🔴【第1話から読む】牛乳がこぼれるいつもの出社前、突き刺さる親友の“キラキラ専業主婦SNS”|ワーママと主婦のミゾ
会社で地味なお弁当をつつきながら、チサトさんのちょっと楽をしたという豚バラ大根や、彼女の優雅で丁寧な暮らしにモヤモヤするナツミさん。その時チサトさんから「遊びに行きたい」というメッセージが届き、心は重くなります。
「ちょっと楽して」にひっかかる私の心
昼休み。フォークリフトを降りて、食堂の片隅に腰をおろす。
私のランチは、昨日の残り物をのっけただけのお弁当。ごはんの上に、義母の手作りからあげとひじき煮、それから今朝のスクランブルエッグの残りをポロッとのせただけ。彩り要員のミニトマト…の代わりのケチャップがなんだか悲しい。義母のおかずだから、味はおいしいけどちょっと寂しい。
働くためのご飯だから、豪華である必要はないんだけど、朝もうちょっと余裕があれば、とも思う。
夜は夜で、子どもたちの面倒で自分のお弁当用に何か作る余裕はない。もうちょっと手がかからなくなれば、夕食のついでにちゃちゃっと作り置きなんて作れるようになるかな、なんて。
夕食か…。チサトの言葉と写真を思い出す。
「今日のお昼ごはん。ちょっと楽して豚バラ大根」
湯気までただよってきそうな写真。大根はきっちり面取りされて、柔らかそうな豚肉と一緒につやつやに光ってて、こっちをじっと見ているような気さえした。
だけど本当に、あれのどこがちょっと楽したお昼なんだ?うちじゃかなり張り切った夕食だよ。
…そういえば前にチサトが自家製パエリアをアップしたとき、私は「おいしそう!うちもごはん物がメインだよ。豪華一点主義!なんてね」って、麻婆豆腐の素で作ったあんかけチャーハンのことを書いたんだった。
キノコをたっぷり入れて、子どもたちはいっぱい食べてくれてうれしかった。そしたら「見た目より全然簡単だから!パエリアやってあげな〜」って返ってきて…。
あれ以来、私はとりあえずのいいねしか押せなくなった。見ましたよ、のいいね。
「はぁ〜…」
パンも、ベーコンも、ときには味噌さえも手作りするチサトをずっと尊敬してた。お正月は伊達巻作って、春は梅を漬けて…。私にはとてもできない。冷めかけた弁当を口に運びながら、思わずため息が漏れる。チサトはチサトで大変なんだって頭ではわかってる。けど、あの時間をかけられる余裕が、羨ましくて苦しい。
会いたいと言われたら、断れない
その時、メッセージの通知音。差出人はチサト。
「土曜日、久々に遊びに行きたいな〜。ナナコがみんなに会いたいって!」
思わずのけぞりそうになる。今週は土曜出勤も法事も行事もない。奇跡的にぽっかり空いている。チサトはもともと親友で、会えるとわかったら胸が高鳴って楽しみで仕方なくなるような相手だった。なのに今はなぜだろう、心がとても重い。
子どもの遊び相手にもなってくれるし、私もチサトと疎遠になりたいわけじゃないから「いいよ、空いてるからおいで!」と返信したものの、心には黒い雲がかかったままだった。
チサトは旦那の実家でその親と暮らしているから、なかなか友達を呼べないのでいつも集合はわが家。家も片付けないと…。
昼休みが終わって再びフォークリフトに乗り込む。ハンドルを握って、積み上げられたパレットの間をスイスイと走る。集中力がモノを言う仕事だ。
「考えない…集中して…」
と唱えながら、黙々とこなしていく。でも、心はどうしてもチサトからのメッセージに戻ってしまう。楽しみじゃない理由は、チサトと私の生活に差がありすぎて、私が勝手に負けた気になっているから。もしかしたらチサトは比べてなんかなくて、私が勝手に比べちゃってるのかもしれないけれど。
楽しかった、あのころ
仕事を終えて家に戻れば、またドタバタが待っている。
「ママー、今から変身するから見てー!」
「ママー、抱っこ!」
「ママ、今の見てたっ?」
「ママー、金曜日飲み会になったからメシいらないわ」
幸せだけど、自分自身のことだけを考える時間が、最近あまりにも少ない気がする。
帰宅すると、義母が煮物を作って冷蔵庫に入れておいてくれていた。その煮物を温め、市販の餃子を焼き、ごはんをよそう。ミリには幼児向けの肉だんご。
これで十分だ、と思う一方で、チサトの豚バラ大根が頭をよぎる。うちはうち、よそはよそ…。夕食を終え、子どもたちを寝かせてから食器を片付け、洗濯物を畳む。
時計の針はあっという間に23時。
「…週末、来るんだよなぁ」
寝室に入る前に、もう一度スマホを確認してしまう。チサトからのメッセージは、間違いなくそこにあった。チサトとは幼なじみで、小学校に入る前からの友達だ。中学校まで同じで、チサトが大学進学で地元を離れるまで、毎日一緒だった。それでもしょっちゅう遊んだし、社会人になってからも、年に2回くらいは旅行をした。文字通りの親友だった。
チサトが念願の赤ちゃんを授かった時は、抱き合って喜んだ。なのに。
…今は少し、煙たい。しんどい。
私が彼女を迷いなく親友と呼べてたのは、いつのころまでだったのかな。…何言ってんだろ、寝なくっちゃ。明日も早いんだから―――。
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あとがき:お弁当に重ね見る、余裕のない自分
自分のお弁当は、ありものを入れただけ。会社員としての自分には自信があっても、主婦としての自分には自信が持てないナツミさん。親友の手間のかかったお昼ごはんが、彼女の心をかき乱します。比べたくないのに、比べてしまう。あなたにも覚えがありませんか?
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










