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👉【1話から読む】新1年生になった娘は登校拒否児なりかけだった
ユイと一緒に参加する1年1組は、元気すぎてまさにカオス。しかし、個性豊かな子どもたちを笑顔でまとめ、授業を進める先生の姿にはとても頼もしかった。そんな中、私の胸を締め付けるのは、休み時間に一人、不安と戦うように黙々と折り紙を折り続ける娘ユイの小さな背中だった。
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ユイの隣、教室の床に体育座り。
最初は針の筵(むしろ)だったこの場所も、毎日毎日、午前中の数時間をここで過ごすとなると、否が応でも「定位置」になってくる。そして、この妙な「特等席」から見える景色にも、だんだんと気づくことが増えてきた。
いやはや、小学校1年生の教室って、すごい。
まさに、カオス。混沌。エネルギーの塊。
先生が一生懸命、黒板に何かを書いている最中に、
男の子A「あ、それ知ってる! 足し算でしょ! 簡単じゃーん!」
なんて大声で叫ぶ子がいるかと思えば、
女の子B「ねーねー、ユイちゃんのお母さーん、その服どこで買ったのー?」
と、授業そっちのけで私に話しかけてくる子もいる。(いや、私に話しかけられても……!)
他にも、急に席を立って窓の外を眺め出す子、隣の子にちょっかいを出して怒られている子、完全に上の空でぼーっとしている子……。もう、てんでんばらばら。30人近くいる小さな猛獣たち、って感じだ。
先生の対応力に驚く
でも、驚いたのは先生の対応力。
そんな個性つよつよ、自由奔放な子どもたちに対して、先生は決して頭ごなしに怒鳴ったりしない。
先生「そうそう、足し算だね! よく知ってるね! じゃあ、この問題わかるかな?」
先生「あら、素敵な服って言ってくれてありがとう! でも今は先生のお話を聞く時間だよー」
なんて、話をうまく拾ったり、やんわりと受け流したりしながら、ちゃんと授業を前に進めていくのだ。その手腕たるや、まさに神業。毎日この光景を目の当たりにして、私「小学校の先生って、本当にすごい……」と、心の底から尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
ただ、一つ気になっていたのは、当時の学校生活の状況。
ちょうどコロナ禍の真っ只中で、感染対策が厳しく行われていた時期だった。だから、休み時間も子どもたちは基本的に自分の席で過ごすのがルール。絵を描いたり、折り紙を折ったり、読書をしたり。誰かの席に集まってお喋りをしようものなら、すぐに先生から「〇〇さん、自分の席に戻ってくださいねー」と注意されてしまう。
友達と自由にコミュニケーションを取る機会が少ない、この閉塞的な環境。
もともと新しい環境に慣れるのが苦手なユイにとって、これはかなりハードルが高いだろうな、と感じていた。友達作りのきっかけも掴みにくいし、クラスに馴染むのだって、普通以上に時間がかかりそうだ。
ユイの心の支えだったもの
そんな状況下で、ユイが休み時間になると決まってやっていたこと。
それは、折り紙だった。
家から持たせた折り紙の本を見ながら、ひたすら、黙々と、何かを折り続けている。特に、カブトがお気に入りらしかった。
毎日、学校から持ち帰る連絡袋の中には、ユイがその日に折ったであろう作品たちが、ぎっしり詰め込まれている。そのほとんどが、カブト。色とりどりのカブトが、何十個も。
きっと、休み時間になるたびに、不安や緊張を落ち着かせようとして、必死に指を動かしていたんだろうな。友達と話すこともできず、一人で黙々とカブトを折り続ける娘の小さな背中を想像すると、胸がぎゅーっと締め付けられた。健気で、そして、あまりにも痛々しかった。
この奇妙な「小学校体験同伴登校」
唯一、良かったことを無理やり挙げるとすれば、小学校1年生のリアルな授業風景を、保護者席なんてものじゃない、超至近距離の「特等席」で毎日体験できたこと、かもしれない。(まあ、そんなポジティブ思考は、隣でカブトを折り続ける娘を見れば、一瞬で吹き飛んでしまうんだけど……)
個性豊かなクラスメイトたちの「カオス」と、それを包み込む先生の「輝き」。そして、その片隅で小さくうずくまる、私の愛しい娘。
早く、この特等席から卒業したい。心からそう願う毎日だった。