🔴【第1話から読む】離婚後、父親らしくなった元夫と優しすぎる恋人…2人の男の間で揺れる本音
誠実な恋人・直人との関係は順調に見える、真由。しかし、無意識に元夫・健吾とくらべてしまい、やさしさの中に“物足りなさ”を感じる自分に戸惑う。
やさしさに包まれる時間
「ひなたくん、袋持つよ?」
直人が身体を低くして、手を差し出す。陽向は少し緊張した顔で首を横に振った。
「ううん。ぼくもてるから、だいじょうぶ!」
得意げな顔。その様子を見て、直人の目元がくしゃっとなる。
「すごいねえ。もう立派なお兄さんだね!」
いつものやさしい口調。押しつけがましくもなく、距離を急に縮めることもない…。絶妙な塩梅だった。
陽向はもともと人見知りだ。大人の男性には特に慎重になる。でも、直人には、少しずつ心を開いている。それが、私にはありがたかった。
スーパーの通路をならんで歩きながら、私は思う。
(こういう人と再婚できたら、安心なんだろうな)
おだやかで、どならない。感情の波が小さくて、約束を守る人。
(健吾とは、正反対だ──)
直人と出会ったのは、離婚から2年がたったころだった。ようやく生活が落ち着いてきて、心にも少し余白ができてきたころ、共通の知人の紹介だった。
「子どもがいるんだよね」
最初に私は、彼にそのことを伝えた。それで、はなれていく人なら「それまで」だと思っていた。
直人は静かにうなずいた。
「そうなんだね」
それだけだった。余計な詮索もしない。“覚悟”を問うような言葉もない。ただ、自然に受け止めてくれた。
やがて、健吾の不倫のことも話した。正直、こわかった。「なんでそんな人と結婚したの?」って思われるかもしれない。
でも直人は、だまって聞いたあと、こう言った。
「真由さんがわるいわけじゃないよ」
その一言で、胸がいっぱいになった。責められなかったことが救いだった。
そうしてゆっくり距離が縮まり、私たちは付き合い始めた。あせらない関係。誠実で、丁寧で、未来の話もきちんとできる。私は、この人とならおだやかに歳を重ねられると思った。
ふとした瞬間に生まれる“ズレ”
「ママ、ポテト!」
陽向の声で、ふとわれに返る。買い物をおえ、3人でフードコートにすわっていた。
「ひなたくん、ちゃんと野菜も食べないとね」
「え〜」
陽向が顔をしかめる。私は思わず笑う。
「あはは、健吾だったら、“パパもきらいだから仲間だな!”って言いそうだなあ…」
ぽろっと、口から出た。(しまった)と、あわてて目を伏せた。一瞬、直人との間の空気が止まる。
直人は小さく笑った。
「ははっ……でも、好ききらいが多いのもこまっちゃうし、ね?」
まちがっていない。でも……。
「はは…だよね」
私は、あいまいに笑う。なんとなく気まずい空気の中、陽向がポテトを落とし、ケチャップがテーブルについた。
贅沢な悩み、それでも消えない違和感
「あ、ほら、よそ見しない!」
私がいうより早く、直人がティッシュでていねいに拭く。
「大丈夫、大丈夫。だれでも失敗はあるから」
傷付けない。優しくて、落ち着いていて、大人だ。
それなのに──どこかで、"物足りない"と思ってしまう自分がいる。
健吾なら、きっと大げさにさわいで、陽向を笑わせて、場の空気を一瞬で変える。私はその陽気さに、何度も救われてきた。
直人との会話は、おだやかに流れる。でも、心が跳ねる瞬間は少ない。笑いのツボが、ほんの少しだけズレている。その“ほんの少し”が、なぜか引っかかった。
贅沢な悩みだと思う。やさしくて、誠実で、陽向のことも大切にしてくれる…。
(これ以上、何を求めるの?)
そう自分に問いかけながらも、胸の奥に、ほそい糸のような違和感が残る。
(──やさしさだけで、足りる?)
フードコートのざわめきの中で、私はその問いを、心の奥にしまい込んだ。
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あとがき:「安心」と「ときめき」のあいだで
結婚を考えるとき、多くの人が一度はまようのではないでしょうか。
安心できる相手か、それとも一緒にいてたのしい相手か。どちらも大切ですが、両方が同じ形でそろうとは限りません。真由の違和感は、わがままではなく、未来を真剣に考えている証。「選ぶ」ということは、何かを手放すことでもあるのかもしれません。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










