私は5歳の息子・陽向を育てるシングルマザーだ。
健吾とは、7年前に結婚した。明るくて、人なつっこくて、どこへ行っても輪の中心にいる人だった。私にはない社交性がまぶしかった。
でも、その"性分"は、家庭の外にも向いてしまった。
──不倫。発覚したとき、頭が真っ白になった。
問い詰めると、最初は否定していた健吾も、最後は観念したようにあやまった。
「一時の……気のまよいだった……」
陽向は当時、2歳。泣きながらねむる小さな背中は、おもたくなった家庭の空気を察しているように感じた。
(この子を守れるのは、私だけだ)
離婚してからの数年は、とにかく必死だった。仕事と育児の往復で、余裕なんてなかった。ただ、「陽向に不自由な思いはさせまい」という意地だけが、私をふるい立たせていた。
その一方で、離婚後、健吾にも変化が見られた。
陽向との約束は必ず守る。面会の日には、早くから迎えに来る。誕生日や行事への参加も欠かさない。
あのころ、家族を見うしなっていた人とは思えないほど、父親らしくなっていった。
皮肉なものだ。一番近くにいたときより、今のほうがちゃんとしているなんて──。
直人と出会ったのは、離婚から2年ほどたったころ。
おだやかで、誠実で、言葉を選んで話す人。健吾とは正反対だ。
一緒にいて安心する。未来の話も、きちんとできる。
でも、時々思う。
「笑いのツボがちがうな」とか「健吾だったら、今の話で爆笑してたかも」とか…。
将来を考えられる人とめぐり会えたのに、元夫とくらべては矛盾する気持ちを抱いてしまう…。そんな自分に戸惑い、翻弄されていた。 ※1
元夫か恋人か…一緒に未来を歩む相手は?
元夫・健吾の不倫が原因で、離婚した真由。ところが、健吾は離婚後に「よき父」として大きな変化をとげます。月に何度かは父と息子の面会時間を設け、父子水入らずで旅行に出かけることもあるほど。真由に対ししても「いつもありがとう」と、感謝の言葉を述べます。
一方、離婚後に出会った恋人・直人との交際も順調で、2人のペースで将来のことを真剣に考えています。
恋人と育む、誠実でていねいな未来
「ひなたくん、袋持つよ?」
直人が身体を低くして、手を差し出す。陽向は少し緊張した顔で首を横に振った。
「ううん。ぼくもてるから、だいじょうぶ!」
得意げな顔。その様子を見て、直人の目元がくしゃっとなる。
「すごいねえ。もう立派なお兄さんだね!」
いつものやさしい口調。押しつけがましくもなく、距離を急に縮めることもない…。絶妙な塩梅だった。
陽向はもともと人見知りだ。大人の男性には特に慎重になる。でも、直人には、少しずつ心を開いている。それが、私にはありがたかった。
スーパーの通路をならんで歩きながら、私は思う。
(こういう人と再婚できたら、安心なんだろうな)
おだやかで、どならない。感情の波が小さくて、約束を守る人。
(健吾とは、正反対だ──)
直人と出会ったのは、離婚から2年がたったころだった。ようやく生活が落ち着いてきて、心にも少し余白ができてきたころ、共通の知人の紹介だった。
「子どもがいるんだよね」
最初に私は、彼にそのことを伝えた。それで、はなれていく人なら「それまで」だと思っていた。
直人は静かにうなずいた。
「そうなんだね」
それだけだった。余計な詮索もしない。“覚悟”を問うような言葉もない。ただ、自然に受け止めてくれた。
やがて、健吾の不倫のことも話した。正直、こわかった。「なんでそんな人と結婚したの?」って思われるかもしれない。
でも直人は、だまって聞いたあと、こう言った。
「真由さんがわるいわけじゃないよ」
その一言で、胸がいっぱいになった。責められなかったことが救いだった。
そうしてゆっくり距離が縮まり、私たちは付き合い始めた。あせらない関係。誠実で、丁寧で、未来の話もきちんとできる。私は、この人とならおだやかに歳を重ねられると思った。 ※2
恋人・直人と、息子の関係も良好のようです。子どもが心を開いているというのは、大切なことですね。そして、真由と直人の関係も順調。少しずつ関係を育んでいます。
ところが…。
物足りない?贅沢な悩み
「ママ、ポテト!」
陽向の声で、ふとわれに返る。買い物をおえ、3人でフードコートにすわっていた。
「ひなたくん、ちゃんと野菜も食べないとね」
「え〜」
陽向が顔をしかめる。私は思わず笑う。
「あはは、健吾だったら、“パパもきらいだから仲間だな!”って言いそうだなあ…」
ぽろっと、口から出た。(しまった)と、あわてて目を伏せた。一瞬、直人との間の空気が止まる。
直人は小さく笑った。
「ははっ……でも、好ききらいが多いのもこまっちゃうし、ね?」
まちがっていない。でも……。
「はは…だよね」
私は、あいまいに笑う。なんとなく気まずい空気の中、陽向がポテトを落とし、ケチャップがテーブルについた。 ※3
直人と、穏やかな日々を過ごしていますが、つい元夫・健吾と比べて物足りなさを感じてしまっています…。
刺激的な相手との日々か、それとも穏やかな人との未来か…。真由は、自分でも「贅沢な悩み」と思うほど、元夫と恋人との間で心が揺れ動きます。
将来のことを考えると、そう簡単に結論を出すことはできませんね。しかも真由は、裏切られた経験をしてしまったため、慎重にならざるを得ません。じっくり考え、納得できる未来を選べるといいですね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










