出産後の離職率の高さ
子育てをしながら働きたいというママがいる一方、産後にそれまで働いていた職場を退職するママもいます。
国立社会保障・人口問題研究所が平成27(2015)年に実施した「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」の結果をお伝えします。この調査は900調査区に居住する50歳未満の配偶者がいる女性を対象に調査され、6,598票の回答を得たものです。
同調査では、2010年から2014年までに第一子を出産した女性のうち、72.2%は出産前まで就業していたことがわかりました。しかし、就業していた女性のうち、出産した後も仕事を続けた割合は53.1%。残りの46.9%の女性は、出産を機に退職しています。
また、出産を終えて、一番下の子供の年齢が3~5歳になると、就労していると答えた女性は61.2%になります。生まれたての子供を育てるために一定期間働かず、会社にも所属しない女性がことがわかります。
求職している女性の半数以上が25~44歳
総務省統計局のデータをもとに編集部作成
総務省統計局が行っている労働力調査で、15~64歳の女性のうち、現在働いていない人たちに就業希望の有無を聞くと、 2014年7~9月期平均で、就業希望者は273万人(21.0%)いることがわかりました。
さらに、就業希望者について年齢別にみると,2014年7~9月期平均で35~44歳が88万人(32.2%)、25~34歳が69万人(25.3%)と、25~44歳で半数以上を占めています。
25~44歳の女性の中で、就職希望を持ちながらも求職していない人に「なぜ求職しないのか」を聞くと、多い回答は以下のようなものでした。
総務省統計局のデータをもとに編集部作成
- 出産・育児のため:59.9%
- 勤務時間・賃金な どが希望にあう仕事がありそうにない:14.0%
子育て中のママたちは、出産や育児で仕事ができないと考えていたり、育児をしながらの仕事では、勤務時間や賃金が希望通りにはならないと思ったりしていることが、求職をしない理由になっているようです。
特に核家族のママは働くことをためらっている
さらに25~44歳の、現在働いていない妻がいる世帯のうち、どのような家族構成の世帯で働きたいと考えている妻が多いか調査すると、以下のような結果になりました。
- 夫婦と子供から成る世帯:83.7%
- 夫婦のみの世帯:10.1%
- 夫婦と親、子供から成る世帯:6.2%
このような結果から、特に核家族で子育てをしているママたちは、働きたいという思いを持ちながらも、働きにくさを感じていることがうかがえます。
- 総務省統計局「労働力調査トピックス」(http://www.stat.go.jp/data/roudou/tsushin/pdf/no14.pdf,2017年8月12日最終閲覧)
- 国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」(http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/NFS15_reportALL.pdf,2017年8月12日最終閲覧)
なぜ出産をすると、働きにくくなるのか
ママたちはなぜ、出産をすると働きにくくなるのでしょうか。「子供と一緒にいたい」という思いから求職しないママも中にはいると思いますが、働きたいという思いを持ちながらも、何か壁があって働けないママもいるように思います。
私自身は2人の子供を育てながら働く母親ですが、2人目の育休を取って復職した後、働きにくさを感じた1人です。検討した結果、子育てをしやすくするために仕事を変えました。私以外にも、ママたちが働けない、または働きにくさを感じる背景には、以下のような社会の現状があるように感じられます。
育児休業が取得できない
私の勤務年数から育休は取得できる事実は、国の専門機関にも確認しています。国の法律から見ても、権利はあるようです。5回の人事との面談の度、専門機関に相談していますが、同じことを言われます。(権利はある)なのに、会社に丁寧に説明しても認めてくれず、産後8週で復帰することを条件に在籍することを求められました。。復帰できなければ自己都合の退職です(;_;)
産休や育休について、取得できないと悩むママがいます。勤務年数などの条件を満たせば、誰でも利用できると国が定めている制度ですが、会社によっては利用を認めてくれない会社があるようです。
産後8週では、まだママの体の調子は戻っていないでしょうし、赤ちゃんのお世話も大変。すぐに預けることができる保育園が見つかるとも限りません。
そのような状態で「復帰できなければ自己都合の退職」と言われてしまっては、ママは離職を検討せざるを得ないかもしれません。
職場の理解が得られない
9時16時の契約で社員なのですが、22くらいの独身の子とかに、わたし7時からきてるのに、私もその時間で上がりたいですーとかいわれて、いかにも楽してんでしょ?ってニュアンスでいわれるのが嫌でたまりません。
こっちは5時半に娘に叩き起こされ、ご飯作って保育園行かせて走って職場行って仕事して休む間も無くお迎えにご飯に寝かしつけに歯磨き。全く楽なんかしてないし、むしろあなたたちの方が自由があるでしょといいたくなります。
職場の人たちの、子育てに対する理解はとても大切なことですよね。早く帰っているという事実だけを見て「楽でいい」と言われると傷ついてしまうでしょう。
男性のみならず、若い女性の同僚からの視線も気になる場合があることがわかります。子育てをしながら働くと、どうしても周囲の助けを借りなくてはいけない場面があるもの。そのような時は特に「どのように見られているのだろう」と気になってしまいますね。
