🔴【第1話から読む】慎ましく暮らしていたはずの私たち|夫は万引き犯でした
交通事故の賠償を抱えながらも、真緒は夫・弘樹と慎ましく家族生活を送っていた。医療支援が必要な長男と乳児の育児に追われつつも、夫婦で未来を語り合っていた矢先、警察から「夫が万引きで事情聴取を受けている」と告げられる。
慎ましく、それでも前を向いていた日々
私たちは、慎ましく暮らしていた。半年前に起こした夫・弘樹の交通事故、その賠償金の支払いが始まってから、外食は減り、休日の過ごし方も変わった。家計簿の数字を見つめながら、「今月は大丈夫そうだね」と小さく笑い合う。そんな日々だった。
加えて育休中の私は、毎日が子ども中心だ。生まれつき難病を抱える長男・陽斗の通院と、まだ生後7ヶ月の紗良の世話。体力的にも精神的にも余裕があるとは言えなかったが、それでも家族4人で前を向いている感覚があった。
「陽斗の保育園、もう少し調べてみようか」
「うん。医療ケアの相談も早めにした方がいいよね」
夜、子どもたちを寝かしつけた後の、そんな会話が希望だった。慎ましくても、家族で進んでいける。私はそう信じていた。
そう、あの出来事が起きるまでは―――。
突然の警察訪問、夫の万引き発覚
その日は突然だった。ある日の午後、インターホンが鳴り、モニターに映ったのは見知らぬ男性二人。制服姿に、妙な胸騒ぎがした。
「警察です」
その言葉に、後ろめたい事はないのに不安が募る。嫌な予感に緊張しながらドアを開けると、穏やかな口調で告げられた。
「ご主人が万引きの件で、事情聴取を受けています」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。万引き?弘樹が?
「……それ、どういう……」
声が震えるのを抑えられなかった。警察官は淡々と説明を続ける。近隣の店舗で、複数回確認されていること。現在は任意で話を聞いていること。妻である私にも確認したいことがあること。
頭が真っ白になった。足元が不安定で、今にも崩れ落ちそうだった。陽斗の薬の時間が迫っていることも、紗良が泣き出しそうなことも、すべてが遠く感じる。ただ、「弘樹が万引き」という言葉だけが、頭の中で何度も反響していた。
警察署へ向かう車の中で、私は必死に平静を装った。質問に答え、生活状況を説明し、夫の最近の様子を聞かれる。
「最近、ご主人の様子に変わった点はありましたか?」
「いえ……事故のことは気にしていましたけど……」
答えながら、胸の奥に黒い感情が広がっていくのを感じた。献身的に思っていた夫の姿が、次第に歪む。あの人は、何を考えていたのだろう。
賠償金が大変だと、何度も口にしていた。それでもつつましく生活はできていたのに。商品を盗むなんて選択を、どうして?
信頼の崩れはじめ──嫌悪へ変わる感情
待合室で一人、時間を潰しながら、私は過去の会話を思い返した。
「大丈夫」
「なんとかなる」
そう言っていた弘樹の言葉が、今では薄っぺらく感じられる。
事情聴取が終わり、警察官から説明を受ける頃には、驚きは嫌悪へと変わっていた。怒りよりも先に、冷めた感情が込み上げる。この人は、家族を守るために嘘をつき、盗みを重ねていたのか。それとも、自分の弱さから逃げただけなのか。
今まで一緒に積み上げてきたものが、音を立てて崩れていく気がした。家族だと思っていた。信頼していた。でも、このできごとをきっかけに私は、知らなかった夫の姿を知ることとなる―――。
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あとがき:家族を信じていた、その前提が崩れた日
家族のために我慢し、支え合っていると信じていた日常は、ある日突然崩れ去りました。この第1話では、夫の万引きという事実よりも、「信頼していた相手が、何を考えていたのか分からなくなる恐怖」が描かれます。真緒が感じたのは怒りではなく、静かに冷めていく感情でした。
「夫が万引き」という衝撃的なできごとは、夫婦関係だけでなく、母としての覚悟を問う長い物語の始まりにもなってしまったようです。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










