🔴【第1話から読む】慎ましく暮らしていたはずの私たち|夫は万引き犯でした
夫への信頼を完全に失った真緒は、離婚という選択肢と現実的な不安の狭間で揺れながらも、実家の支えによって進む覚悟を固めた。
子どもたちを守るため、自分の人生を守るため、真緒はついに夫と真正面から向き合う決断をする。
静かな夜、突きつけた結論
その日は、特別な出来事があったわけではなかった。夕方、夫がいつも通りに帰宅し、玄関で靴を脱ぐ音が聞こえた。それだけ。私はキッチンから顔を出し、静かに言った。
「……ご飯の前に、少し話があるから。机に着いて」
その声の低さに、夫は何かを察したのか、何も言わずにダイニングの椅子に腰掛けた。子どもたちはすでに寝室で眠っている。家の中は、張り詰めたような静けさに包まれていた。私は向かいの席に座り、まっすぐに夫を見る。
「結論から言うね。弘樹、精神科に通ってほしいの」
夫婦ではなく、条件としての関係
一瞬、夫は言葉を失った。
「……は?なんで、急に」
「急じゃない。ずっと考えてた」
私の声には、迷いも揺れもなかった。
「万引きを繰り返してたことも、ストレスとの向き合い方も、全部おかしい。専門家の力を借りない限り、私はもう一緒にやっていけない」
夫の表情が、みるみるうちに強張っていく。
「ちょっと待ってくれよ。もう終わった話だろ?不起訴にもなったし——」
「終わってない」
きっぱりと言い切る。
「私の中では、何も終わってない。弘樹への信頼は戻ってない」
数秒の沈黙のあと、私は続けた。
「通院しないなら……離婚も考えてる」
その言葉に、夫は明らかに動揺した。椅子を引く音が大きく響き、落ち着きなく視線を泳がせる。
「おい、待てよ。そんな大げさな……子どももいるのに」
「だからこそ、だよ」
私は静かに、しかし確固たる口調で言った。
「このままじゃ、子どもたちに悪影響。あなたの不安定さも、私の不信感も」
夫は頭を抱えた。
「離婚なんて……親にも言えないし、会社の人にだって……」
その言葉を聞いた瞬間、私は内心で確信した。この人は、まだ“自分”しか見ていない。
「でしょ?」
私は淡々と言った。
「あなたも、離婚は困る。義父母にも、会社にも、説明できない」
夫が顔を上げる。
「だから、最低条件として、病院に通ってほしいの」
冷静すぎるほど冷静な自分の声に、私自身が少し驚いていた。
「治療を受けて、向き合う姿勢を見せて。できないなら、私は子どもたちを連れて家を出るから」
しばらく、夫は何も言えなかった。やがて、力なく頷く。
「……分かった。通う」
その返事に、安堵はなかった。ただ、「選択が一つ定まった」という事実だけが、胸に残った。
母として選ぶ、これからの生き方
それから数週間後、夫は精神科に通院を始めた。診察の日は黙って出かけ、帰ってくる。必要以上に話そうともしない。夫婦としての温度は、相変わらず低いままだった。それでも、育児に関してだけは、私は線を引いた。
「子どもたちの前では、きちんと父親でいて」
その約束は、最低限守られていた。夫婦ではなく、協力関係だと割り切ることにした。
一方で、私は静かに動き始めていた。実家との連絡、貯金の確認、必要な書類の整理。
今すぐ離婚するわけではない。けれど、「いつでも選べる状態」を作っておく。それが、母親としての覚悟だった。夜、子どもたちの寝顔を見つめながら、私は思う。
(信頼が壊れた関係は、こんなにも冷たい。でも、守るものがあるから、私は立っていられる)
この先、どうなるかは分からない。それでも、私はもう、自分の人生を他人任せにはしない。
母として。ひとりの人間として。
選ぶ覚悟は、すでにできている。
私は私とわが子たちの幸せのために、自分の道を生きるから。
🔴【第1話から読む】【衝撃】インターホンが鳴り「警察です」→聞かされたのは“夫の万引き逮捕”|夫は万引き犯でした
あとがき:選ぶ覚悟が、自分を支える
最終話で描かれたのは、和解でも決別でもない「主体的な選択」です。夫が治療を受けることを条件に婚姻関係を続けること、いつでも離婚を選べる状態を整えること。それは冷たさではなく、母として、ひとりの人間としての責任であることがうかがえます。
信頼が壊れた関係は簡単には戻りません。それでも、自分の人生を他人任せにしないと決めた真緒は、確かに前を向いています。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