子供の預け先がない
働いてないと保育園入れない
本当に悪循環すぎますよね。
知り合いは求職中でも入れたのに
私は全滅しました笑
かなりの待機児童がいる地域で
何が基準なのかさっぱりわかりません。
保育園の数が足りていない地域では、すでに働いている状態や、育休明けのタイミングでさえも入園できない場合があります。そのような地域で、求職中に保育園を探しても、見つかりにくいのが現状です。
働いていないと保育園に入れないが、保育園に入れないと働けない。これではいつまでたってもママが働き始めることは難しいでしょう。
ママが働きやすくなるために、会社と社会がすべきこと
ママたちのコメントから、子育てしながら求職をしたり働いたりする中では、いろいろな苦労があることがわかりました。
では、働きたいママたちが働けない現状を変えていくために、会社と社会はどのようなことに取り組むべきなのでしょうか。
法律で定められた制度は、堂々と利用できるように整備する
ママたちが「使いにくい」という産前産後休暇、育児休業、そして短時間勤務制度。これらはすべて「育児・介護休業法」で定められた制度です。産前産後休暇は条件なくどの労働者も使うことができ、育児休業についても「継続雇用1年以上」など、一定の条件を満たせば利用できます。
短時間勤務制度についても育児・介護休業法では以下のように定められています。
事業主は、その雇用する労働者のうち、その 3 歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていないもの(1 日の所定労働時間が短い労働者として厚生労働省令で定めるものを除く。)に関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づき所定労働時間を短縮することにより当該労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための措置(以下この条及び第 24 条第 1 項第 3 号において「育児のための所定労働時間の短縮措置」という。)を講じなければならない。 ※1
法で認められた制度を定められた範囲内で利用する以上は「取りにくい」「周囲からのプレッシャーがある」という状況は避けなくてはいけません。社会や会社側がこの法律について理解し、後ろめたさを感じずに利用できるよう環境整備をすべきです。
もしも制度を利用したいにも関わらず、会社側から使えないと言われたり、使いにくくなったりというトラブルにあった場合には、各都道府県に設置されている「労働局均等室」に相談してください。
- 厚生労働省「あなたも取れる!産休&育休」(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ikuji_handbook/dl/03-02.pdf,2017年8月13日最終閲覧)
- 厚生労働省「短時間正社員とは?」(https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/outline/,2017年8月13日最終閲覧)
- 厚生労働省「あなたも取れる!産休育休」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/31.pdf,2017年8月13日最終閲覧)
- 厚生労働省「労働基準法における母性保護規定」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/seisaku05/pdf/01d01.pdf,2017年8月13日最終閲覧)
ママのさまざまな働き方を受け入れる
ママの働き方は「正社員」「パート」だけではありません。短時間で働く正社員や、在宅勤務、フリーランスなど、ライフステージに応じて働きやすい方法を、それぞれがもっと自由に選択できる社会になると良いでしょう。
子育てに忙しい中、仕事も産前と同じように行うことは簡単ではありません。心も体も消耗しながら両立するよりも、それぞれが充実感を得ながら生活できるよう、選択の自由が欲しいと一人の母親として感じています。
十分ではありませんが、現在でも在宅ワーク、フレックス勤務などさまざまな就業形態を持つ会社は存在しています。働き方を変えたいと思ったときには、ハローワークなどを通して制度が充実した会社を探してみましょう。
保育園不足を解消する
自治体は「働きたい」という意思があるママが、保育園に関する不安なく求職活動ができるよう、待機児童対策に取り組むべきです。「働いていないと入れない。入れないから働けない」というジレンマを一刻も早く解消し、ママたちが働き始める手助けをしてほしいと思います。
企業でも、事業所内の託児所を設置している一部の企業があるように、働くママのニーズに合わせて託児所があれば働きやすさにつながるでしょう。
ママたちが求職活動をしたいときには、一時保育を実施している保育園を利用することが可能です。定員によって希望通りの日にちに預けられない場合もありますが、一度確認してみましょう。
働きたいママが、いつでも働ける職場と社会を
出産を機に職場を離れるママがいる一方、働ける場所があれば働きたいと考えているママもたくさんいます。ママたちが気にしているのは、子育てをしながら働ける場があるかということと、子供を安心して預けられる場所があるかということです。
職場や社会にとって、働くママは大切な人材です。働く時間に制約はあるものの、その分限られた時間の中で中身のある働き方ができるでしょう。そして育てられた子供たちが、将来は社会を支えていくのです。
働きたいと考えるママたちが、不安なく産休育休を取得して復職できたり、再就職できたりする社会になることを願います。