牛乳びたしの床を掃除するところから始まるナツミさんの朝。やっとのことで子どもたちを送り出すと、親友チサトさんのキラキラしたSNSの投稿が…。モヤモヤをこらえながら出勤するナツミさんですが…。
走り抜け、この朝を――ワーママの朝は早い
「ママー!カンタが牛乳ぜんぶこぼしたぁっ」
朝6時15分。私の1日は今日も開幕とともにクライマックス。コップの牛乳全部、かと思えば昨日買ってきたばかりの牛乳パックまるごと1本だった。
「うぉー!つめてぇー!」
牛乳の海となったリビングを裸の男児が走り回っている。これがうちの次男カンタ。5歳。牛乳まみれになった弟にのしかかられて、この世の終わりかのように目に涙を溜める男児は長男ユウキ。まさかのもうすぐ8歳。
「ママー、爪切りどこ?うわっ、なにこれ!」
のんきに登場した大きな子どもは、息子ではなく夫トオル。38歳。末っ子長女ミリは、男たちの騒ぎなんてどこ吹く風で髪を念入りに梳かしている。3歳だって、オンナ。
これが、わが家の日常。
「カンタ!ユウキに謝って早く拭きなさい!」
白目を剥きそうになりながら叫ぶ。裸であることには今さら触れない。朝食を作る手を止めて、カンタに処分予定のバスタオルを渡して自分も床の牛乳を急いで拭く。
「パパ、パン焼いといて!あとタマゴをお皿に盛って!」
トオルに朝食の続きを頼んで、牛乳を始末する。ユウキがまだパジャマでよかった。
6時45分。やっと全員がそろい、朝食になる。
「オレねぇ、こないだねぇ、ほいくえんでねぇ…」
カンタが1人でしゃべっているのを聞きながら、私の食事はさっさと済ませる。カンタの「オレ」のイントネーションは、パフェと一緒だ。ユウキはもさもさとパンをかじっている。牛乳がないとパンが食べられない子だけど、牛乳はカンタが床に飲ませてしまった。
不憫だけど、仕方ない。麦茶を飲んでもらう。
朝食を食べたらユウキのランドセルをチェックをしなければ。
もう2年生だけど、未だに忘れ物をしたり、プリントがランドセルの中で丸まっていたりするので、まだ欠かせない。とはいえ、自主性を持たせたいから、ユウキにセルフチェックをさせて、私がダブルチェックをする形を取っている。
私の神、その名は義父母
時計は7時ちょうど。ユウキの登校班の集合時間が30分。私と夫の始業時間が8時。それまでにカンタとミリを保育園に送る。
ここからが勝負だ。
まず、ユウキのランドセルチェックをし、カンタとミリの園バッグをチェックし、ミリの髪を結んでやらなければならない。だけど、子どもたちはまだ食べている。私にはわかる。絶対間に合わない。なぜなら3歳と同じスピードで食べる8歳と、手あそびをしながら食べる5歳がいるから。
先にダブルチェックを済ませなきゃ。
子どもたちが品数は多くないはずの朝食をやっと済ませると、スマホが小さく震えた。義母からのメッセージだった。
「今日は間に合いそう?じじが行こうか?」
そう、間に合わない時には連絡して、近居の義両親に保育園組を連れてってもらっている。今日は何かを察知して連絡をくれた。本当にありがたい。「おかあさんすみません。お願いします」と返信した。家族のためにフルタイムで働く私を応援してくれる義父母に、頼りっぱなしの毎日だ。
働いていると、平日は忙しくて子どもたちに簡単なものしか作ってやれない。土曜日も出勤になることがある。義母がおかずをしょっちゅう持ってきてくれるし、夕飯に呼んでもくれる。ありがたくて、感謝しかない。子どもたちはじじとばばが大好きで、土曜日に出勤する時は喜んで行ってくれる。我慢させていると思うこともあるけど、これからどんどんお金が必要になる。今は夫婦で頑張らなくちゃ。
ユウキのランドセルを見終えて、送り出す。「今日も元気でいってらっしゃい。楽しんでね」と声をかける。「うん」と短く答えて「行ってきます」と歩き出した。
部屋に戻り、二人の世話をしていると義父の車の音がして、「ほら、じじちゃん来てくれたよ、急いで!」と促すと、カンタもミリもやっと急ぎ出す。
二人を車に乗せて「じゃ、ナツミも気をつけてな」と笑う義父に頭を下げ、車が小さくなっていくのを見届けて、私は、ようやくひとつ、大きく息をつく。
そしてすぐ最寄り駅に走り、電車に飛び乗る。これからはママとしての私からバトンを受け取った、働く女性としての私が走り出す。私の第2ラウンドが始まった。
致死量レベルの親友のキラキラ写真を浴びる
通勤電車の中。込み合う車内で、つり革につかまりながらスマホを開く。専業主婦として家庭を支えている友人・チサトの昨日のポストが目に飛び込んできた。「今日のお昼はちょっと楽して豚バラ大根」。楽したなんて信じられない。つやつやの大根や大きなお肉が、素敵なお皿に素敵に盛り付けられている。ちょっと楽して豚バラ大根…。思わずスマホを閉じる。
朝からSNSなんて開くもんじゃないな。自分から車に体当たりするようなもんかも。仕事に取りかかればなにも気にしなくなるのに、今日は、まだ駅にも着かない。このまま着かなければいいとも思うし、早く仕事をしてモヤモヤを吹き飛ばしたいとも思う。
スマホの待ち受けにしている子どもたちの写真を見つめながら、つり革を強く握った。
“キラキラ手作り専業主婦”の親友、再会に微妙な心境になっていた理由|ワーママと専業主婦のミゾ
あとがき:ドタバタな暮らしの中で確かに芽生えたモヤモヤ
朝はドタバタ、子どもたちの世話をしながら、自分たちの出勤準備も。そんな中、SNSに映る親友の『余裕ある暮らし』がふとナツミさんの心に刺さります。比べたくないのに、比べてしまう。…そんな誰にでもある『小さなざらつき』から、物語が静かに動きはじめます。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










