「湊、お疲れさま。何か食べる?」
「いらない。お母さん……あのさ、やっぱり私、志望校変えようかな」
キッチンで作業をしていた私の手が止まりました。
「……ランクを下げるってこと?」
「美奈子ちゃんと同じ高校に行くの、やっぱりこわい。もし、同じクラスになったら、また、今日みたいに教室にいられなくなる。それなら、最初から、もっと入りやすい別の学校にして、美奈子ちゃんが絶対に来ないようなところにした方がいいかなって」
湊の言い分も分かります。15歳の子にとって、教室の空気は世界のすべてに近い。でも、親としては……。
「湊…美奈子ちゃんとは、小学校からの仲じゃない。年末だって一緒に過ごしたし、親同士も知り合いでしょ? 今のケンカだって、一時的なものかもしれないよ?」
「お母さんは分かってない!」
湊が声をあらげました。
「あの子、キゲンがわるいと私をムシするの。他の子と仲良くしてると、イヤな顔をするの。私は、美奈子ちゃんが好きだけど、一緒にいると息が詰まるんだよ。高校でもこれが続くなんて、耐えられない!」
湊は部屋にかけ込み、ドアを閉めてしまいました。
私は台所に立ち尽くしました。あの子なりに、必死で耐えてきた結果の言葉だったのでしょう。 ※1
娘のメンタルは限界に…
娘・湊の友人とのトラブルは、親が想っている以上に深刻のようです。たしかに、中学生にとって「学校がすべて」ですね。親として、どのように声をかけるべきか、とても悩む状況です。
麻美は、夫に相談します。
娘のメンタルか、将来か…夫婦の話し合い
夜、仕事から帰ってきた夫の正光に、昼間の里佳子との話と、湊の様子を伝えました。
「正光さん、どう思う? 湊の意見を尊重して、志望校を下げるべきかな。でも、あの子の努力を思うと…どうしてもふん切りがつかなくて」
正光はウデを組んで考え込みました。
「……友だち関係を基準に進路を決めるのは、危ういな。でも、今の湊に"がんばれ"と言うのが正しいのかも分からない。湊がこわれてしまったら元も子もないしな」
私たちは、親として最大の難問にぶつかっていました。
子どものメンタルを守るのか、将来の可能性を守るのか。 里佳子が言っていた言葉が頭の中でリフレインします。
「私だったら、娘の将来だけを考えた高校を選ぶわ」
でも、今の私には、その言葉を湊にぶつける勇気がありませんでした。
翌朝、湊は目をはらして起きてきました。
学校へ行く準備をしながら、一言も発しません。このままでは、受験以前に湊の心が折れてしまう。私は意を決して、もう一度、里佳子に電話をかけることにしました。 ※2
娘の高校受験について、夫婦で話し合いをしましたが、結論は出ませんでした。親として、子どもの将来を重視したいものの、本人が潰れてしまっては…と思うと、強くは言えませんね。葛藤が伝わってきます。
そして、麻美は再び先輩ママ・里佳子に相談することに。電話で深刻な様子を察した里佳子は、家でゆっくり話そう、と誘ってくれます。実は、里佳子も現在高校2年生の娘の受験で、苦労したそうです。
先輩ママからの助言で、道が拓けた
里佳子は自分の経験も話してくれました。
「実は私もね、華の受験の時に、担任の先生に何度も相談したの。三者面談だけじゃなくて、電話でも個別に時間を作ってもらって…。親の不安も、娘の今の状態も、全部、正直に話したわ。そうしたら、先生が、華にぴったりの…私たちが考えてもみなかった、ランクが上の学校を提案してくれたの」
「ランクが上の学校?」
「ええ。そこは華の個性を伸ばしてくれるカリキュラムがあって、結局、中学のころの友だちとは、誰ともかぶらなかった。あの時、妥協して志望校を下げなくて本当に良かったと思ってる。友だち基準で選んでいたら、華は、今の充実した生活を送れていなかったでしょうね」
里佳子の言葉は、私の心のもやを少しずつ晴らしてくれました。
「麻美…娘さんの将来だけを考えてみて。友だちは"今"の要素だけど、学歴や環境は"一生"に関わることもある。湊ちゃんに、高校はあくまで"通過点"だってこと、教えてあげて」 ※3
里佳子の体験談を聞き、ようやく進むべき道が見えてきました。「ランクが上の学校」という、思ってもみなかった新しい選択肢があることを知りました。
先輩ママの助言がきっかけで、麻美はすぐに担任の先生に面談を申し込みます。友だちとの関係や今の成績など、すべてを話そうと決意したのです。
子どもにとって、学校での生活がすべてですね。ですが、外にはもっと広い世界が待ち受けています。それを、どのように子どもに伝えていくべきか、とても参考となる作品です。友人トラブルで志望校を下げるのは、本当にもったいないですね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










