退職しても条件を満たせば「出産手当金」がもらえる
勤め先の健康保険に加入していれば、産休期間に「日額の3分の2相当額×日数分」の出産手当金が支給されます。本来は産後に復職する人のための制度ですが、産休中に退職する人でも受け取れる場合があります。自分が条件を満たしているかチェックしてみましょう。
申請用紙は退職前に、勤務先の健康保険担当から受け取っておきます。出産後、出産手当請求書の必要箇所を、医師または助産師に記入してもらいます。そして、産後56日後以降に勤務先の健康保険担当に提出します。
持参しなければいけない場合と、郵送でもよい場合があるので確認しておきましょう。また、管轄の社会保険事務所に提出しなければならない場合は、会社が提出してくれるのか、本人が持参するのかの確認が必要になります。
- 対象となる人:退職の前日までに、1年以上継続して勤務先の健康保険に加入している。退職時までに出産手当金を受けているか受ける条件を満たしている
- 手続きの期限:産前産後休暇開始の翌日から2年以内
- 手続きの窓口:勤務先の健康保険担当
- 必要なもの:勤務先の健康保険担当からもらえる申請用紙
- 全国健康保険協会「出産手当金について | よくあるご質問 」(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r311,2017年8月28日最終閲覧)
- 人材派遣健康保険組合「退職後に出産をしました。退職後の期間の出産手当金は請求できますか。 | よくある質問」(http://www.haken-kenpo.com/asp/faq/faq.asp?articleid=1679&categoryid=21,2017年8月28日最終閲覧)
健康保険の手続きをする
妊娠中に退職する場合、今後加入する健康保険について、次の3つからいずれかを選ぶ必要があります。
- 扶養家族として夫の健康保険に加入
- 勤務先の健康保険を任意継続
- 国民健康保険に加入
これに伴い、出産育児一時金の申請先や加入する年金なども変わります。
1. 扶養家族として夫の健康保険に加入する
収入などの条件をクリアすれば夫など家族の扶養となり、被扶養者となります。この場合、保険料はかかりません。
ただし、仕事などによる収入がなくとも、失業給付を受け取っていると被扶養者にはなれません。もし、出産後に就職活動を開始し失業給付を受給することになったら、扶養からは抜けなくてはならない点は覚えておいてください。
申請するには、夫の勤務先の健康保険担当窓口などで申請に必要な書類を受け取ります。その際、退職前に加入していた健康保険の「資格喪失証明書」が必要となるので、退職時に発行してもらうことを忘れずに。
2. 勤務先の健康保険を任意継続
退職しても、勤務していた会社で加入していた健康保険を2年間延長することができます。原則2年間の途中で「国民保険に加入する」「夫の扶養に入る」という理由ではやめることができません。2年の期間満了後、国民保険に加入するか、家族の被扶養者になるかの選択をします。
任意で継続した場合の保険料は全額自己負担。会社員のときより保険料の負担が大きくなります。退職日の翌日から20日以内に健康保険組合に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出することで手続きできます。
3. 国民健康保険に加入
住んでいる市町村役場・区役所の窓口で手続きを行います。保険料は前年の収入を元に算出され、1年目は高めになることが多いようです。窓口や電話などで保険料を試算してもらうこともできるので、任意継続とどちらがお得か比較するとよいでしょう。
なお、国民健康保険に加入するには「退職証明書」が必要です。勤務先で発行してもらいましょう。
- 全国健康保険協会「被扶養者とは? | 健康保険ガイド」(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3160/sbb3163/1959-230,2017年8月28日最終閲覧)
- 日本年金機構「健康保険(協会けんぽ)の扶養にするときの手続き」(http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/jigyosho-hiho/hihokensha1/20141204-02.html,2017年8月28日最終閲覧)
- 全国健康保険協会「健康保険任意継続制度(退職後の健康保険)について | よくあるご質問」(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat650,2017年8月28日最終閲覧)
- 全国健康保険協会「資格の喪失について | よくあるご質問」(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat650/r323,2017年8月28日最終閲覧)
- 全国健康保険協会「8.国民年金の加入について | 健康保険ガイド」(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3180/sbb3182/1976-6176,2017年8月28日最終閲覧)
- 世田谷区「国民健康保険加入の届出」(http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/101/112/237/239/d00031856.html,2017年8月28日最終閲覧)
再就職したいなら「失業給付」の延長申請をする
雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付、失業手当)は、会社を退職し、再就職したい人のサポート制度です。失業給付をもらうには、次の3つの要件を満たす必要があります。
- 積極的に再就職する意志があること
- いつでも就職できる健康状態・環境などが整っていること
- 仕事を探しているにもかかわらず、職業についていないこと
失業給付を受けられるのは、退職した翌日から1年間。妊娠や出産などですぐに就職ができないとなると、上の要件のうち「いつでも就職できる健康状態・環境」から外れることになり、失業給付は受け取れません。
