義父の死後、義母を支えるために同居を決めた麻衣たち家族。最初は穏やかだったが、やがて義母の態度が変わり始める。麻衣への嫌味や陰口が続き、心の距離が少しずつ広がっていく──。
義母を支えたいと思った
義父が亡くなった。私と夫の結婚を心から祝福し、会う度に朗らかな表情と優しい言葉をかけてくれた。まさに太陽のような人だった。娘の莉子と息子の蓮にもたくさんの愛情を注いでくれて、自慢の義父だった。
私たち家族は悲しみに暮れながらも、喪主を気丈に務める義母を支える形で通夜から告別式まで取り仕切った。
「麻衣さん、色々ありがとね」
火葬後の会食の時に、義母からかけられた言葉。その声は気丈な振る舞いとは裏腹に力なく、微笑む表情には悲壮感が滲んでいた。辛い状況にありながら、気丈に周りを気遣う義母の姿に、私は尊敬の念とともに「何か力になれないか」そんな思いを抱いていた──。
義父が亡くなってから初めて迎える春。私たち家族は義実家へと引っ越してきた。義父が病床につき、先行きが怪しい頃から私たち夫婦と義母の間で相談を進め、義父の死後、引っ越すことを決意。諸々の手続きを済ませてこの春、義実家へと移り住んだ。
「いらっしゃい。狭い家だけど、よろしくね」
「いえいえ。こちらこそお世話になります」
葬式後も義母とは度々会っていたものの、未だ憔悴し切っていた。声はか細く、微笑む表情にも力がない。
私たちとの生活で、少しでも明るくなってもらえたら──そんな期待を密かに抱き、義母との同居生活が始まった。
穏やかだった日々に滲む影
新たな環境に慣れるため、そして何より、義父との死別で落ち込む義母が少しでも楽になるように、私は率先して家事をこなした。義母も初めは遠慮がちだったけれど、次第に表情も明るくなって頼ってくれるようになった。
「麻衣さん、ありがとね」
微笑みながらそう伝えてくれる義母の姿を見る度に、私も少しは力になれているのかな──と心がほんのり温かくなるのを感じていた。
義母との同居を開始してひと月も経つ頃には、すっかり私たち家族も新たな生活に馴染み、義母も以前の明るさを取り戻しつつあった。これからの生活への期待に胸を膨らませ始めていた頃、突如として影が落ち始めた。
それは、いつものように家の掃除をしていた時だった。あらかた掃除を終えて道具を片付けていると、義母に声をかけられた。
「麻衣さん、ちょっと」
私は何か手伝いのお願いをされると思い、いつものように返事をして義母の方を向いた。しかし、義母の表情はどこか険しかった。
「掃除なんだけどさ、もう少し丁寧にやってくれるとありがたいなぁ。ほら、そこのホコリ見えない?」
義母の口から出たのは、掃除に対する注文だった。もちろん、私の掃除が甘かったのかもしれない。ただ、それを伝える義母の言葉はどこか刺々しく、これまでの穏やかだった義母からは想像がつかなかった。
「ごめんなさい……気をつけますね」
「しっかりと、お願いね」
義母はそう念押しすると、リビングに去っていった。同居を開始してから終始穏やかだった義母。その義母の嫌味な態度に私は面食らっていた。けれど、まだ義父と死別した悲しみが癒えていないのかも、と思い、それ以上深く考えることを止めた。
しかしこの日以降、度々義母のイヤミな言動が現れるようになっていった。掃除の仕方や料理の出来に始まり、子育てについても指摘してくるようになった。モヤモヤする気持ちを抱えつつ、それでも私は、お葬式で気丈に振る舞っていた義母の姿を思い返し、悶々とする気持ちを誤魔化した。
耳を疑った深夜の会話
ある夜。私がお手洗いに起きると、リビングの照明が点いていて義母の声が聞こえた。気になって静かにリビングに近づくと、どうやら通話をしているようだった。聞き耳をたてるのは良くないと思いつつ、私は会話に耳を傾けた。
「同居し始めたはいいけど、嫁が気が利かなくてねぇ」
漏れ聞こえてきたのは、耳を疑う言葉だった。穏やかで静かな強さを持っていると信じていた義母の裏の姿に、私は声も出せないままショックを受けた。
「家事も育児も詰めが甘くて……直哉とか子どもたちが可哀想よ!」
義母の口から止まらない、私への不満。それを聞くごとに、私の中の義母への信頼や憧れは不信感へと悲しみに変わっていった。
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あとがき:すれ違いのはじまり
「支えたい」という思いで始めた同居が、なぜこんなにも苦しくなるのだろう。義母の悲しみを理解したつもりで、麻衣は“嫁”としての正しさばかりを優先していたのかもしれません。
あの日聞いた言葉の痛みは、今後、義母との距離の取り方を考えるきっかけになっていきます。
同居生活は、ただの生活ではなく、“関係を映す鏡”なのかもしれません。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










