相次ぐ保育園での死亡事故
最近、ニュースで複数件報告されている、保育園での死亡事故。特に、昼寝の時間の「うつぶせ寝」による事故が目立ちます。
保育園で年齢の小さい子のクラスでは、必ず行われているお昼寝。子供の健康のためにあるべき時間なのですが、その時間が子供たちにとって、危険な時間になっているのではないかと、筆者は母親として不安を感じています。
東京の企業内保育所での事故事例
先月11日、施設で昼寝をしていた当時1歳2か月の男の子が心肺停止の状態となり、搬送先の病院で死亡が確認されたということです。
男の子は、うつ伏せの状態で2時間以上寝かされていましたが、呼吸の確認は十分に行われず、異変が起きたあとすぐに人工呼吸などの救命救急の措置も取られていなかったということです。
国の保育指針では、乳幼児のうつ伏せ寝は、窒息などの突然死の危険性があるとして避けなければならないと明記されているほか、事情があってうつ伏せ寝にする場合は、職員がそばについて呼吸の確認をするよう求められています。 出典: www3.nhk.or.jp
この事故が起きた保育所は、7つの企業が共同で従業員のために設けた「事業所内保育施設」。事故に遭った子の母親は、仕事に復帰するために、自宅近くにある6ヶ所の認可保育園に入園申込みをしましたが、落選。
やむを得ず事業所内保育施設を使用することにしたのだといいます。
男の子は環境にまだ慣れず、よく泣いていたため、昼寝の時間は1人だけ別の部屋で寝かされていたとのこと。
慣れない保育所でのお昼寝では、泣いてしまうことはよくありますよね。他の子供たちのお昼寝に影響が出ないよう、別室で対応することは、他の保育所でもあることなのかもしれません。
しかし、そうした子供を1人にするという対応には徹底した安全管理が行われていることが絶対条件なのではないでしょうか。
大阪の認可外保育所での事故事例
市によると、男児は4日午後2時40分ごろから昼寝し、3時半ごろ、呼吸をしていないことに保育士が気付いた。人工呼吸や心臓マッサージをしたが蘇生しなかった。遺族から通報を受けて同日、立ち入り調査を実施。当日やそれ以前の勤務態勢表から、職員不足の時間帯や保育士不在の時間帯があったことが判明したとしている。 出典: www.nishinippon.co.jp
大阪の認可外保育所でも、昼寝中の呼吸確認不足による事故が発生しています。この事故事例でも、保育士不足や、保育士が不在になる時間帯があったと判明。
保育士が呼吸の停止に気づいたのは15:30頃。他の園児はすでに起きて、おやつの時間だったといいます。
1~3歳の子供11人がおやつを食べる、これは保育士2人がかかりきりにならざるを得ない状況だと想像できます。
けれども、職員不足、一人ひとりの保育士への負担や忙しさなど様々な要因から、かけがえのない「いのち」を預かるという意識が、薄れてきていると感じます。
施設側にとっては「たくさんの子供」でも、親たちにとっては、自分の命よりも大切な宝物です。
11年間での死亡例は160件、死因のデータがあるのは2013年以降のみ...
