいた他のママさんたちの視線も、なんだか気になります。もしかして、もう何か聞いているんだろうか…。
教室の前まで行くと、メイはいつものように元気よく「ココナちゃーん!」と駆け寄ろうとしました。でも、ユウコさんはココナちゃんの手をつかんだまま、さっと身をひるがえして教室の中へ入ってしまったのです。
メイ「ココナちゃん…?」
きょとんとした顔で私を見上げるメイ。その顔を見ると、申し訳なさで胸が締め付けられました。
ハルコ「…メイ、先生にご挨拶しようね」
私は努めて明るい声を出し、メイを促して教室へ送り届けました。先生に挨拶をする間も、ユウコさんは私の方を見ようともせず、他のママさんと何か話しています。その光景が、やけに私の目に焼き付きました。
その日の帰りも、同じでした。お迎えに行くと、ユウコさんは私を見つけるなり、ココナちゃんの手を引いてそそくさと帰って行きました。
メイ「ママー、ココナちゃんと遊びたかったのに…」
娘にかける言葉が見つかりません。本当のことを話すわけにもいかず、あいまいに誤魔化すしかない自分が情けない…。
それからしばらく朝も帰りも、ユウコさんは私を徹底的に無視しました。私が勇気を出して声をかけようとしても、「急いでるの」と冷たく言い放ち、背を向けてしまうのです。
その度に、周りのママさんたちのヒソヒソ話す声や、いぶかしげな視線を感じるようになりました。きっと、何かあったんだと勘付いているのでしょう。もしかしたら、ユウコさんが何か話したかもしれない。
「ハルコさん、ユウコさんと何かあったの?」
ある日、比較的親しくしていた別のママ友に、心配そうにたずねられました。私はどう答えるべきか迷い、結局「ちょっと、ね…」と口ごもることしかできませんでした。正直に話したところで、むしろ、話をややこしくしてしまうかも…。そう思うと、相談できませんでした。
保育園への送り迎えは、日に日に憂鬱になっていきました。
メイは、園の帰りにココナちゃんと少しだけ公園で遊ぶのが楽しみでしたが、それがなくなって寂しそうでした。
「ココナちゃんと最近遊んでない…。メイ、何かしちゃったのかな…?」
そう言ってしょんぼりする娘に、私は「そんなことないよ」と繰り返すことしかできませんでした。身に覚えのない疑いをかけられ、娘まで巻き込んでしまっている。この状況が、私の心をじわじわと蝕んでいくのを感じていました。
早く、この状況から抜け出したい。でも、どうすればいいのか分からない。ただ時間が過ぎるのを待つしかないのだろうか?
暗いトンネルの中にいるような、息苦しい毎日でした。
たった1つのできごとで見えてしまった、ママ友の本質
このお話では、同じ園に子どもを通わせるママ友同士のトラブルが描かれます。内向的なタイプ主人公・ハルコと仲良くなったのは、明るい人柄のユウコ。2人は同い年で子ども同士も仲がよく、送り迎えで顔を合わせるうちに徐々に距離を縮めていきました。
ところがある日、ユウコの商品券の所在がわからなくなるトラブルが発生。ユウコはその日に自宅に遊びに来ていたハルコを疑い始めます。当然、ハルコは身に覚えがありませんが、盗っていない証拠も出せない状態。2人の仲は険悪なものになってしまいました…。
トラブルを通じて見えてきたのは、明るい性格だと思っていたユウコの、相手を疑ってかかる本質。見たくない部分を見てしまったハルコは、ママ友との付き合い方を見直す決心をします。誰に降りかかるかわからないトラブルから、人付き合いについて改めて考えさせられる作品です。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
サムネイルイラスト:まい子はん