保育現場で働いていた人間から見る、保育者減少の原因とは
今深刻な問題となっている「待機児童問題」。緩和傾向にあると言っても、保育士は足りていないのが現状です。
私自身保育現場で働いていましたが、一つの職場で長く務める定着率はあまり高くはないと思います。
子供は好きだ。熱意もある。しかし続かない、もしくは続けられない。
自らの経験をもとに、保育者減少の原因をいくつか挙げていきます。
1.保育現場の想像以上の過酷な現状
保育に携わる人間は、ほぼ全員が子供を愛しています。そのために学校に通い、必死に勉強して免許を取得するのです。学生時代は夢と希望にあふれています。
こんな先生になりたい!お世話になったあの先生みたいになりたい!たくさんの光に満ちています。
しかし実際現場に出てみると、その過酷さに体を壊す人が少なくありません。朝は早くから園に出て、夜遅くまで仕事する。帰宅後は就寝のみということも少なくありません。
子供達が登園する前に今日することの準備を、子供達が降園してからは園便りや行事の準備、子供達の為にと必死に保育者たちは働きます。
新人となると、いろいろなことがまだ軌道に乗っていません。しかしプロ。慣れない環境に加えて過酷な労働内容で心身ともに疲れ果て、最悪の場合は病んでしまいます。
そうなると正規雇用では働き続けられません。退職して治療に専念するか、パートタイムで働くかの二択になります。
子供に携わるやりがいのある仕事ではありますが、子供と一緒に体を動かしデスクワークをこなしクラス環境を整えるというたくさんの業務を一人の人間が背負っているのが今の保育現場の現状です。
2.労働と釣り合わない、安すぎる月給
朝は早く、夜は遅くまで働き通しの保育職。その給料は驚きの安さです。
私は保育士として働いていた時期と幼稚園教諭として働いていた時期があるのですが、私立の幼稚園教諭をしていたころの初任給は手取りで12万円ほどでした。
これは平均より多目だと思います。私の友人は保育所勤務時の初月給が10万円にようやく届くほどだったと言います。
朝から晩まで働いてもこの給料です。この給与から年々少しずつ額は上がりますが、安心できるほどの給料は得られません。
この給与状況なので離職率も高く、もっとも高いのが男性保育士ではないかと思います。男性は結婚すると家族を養わなければなりません。
いくら共働きがメジャーになっているとはいえ、この低所得では家族を養っていくのは不可能です。
女性保育士も妊娠もしくは出産で仕事を辞める人は少なくありません。自らの子を乳児期に保育所に預けて復帰せずに、育児に専念するという選択肢を取るのは親としての心情もあるかもしれませんが長い拘束時間に加えて給与の低さも手伝っているように私は思います。
3.保護者との接し方の難しさ
子供も親も人間です。人間とはそれぞれの個性を持っています。それと同時に保育士も人間です。人と人との関わりは、とても濃密かつ難しいものです。
自分が親になってこそ分かることもありますが、親だからこそ分かることと保育士としての子供への知識にはズレが存在していることも事実です。
双方が悪気があって言った言葉ではなくても、相手には重くのしかかることもあります。
そして我が子のこととなると、親は必死です。それは時としてモンスターペアレントという形であらわれることだってあります。そうなると保育士は太刀打ちできません。
特に、若い保育士は保護者からは年の功や育児経験の差と知識の違いで見下されがちです。
4.保育現場が“女の職場”であること
女性が多い職場が大変というのはママたちにも身に覚えのあることかもしれません。それはどこの職場でも同じことが言えるでしょう。
職場だけではなく、ママ友トラブルからも見えてくるように女性が多く集まる場所は、群れが出来、派閥が生まれちょっとしたいびりもあることでしょう。
それは女性ばかりが集まる保育現場でも同じです。時に先輩が特定の新人を必要に指導したり、責任を押し付けたりと理不尽なことも起こります。
新人はテンポもよくはなく、失敗もよくします。それだけでもかなりの罪悪感を抱いているのに、そこで先輩、しかも複数人や主任等の大先輩からの執拗な叱責等で心身がすり減っていき、最悪の場合退職しなくてはならなくなってしまっていることも実際起こっています。
5.サービス残業の多さ
先ほども触れましたが、保育士は子供と関わっている時間だけが仕事ではありません。子供達の行事に合わせて準備をすることも保育士の大きな仕事です。
例えば園児30人を一人の保育士で受け持っている場合、30人分の衣装や工作物の下準備を決められた期日までに一人で仕上げなければなりません。それだけではなく、並列して保育日誌やクラス通信、風邪等で欠席した子への電話をしたりと仕事が常に山積みです。
園児が降園してこのような作業に入るのですが、一応の定時はあってもその時間通りに終わることはほぼありません。しかし定時を過ぎたからと言っても残業代が発生することはありません。
いわゆる『サービス残業』です。
これも低賃金の理由で、離職後に復帰する人が少ない要因ともいえるでしょう。
准保育士について思うこと
保育士不足を減らすために提案されているのが、『准保育士制度の導入』です。
准保育士とは、育児経験のある主婦が3か月間の講習を受けて保育現場で働くというものです。確かに人手は補えますが、保育士としての濃密で専門的な知識を学びという点に関してはかなり不安が伴います。
現役保育士も、保育士の賃金が下がるのではないかと准保育士には賛成できないという意見が出ているようです。
私の考え
私はこの『准保育士制度』には反対です。
私も保育現場に出ていたのですが、保育と育児は全く持って異なります。確かに子育て経験は何よりの武器です。ですが育児をする感覚で保育現場に入られると、いざとなったときに意見の食い違いが生まれかねないのです。
例えば子供同士のけんかの場面。双方の意見を聞いて、両方の子供が納得するまで話し合うよう二人が話し合える環境を提供して、子供同士でできるだけ解決できるようなアシストを行うのが保育士です。
これは育児では経験できない、保育という専門職のできる業だと思います。
しかしこれを3か月の講習を受けたばかりの主婦に求めるのは不可能ではないでしょうか?子供が本当に納得できるよ追うな話し合いを進められるのでしょうか?
「今回は我慢しようか」と、どちらかの子に折れるような声掛けをしてして、子供の心にしこりを残してしまわないでしょうか?育児ならば「我慢しなさい!」で終わらすことができることでも、保育現場では通用しません。
ただの人数稼ぎで保育現場に人を入れるのは、私は賛成はできないです。
保育士が減らないためには…
保育士は子供の成長と発達を直で感じられる、素晴らしい仕事です。しかし上記の通り過酷な賃金であり、離職率も高めです。
私が思うに、男性並みの家族を養っていけるくらいの給与があれば少しは変わるのではないかと思います。
拘束時間が長時間にわたり、しかも子供の命を預かって一人一人の可能性を伸ばし育む大切な仕事なのに、離職を選択しなければならないなんておかしいと思います。
あともう少し男性の保育士が増えると、男性と女性のそれぞれの良さが保育に生かせるのではないでしょうか。
日本はもっと育児しやすい国にならなければというならば、保育に携わる人間が率先してその仕事に就きたくなり、尚且つ離職率が下がるような政策を打ち立ててくれなければ保育士不足解消は難しいのではないかと私は思っています。