厚生労働省が2004年~2014年に調査を行った、保育所での事故に関するデータをご紹介します。
死亡事故の7割は「認可外保育所」半数は「0歳児」
2004年~14年の11年間で報告された、保育中の死亡事故は160件(うち1件は交通事故で4人が死亡)。
亡くなった163人のうち、認可保育所が50人、認可外保育所は113人と、大きな開きが見られました。また、年齢別でみると0歳児がもっとも多く、83人と半数にのぼりました。
2012年以前の死亡事故については、死亡原因の報告データがなく、比較的詳細な死因のデータがあるのは2013~14年の2年間のみです。
この2年間のデータを検証してみると、保育園に潜む危険がたくさん詰まっていました...。
睡眠中の死亡が8割近くに上る
比較的詳細な死因のデータがあるのは2013~14年の2年間のみですが、この2年間に亡くなった36人のうち、実に27人が「睡眠中」に亡くなっています。また、そのうち13人は「うつぶせ」の状態で発見に至りました。
あまりにも多い睡眠中の事故。うつぶせ寝による窒息リスクがどれほど高いかがわかるデータになっています。
また、この27人のうち、21人は「認可外保育所」での事故でした。保育園の人員配備や、呼吸確認に対する考え方の違いが、事故発生に影響しているのかもしれません。
全体の約3割が「病死」
2013~14年の死亡児36人のうち、乳幼児突然死症候群(SIDS)以外の病死は7人、SIDSは3人報告されています。
病死した7人については、どのような病気で死亡したのか詳しく公表されていません。SIDSは、突然死亡してしまう乳幼児特有の病気とされています。原因は特定されておりませんが、SIDSの発生率を下げるための予防策として、1歳まではあおむけに寝かせるなどが挙げられています。
忙しすぎる保育園の中で、子供の寝方を確認したり、子供の体調の細かい変化に気付いたりするだけの人材を配備できているのでしょうか...。
約1割は「窒息」
全体の約1割は「窒息」。食事中の窒息なのか、遊んでいる際の誤飲なのかは発表されていません。
窒息も、気が付いてからの119番通報のスピードと応急処置が大切ですよね。すぐに気が付いたからと言って、すべての死亡を防げるとは限りませんが、親としては、まず窒息しないようにしっかりと見ていてほしいですし、万が一誤飲があった場合には、すぐに119番、応急処置ができるだけの人員を確保してほしいですよね。
死因不明が6割
そして、実際にどうして亡くなってしまったかがわからない「死因不明」が6割にも上ります。
もしも我が子が保育園で亡くなる事故があったとして、「死因不明」と言われたら...納得できますか?筆者は絶対に、納得なんてできません。
しかし、現実として、死因が「わからない」とされ亡くなった子供たちが、2年間で22人にも及ぶのです。
2014年には「溺死」も発生
テレビでも報道されましたが、2014年には保育園内のプールでの溺死事故も発生しています。
プールは子供たちが大好きな遊びであり、ぜひ体験させてあげたいと感じますが、大きな危険がつきものでもあります。施設側では十分な配慮と、人員を確保したうえで実施してほしいですよね。
保育園での事故死亡率は0.007%
厚生労働省が2014年に報告された、保育園での事故件数に関するデータによると、2014年に発生した事故件数は177件。死亡の報告は17件となっています。
軽微な擦りむき等は報告されていないのかもしれませんが、事故にあった場合の死亡率は10%...。非常に高いという印象を持ちました。
また、全ての保育園の利用児童(認可保育所の利用児童数2,266,813人、認可外保育施設の利用児童数203,197人)に対する死亡率を計算すると、約0.007%。約10万人に7人が、死亡事故に遭う可能性があるという数値です。
このデータには、企業内託児所や、無届けの保育施設や保育ママは含まれていません。
この死亡率をどう見るかは、個人の考え方次第ですが、「我が子にも死亡事故に遭う可能性があるんだ」と十分に認識できる数値だと、筆者は感じました。
負傷事故はというと…年間160件で第1位は「骨折」
2014年の負傷事故報告のうち、約8割強にもなる133件は「骨折」。遊び盛りの5歳児に最も多いそうです。
5歳にもなると、保育士さんでも追いつけないスピードで行動したり、高い所に上るなどの動きも活発になりますよね。
さらには担任の数も減ります。親としては、骨折に至る前になんとか回避してほしい!とも感じますが、どうしても目が行き届かない面があるのかもしれません。
その他の「切り傷」「唇や歯の怪我」等は27件報告されています。
保育園事故に関する声がたくさん上がっています
保育園事故の報道やニュースを受けて、ネット上ではさまざまな声があがっています。
うつぶせ寝が怖い...
保育園でのうつぶせ寝の事故について知ると、自宅で子供がうつぶせで眠っているのも怖く感じますよね。
どこにも出さずに家に閉じ込めておきたい...
保育園に預けている間の事故は、どう頑張っても保護者には防ぎようがありません。
事故発生のニュースを聞くと、「手の届かない場所にいる」ということが、とても不安に感じますよね。
事故発生の園が入園候補に...
実際に事故が発生した園が、入園先の候補になっているという方も。
「事故発生の園は嫌だ」という気持ちと、働くためには保育園に入れないと...という思いが、ジレンマとなってしまいますよね。
働くことに罪悪感...