そこで必要になるのが、「受給期間の延長申請」です。この手続きをしておき、出産後また就職活動を始めるタイミングで受給申請をすれば、失業給付を受け取ることができます。
延長申請期間は最長4年間(基本受給期間1年+延長できる期間3年)ですから、将来また働く日のために手続きをしておくといいでしょう。
延長手続きはハローワークにて、「退職した翌日から30日経過後の翌日からさらに1ヶ月以内」に行います。ただ、その時期はちょうど出産にあたる方も多いでしょう。夫などの代理人でも手続きができるため、妊娠中に書類を準備してあらかじめ依頼するようにしてください。
いざ就職活動を開始し、失業給付の受給を申請すると、ハローワークで失業認定を受けた日の2週間後から失業給付が振り込まれます。4週間おきに認定日が来るので、そのたびにハローワークに出向いて失業認定を受けます。
- 対象となる人:雇用保険に加入し、退職日以前の1年間に「勤務日数が14日以上ある月」が通算6ヶ月以上ある人。出産後に働く意思がある人(※)
- 手続きの期限:退職した翌日から30日経過してから1ヶ月間
- 手続きの窓口:ハローワーク
- 必要なもの:退職するときに勤務先からもらう「離職票」
(※)雇用保険に加入していればパート・アルバイト・契約社員でも受給可能
- 厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139508.html,2017年8月28日最終閲覧)
- ハローワーク「失業された方からのご質問(失業後の生活に関する情報)」(https://www.hellowork.go.jp/member/unemp_question02.html,2017年8月28日最終閲覧)
確定申告で払い過ぎた所得税を取り戻す
通常会社員の場合、所得税は会社が事前に想定した税金の額を計算して毎月のお給料やボーナスから差し引きます。この仕組みを源泉徴収といい、払い過ぎた分の所得税が年末調整という形で戻ってきます。
しかし、年の途中で退職すると年末調整を受けられません。納め過ぎた所得税は、確定申告をすることで取り戻すことができます。
確定申告の大まかな流れは以下のとおりです。
- 会社から退職時に源泉徴収票をもらっておく
- 国税庁のウェブサイトや税務署などで確定申告書Aを入手し、必要項目を記入
- 必要に応じて控除証明書を揃える(社会保険料控除、生命保険料控除、寄附金控除など)
- 1〜3をまとめて税務署に提出
確定申告の手続きは複雑で、わからないことが多いかもしれません。そのときは税務署の窓口や電話で相談してみてください。
- 国税庁「給与と源泉徴収」(https://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/gensen31.htm,2017年8月28日最終閲覧)
- 国税庁「年末調整」(https://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/gensen33.htm,2017年8月28日最終閲覧)
- 国税庁「No.1910 中途退職で年末調整を受けていないとき」(https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1910.htm,2017年8月28日最終閲覧)
- 国税庁「No.2020 確定申告」(https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2020.htm,2017年8月28日最終閲覧)
- 全国健康保険協会「保険料について | よくあるご質問」(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat650/r321,2017年8月28日最終閲覧)
- 国税庁「No.1130 社会保険料控除」(https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1130.htm,2017年8月28日最終閲覧)
- 国税庁「No.1140 生命保険料控除」(https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1140.htm,2017年8月28日最終閲覧)
- 国税庁「No.1150 寄附金控除」(https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1150.htm,2017年8月28日最終閲覧)
意外と大きな負担、翌年度の住民税支払い
住民税は前年の収入に対して、翌年度に課されるものです。会社員でお給料をもらっている人は、毎月のお給料から住民税をおさめています。そのため、退職すると給与天引きで差し引けないため市町村役場・区役所から自宅に送られてきた住民税の納付書で、期限までに納付します。
また、勤務先によっては申請すれば退職前の給料から一括で天引きしてもらうこともできますが、かなり大きな金額が引かれてしまうことを覚えておきましょう。
- 札幌市「個人市民税/札幌市」(http://www.city.sapporo.jp/citytax/syurui/shiminzei/kojin.html,2017年8月28日最終閲覧)
- 東京都主税局「東京都主税局<都税Q&A><区市町村税:個人住民税>」(http://www.tax.metro.tokyo.jp/shitsumon/sonota/index_j.htm,2017年8月28日最終閲覧)
対象となる制度や申請期限を確認し、効率よく手続きを
妊娠・出産を機に仕事を辞める人は、退職による手続きと妊娠・出産に伴う手続きの2つが重なって煩雑といえます。
しかし一方、申請すれば給付金がもらえたり、出産後の再就職に向けて備えたりすることができるのも事実です。自分がどの制度を利用できるのか、どのような流れで申請できるのか、退職前に勤務先からもらっておく書類がないかなどを確認しておきましょう。
また、申請期限が短いものや、申請期間を延長が可能なものもあります。期限や必要な書類などに注意しながら、しっかり手続きをするようにしてください。