娘の結衣にスマートフォンを持たせたのは、友達との連絡手段がLINE主流になってきたから。当初、直美は結衣が友達の輪を広げ、毎日を楽しそうにしている様子を見て、微笑ましく思っていました。
交換するメッセージは、他愛のない挨拶や持ち物の写真の送り合い程度です。しかし、ある晩、直美がふと娘のやり取りをチェックしたとき、その画面の中に、親として無視できない黒い影を見つけてしまいます。
「友達の輪が広がった」スマホデビューの半年間
小学5年生になった結衣にスマホを持たせてから、半年が経ちました。リビングで宿題をする結衣の隣で、母・直美は夕食の準備をしながら、時折スマホに送られてくる通知音を聞いていました。結衣はLINEをきっかけに、今までほとんど話したことのなかったクラスの子とも仲良くなり、友達の輪が広がったことに心から喜んでいます。
「ママ、見て!今日新しく買った文房具、みんなに褒められたよ!」
結衣が送ったシャーペンの写真には、「可愛いね!」「どこで買ったの?」という返信がたくさんついていました。他愛のないメッセージの交換は、直美から見ても微笑ましく、結衣の学校生活が充実している証拠だと感じていました。
直美は、スマホを買う際に結衣と約束をしていました。「このスマホの料金を払っているのは私たちだから、あなたの安全を守るためにも、ママはやり取りをチェックします。あなたを守るためだと理解してね」と伝えてあります。
結衣がその約束を覚えているかは定かではありませんが、直美は週に一度、こっそりと彼女のLINEの履歴をチェックしていました。
寝静まった娘のスマホで見た「息を飲む」トーク画面
ある夜、結衣が寝静まった後、直美はスマホのロックを解除し、トーク画面を開きました。いくつかのグループLINEをスクロールしていくと、急に空気が変わるようなメッセージのやり取りを発見しました。
それは、担任の先生に関するグループでのやり取りでした。
一人の子が「今日の先生の服、まじでダサかった」と送ると、別の子が「きしょいよね」と追従しました。そこから、先生の話し方や行動、容姿についての悪口が連鎖し、スタンプで笑い合うという、ネガティブな悪口大会になっていました。
直美は思わず息を飲んでしまいました。「きしょい」という言葉を、結衣たちが使っている事実に、胸がざわつきました。結衣自身は、悪口に乗っかって積極的に発言しているわけではありませんでしたが、「わかる〜」という軽いスタンプを送っていました。
直美の心に、モヤモヤとした感情が広がりました。このまま見過ごして良いのでしょうか。小学生の他愛のない愚痴だと割り切るべきなのか。それとも、親として介入し、言葉の重さを教えるべきなのか。直美はスマホを握りしめ、ため息をつきました。
🔴【次の話を読む】「無理に返信しなくていい」。スマホトラブルで親が教えるべき人間関係の距離
あとがき:子ども同士のやりとり、親としてどこまで介入すべき?
この第1話では、SNSがもたらす「友達の輪」という光の側面と、「集団での悪口」という影の側面が描かれます。主人公・直美が発見した先生への悪口は、子どもの世界における集団心理と、匿名性が生む言葉の軽さを象徴しています。
直美は、子どものプライバシーを守りたいという思いと、悪影響から子どもを守りたいという親心の間で、最初の葛藤に直面します。このモヤモヤは、直美が今後、娘のデジタルライフにどう関わるべきかという、重要な問いを突きつけることになります。