「保育園に行くと死亡のリスクがある」と感じてしまうと、守ってあげられない罪悪感と不安でいっぱいになりますよね。
しかし、働かなくてはいけない事情は変えることができません。こうした心の割り切りは、ママにとってとても辛い場合もあります。
大切なものを失いたくないという恐怖
子供を育てていくうえで「一切どこにも預けない」ということは、ほぼ不可能です。義務教育になれば、かならず学校に行くことになり、動きが活発になれば、いつでもママがついて回ることはできません。
「失いたくない」という思いと戦いながら、本人の自立を見守っていかなくてはいけないんですよね。保育園に預けることも、不安との戦いになりますが、働く以上は、子供にとっての「行くべき場所」であると、割り切って子育てをしていく必要があります。
子供1人ひとりの”命”を感じてほしい...保育園の安全水準を守って!
筆者の子供たちも、保育園に通っています。3歳の息子は最近ジャングルジムが大好きで、園庭に出るたびに登っているようです。1歳の娘は、お昼寝の時にうつぶせになるクセがあります。
私たち保護者は、保育園に子供たちの"命"を預けています。そして子供たちの"命"は、保護者である母親、父親の命でもあるのです。
「大切な子供を保育園に預けて、事故に遭ったら保育園の責任だなんて"無責任だ"」という声を耳にして、強い罪悪感を覚えたこともあります。
しかし、私たちは保育園に、子供たちを投げ出している訳では、決してありません。子供の命を守るために、保育園はもちろん、親も一緒に考えていく必要があるのではないでしょうか。
政府の”待機児童対策”に不信感を覚えます
そんな中、政府は待機児童対策のために、保育士1人あたりの担当児童数を引き上げたり、保育園の定員を緩和しようとしています。小規模園にも3歳以上の受け入れを求めるとしています。
保育園の安全水準を、さらに落とすような対策...これは、保護者として、とても受け入れられる内容ではありません。
政府からしたら、亡くなっている子供は、"わずか"0.007%なのかもしれません。しかし、その10万人に7人の子供たちは命を失い、その保護者や家族たちは、かけがえのない家族を亡くした苦しみを、一生背負って生きていくのです。
大好きなパパママの前でなく、誰にも見守られずに亡くなってしまった子供の辛さ、そして見ていられなかった保護者の思いを考えれば、こんな対策を講じるはずはないと思うのです。
筆者は1人の保護者として、保育園に関する安全基準が守られることを強く求めます。そして、最も多い睡眠中の事故を防ぐための安全対策を、全国(認可・無認可関係なく)で統一し、実施されることを求めます。
もうこれ以上、保育園で命を失う子供たちを増やすことがないよう、保護者側が声をあげていくことが大切です。
もうこれ以上、保育園で亡くなる子を増やさないために
相次ぐ保育園での死亡事故は、とても痛ましいものです。
この背景には、保育士不足(賃金問題)、保育園不足(認可園不足)等、待機児童問題から繋がる、複数の問題があります。
この事故原因を単なる「保育園側の注意不足」「人員配置ミス」で終わらせてしまっては、また違う園での事故を防ぐことはできません。
大切な事は、根本的な事故防止のための安全対策をとること。認可園だけでなく、認証園にも、強制力のある対策を講じることが大切なのではないでしょうか。
また、認可園についても、待機児童対策のために無理な定員数とすることがないように、現場の声を聞きながら対策をしていく必要がありますよね。
不安なことは保育士さんに相談を
パパやママは、事故について知るたびに、「自分の子がもしそうなったら」と不安になるものです。もしも自分の子供が通う園に対し、不安に思うことがある場合には、遠慮せずに保育士さんに相談をしましょう。
「うつ伏せで寝てしまう」「走り回るので安全が確保されているか不安」「食べ物を大きいまま飲み込む癖がある」など、些細なことでも相談をしていくことで、不安の解消に繋がるだけでなく、保育士さんも注意して見てくれるようになります。
子供を預けて働く以上は、安心して預けたいもの。保護者も黙っていることなく、積極的に声をあげていくことで、安全な保育につなげていけるといいですね。