「もうやめるって約束したよね」
「また株見てるの? 前に大損して、もうやめるって約束したよね」
私が問い詰めると、庸介はスマホを隠しながら鼻で笑います。
「これはギャンブルじゃない、運用だよ。家計を豊かにするためにやってるんだ。お前にはわからないだろうけど、優待目当てのチマチマしたやつじゃなくて、一気にドカンと稼がないと意味がないんだよ」
「その『ドカン』で、今まで何百万溶かしてきたと思ってるの? 前に車を買い替えようとした時、頭金が出せなかったのは誰のせい?」
「……それは、たまたま地合いが悪かっただけだ。次は必ず上がる。今は『買い時』なんだよ」
庸介には、驚くほど株のセンスがありません。 素人が下手に手を出して、暴落してはパニックになって損切り。上がってきたら焦って高値で掴む。典型的な負けパターンを繰り返しているんです。 ある程度、余剰資金の範囲内でやってくれるなら私も目をつむります。 ※1
「株式投資」という名のギャンブル
「投資」と言われれば、聞こえがいいですよね。ですが、株のセンスがまったくない素人が手を出すといたい目を見るのが株式投資。しかし、夫は何度も損をしているのにあきらめません。もはや、依存症と言っても過言ではありません。
以前、株が原因で離婚の一歩手前まで陥った過去があります…。
あのとき書かせた誓約書
2年前、庸介の隠し口座が発覚した時は、本当に離婚寸前でした。
当時の損失額は、なんと400万円。マイホームのオプションを諦め、必死に貯めたお金が、一瞬で電子の藻屑と消えたのです。
「もう二度としない。この通りだ!」
土下座する庸介の背中を見ながら、私は親友の佐代子に電話で相談しました。
『美恵子、それ病気だよ。一筆書かせなきゃダメ。証拠を固めて、いつでも逃げられるようにしなさい』
佐代子の助言に従い、私は庸介に厳しい条件を突きつけました。
証券口座のログイン情報を共有し、私がいつでも監視できる状態にすること。
現在持っている塩漬け株を精算するまで、新しい銘柄は一切買わないこと。
万が一、この約束を破れば、保有株を全て売却してその現金を私に渡し、即座に離婚に応じること。
これらを記した誓約書を書き、彼は泣きながら署名しました。 ※2
マイホームのオプションをあきらめなければいけないほど、株で大損した夫。このできとがきっかけで、誓約書を書かせました。
以降、美恵子は定期的に夫の証券口座をチェックしています。ですが、日々の家事・育児と、仕事復帰の準備とで、次第に余裕がなくなります。チェックを怠っていたことに気づき、久しぶりに口座へログイン。すると、300万円分の株が購入されていました。しかも、購入した日は、次女の1歳の誕生日です…。
すぐに夫に「家を出て行って」と告げます。ですがそのあと、どうするべきかなやみ、親友に電話をかけます…。
子どものために環境を変えたくない
昼休み、私は佐代子に電話をかけました。
『美恵子、まだそんなこと言ってるの? ご主人はもう、ただの投資家じゃないよ。それは立派なギャンブル依存症。病気なの。話し合って治るレベルじゃない』
「わかってる……。でも、家が。子どもの環境を変えたくないの」
『だったら、ご主人を法的に排除する方法を考えなきゃ。誓約書があるなら、それは強力な武器になるわ。でも、一人で戦わないで。義両親も巻き込んで、逃げ道を塞ぐのよ』
「義両親……」
庸介の両親は、穏やかですがどこか息子に甘いところがあります。でも、今の庸介の異常さを知れば、味方になってくれるでしょうか。
私は夕方、仕事帰りに保育園へ向かいました。
「ママ! パパは? 今日はパパとお風呂入る約束したんだよ!」
無邪気なカンナの声が、胸を締め付けます。
「パパはね、ちょっと遠くにお仕事に行っちゃったの。しばらく、ママと三人で頑張ろうね」
嘘をつく自分に嫌気がさしましたが、決意は固まりました。 今夜、庸介が帰ってくる前に、私は家の鍵を閉め、チェーンをかけました。そして、彼にメールを送りました。
『荷物はまとめて玄関に置いておきます。今夜は実家にでも泊まってください。話し合いは、後日、お義父さんたちも交えて行います』 ※3
当初、子どもたちをつれて家を出ることを考えていた美恵子。ですが、長女は今の保育園にたのしく通っており、小学校のことも考えると、引っ越しはためらわれます。それに、約束をやぶったのは夫のほうです。親友に相談し、美恵子の意思は固まりました。
金銭関係は身内といえど、信頼関係をおおきくゆるがすもの。最終的に家庭破綻もありえるということが、とてもよくわかるエピソードですね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










