🔴【第1話から読む】離婚後、父親らしくなった元夫と優しすぎる恋人…2人の男の間で揺れる本音
元夫・健吾の不倫がきっかけで離婚した、真由。現在は恋人・直人とおだやかな関係を築いている。しかし、父親として誠実になった健吾と息子・陽向の姿を見るたび、複雑な感情が芽生えていき…。
やさしい恋人…それでも気になる元夫
夜11時を回ったころ、スマホ画面に「直人」の名前が表示された。
「もしもし、明日の準備、おわった?」
おだやかな声が、耳に心地いい。
「うん、ほぼおわったよ。陽向の着替えも、おやつも、忘れ物ないはず」
そう答えながら、私はリビングに広げた小さなリュックを見つめる。
明日は、元夫・健吾と陽向との一泊旅行の日だ。離婚してからも年に数回、こうして“父と子の時間”を作っている。
「真由もゆっくりしなよ?」
直人は、少し間を置いて続けた。
「前も言ったけどさ…健吾さんとのこと、気にしてないから」
その言葉に、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
本当は気にならないわけがない。それでも、そう言ってくれる人だ。
「ありがとう」
小さくつぶやくと、直人は笑った。
「たのしんできてね」
通話を切ったあと、私はしずかな部屋でひとり深呼吸をする。
(──やさしいな、直人)
そう思いながら、布団に入った。
けれど、目を閉じるとうかんでくるのは、健吾と陽向が笑い合う姿だった。
うらぎりと決断…そして、"父"になった元夫
私は5歳の息子・陽向を育てるシングルマザーだ。
健吾とは、7年前に結婚した。明るくて、人なつっこくて、どこへ行っても輪の中心にいる人だった。私にはない社交性がまぶしかった。
でも、その"性分"は、家庭の外にも向いてしまった。
──不倫。発覚したとき、頭が真っ白になった。
問い詰めると、最初は否定していた健吾も、最後は観念したようにあやまった。
「一時の……気のまよいだった……」
陽向は当時、2歳。泣きながらねむる小さな背中は、おもたくなった家庭の空気を察しているように感じた。
(この子を守れるのは、私だけだ)
離婚してからの数年は、とにかく必死だった。仕事と育児の往復で、余裕なんてなかった。ただ、「陽向に不自由な思いはさせまい」という意地だけが、私をふるい立たせていた。
その一方で、離婚後、健吾にも変化が見られた。
陽向との約束は必ず守る。面会の日には、早くから迎えに来る。誕生日や行事への参加も欠かさない。
あのころ、家族を見うしなっていた人とは思えないほど、父親らしくなっていった。
皮肉なものだ。一番近くにいたときより、今のほうがちゃんとしているなんて──。
直人と出会ったのは、離婚から2年ほどたったころ。
おだやかで、誠実で、言葉を選んで話す人。健吾とは正反対だ。
一緒にいて安心する。未来の話も、きちんとできる。
でも、時々思う。
「笑いのツボがちがうな」とか「健吾だったら、今の話で爆笑してたかも」とか…。
将来を考えられる人とめぐり会えたのに、元夫とくらべては矛盾する気持ちを抱いてしまう…。そんな自分に戸惑い、翻弄されていた。
手をつなぐ背中に芽生えた感情
翌朝。駅前で待ち合わせをすると、健吾はもう来ていた。
「ひなたー!」
大きく手をふる声に、陽向がぱっと顔をかがやかせる。
「パパー!」
かけよって抱きつく小さな体。その様子を見ていると、胸がぎゅっとしめつけられる。
「真由、いつもありがとうな」
健吾が、少し照れくさそうに言う。
「陽向、たのしみにしてたからね」
それだけの会話なのに、昔よりずっとおだやかさを感じた。
電車のホームで、陽向と健吾は私の少し先を歩く。
陽向は健吾と手をつなぎ、何度も彼を見上げて話しかける。健吾も、大げさなくらいのあいづちと笑顔で応える。
次第に、2人の背中がならんで遠ざかっていく。笑い声だけが、風に乗って聞こえた。
──離婚したはずなのに。もう、家族じゃないはずなのに。
なのに、目の前の光景は、どこかあたたかい。
あのころは、怒りと悲しみしかなかった。うらぎられた気持ちでいっぱいだった。
(でも今は、ちがう)
胸の奥にあるのは、複雑だけど、確かにあたたかい何か。それが何なのか、私はまだ言葉にできない。
ただひとつ、分かっているのは…
私は今、2人の男性の“優しさ”の間で、静かにゆれているということ。
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あとがき:「過去」は本当におわるのか
離婚は関係の終わりでも、記憶までは消してくれません。たのしかった時間とうらぎられた痛みが同時に存在するとき、人の心は簡単にはわり切れないものです。
完全にきらいになれない気持ちは、未練なのでしょうか。それとも、"家族だった証"なのでしょうか。真由の心のゆれは、過去と向き合う過程そのものなのかもしれません。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










