Ⓒママリ
主人公の真奈美は、家族で引っ越してきました。新しい生活に少なからず期待をしている真奈美でしたが、不穏な空気が立ち込めます。同じ幼稚園に通う、梓というママ友の異様なしつこさを感じ始めたのです。
はじまった新生活はまだ軌道に乗らず
「はぁ、やっと一息つける……」
リビングのソファに深く身を沈め、私は大きく息を吐いた。真奈美、28歳。夫の健一と、やんちゃ盛りの長男・タケル、4歳との三人暮らし。つい最近、新しいマンションに引っ越してきたばかりだ。広々としたLDKは気に入っているけれど、まだまだ片付かない段ボールの山を見るたびに、げんなりしてしまう。
「ママ、おもちゃどこ?」
タケルの声に、現実へと引き戻される。
「ごめんね、タケル。まだ全部は出せてないの。絵本ならここにあるよ」
ソファの脇に積まれた絵本を指差すと、タケルは不満そうにしながらも、お気に入りの一冊を手に取った。私はどちらかというと、周りの意見に流されやすい性格で、人から頼まれると「ノー」と言えないタイプ。それなのに、自分の意見をしっかり持っている健一とは、よくこれで結婚できたなと我ながら思う。
ぐいぐいくるママ友が苦手
この春からタケルが幼稚園に入園し、少しは自分の時間も増えるかと期待していた。でも、現実はそう甘くなかった。特に、幼稚園のバス停での出会いが、私の日常にさざ波を立て始めている。
「まなちゃーん!おはよう!」
バス停で耳に届く、甲高い声。その声の主は、梓さん。タケルと同じ4歳のサキちゃんのママだ。梓さんとは、サキちゃんとタケルが同じバス停を利用している、というだけで知り合った。
正直、私は梓さんと親しくなろうとは思っていなかった。挨拶はするけれど、それ以上の関係を望んでいなかったから、私はいつも「サキちゃんママ」と呼ぶようにしている。それなのに、梓さんは構わず私を「まなちゃん」と呼ぶ。初めてそう呼ばれた時「え、私も梓さんって呼んでいいのかな?」と戸惑ったけれど、結局何も言えなかった。頼まれると断れない性格が、こんなところにも出てしまう。
梓さんは、いつも私に話しかけてくる。最初は当たり障りのない会話だったけれど、だんだんと、その内容が私には理解しがたいものになっていった。
テンションの噛み合わないママ友
「まなちゃん、今日の夕飯、何にするの?」
ある日、バスを待っている間に、そう尋ねられた。私は一瞬戸惑ったが「あ、ええと、今日はカレーにしようかと」と答えた。
「あら、カレー!いいわねえ。うちもカレーにしちゃおうかな。まなちゃんは、ルウは何を使うの?うちはね、いつも甘口と中辛を混ぜるのよ。そうすると、子どもも食べやすいし、大人も楽しめるのよね。そういえば、この前テレビで、隠し味にチョコレートを入れるとコクが出るって言ってたんだけど、まなちゃんは試したことある?」
矢継ぎ早に質問が飛んできて、私はただ相槌を打つことしかできなかった。話を終わらせたいのに、自分からは切り出せない。私の口から出たのは、「へえ、そうなんですね」「すごいですね」といった、ありきたりな返事ばかりだった。バスが到着して、ようやくその会話から解放される。毎日こんな調子なのだ。
この引っ越しで、心機一転、平穏な毎日を送りたいと思っていたのに、まさかこんな形で波風が立つとは。これが「ママ友」というものなのだろうか。私は梓さんと、本当にママ友になりたかったのだろうか。その答えは、いつも「ノー」だ―――。
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あとがき:新生活に忍び寄るママ友の影
新しいマンションでの平穏な生活を望む真奈美は、幼稚園のバス停で出会った梓との関係に戸惑っています。流されやすい性格の真奈美は、一方的に距離を縮めようとする梓に対し、望まない親密さに苦悩。当たり障りのない会話から、踏み込んだ質問へとエスカレートする梓の話術に、真奈美は圧倒され、断りきれない自分に葛藤を覚えます。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










