帝王切開は高額療養費の給付対象になる?
通常、妊娠・出産は病気ではないとみなされ、健康保険は適用されません。一方、帝王切開の手術には健康保険が適用されます。したがって、健康保険から給付される高額療養費の給付対象となります。
高額療養費とは、
- 同一世帯において
- 1ヶ月間(1日から月末まで)に支払った医療費が一定の金額(=自己負担限度額)を超えたとき
所定の申請をすることにより、後でその超過分を払い戻してもらえる制度です。
ここでいう健康保険とは、会社員や公務員が加入する健康保険組合と、自営業者などが加入する国民健康保険の両方を指します。お勤めの人であろうと自営業やフリーランスであろうと、条件を満たせば高額療養費の対象となるのです。
自己負担限度額は年齢や収入状況によって異なりますが、高額な医療費を払うことになっても上限が決まっているため、安心して医療を受けることができます。
70歳未満であれば、医療を受ける前に「限度額適用認定証」を発行してもらうとさらに便利です。限度額適用認定証を提示すれば、窓口で支払う医療費が自己負担限度額までで済みます。
帝王切開の手術代の目安
帝王切開の手術代は、平成28年診療報酬点数表によれば以下の通りです。
- 緊急帝王切開:22万2,000円
- 選択帝王切開:20万1,400円
前置胎盤の合併症や32週未満の早産、常位胎盤早期剥離が見られる場合などは、さらに2万円が加算されます。実際に窓口で負担するのはこの3割ですが、決して安い金額ではありません。
帝王切開で出産をした方、帝王切開の予定のある方は、高額療養費を忘れずに申請するようにしましょう。
高額療養費の金額
高額療養費として支給される金額は、一定の自己負担限度額を超えた部分です。
自己負担限度額は年収によって5段階に分かれています。厳密には、協会けんぽなどの健康保険組合(健保)では「標準報酬月額」、自営業者などが加入する国民健康保険(国保)では「年間所得」によって区分されます(被保険者が70歳未満、平成27年1月分の診療分から)。
①年収が約1,160万円以上
健保なら標準報酬月額83万円以上、国保なら年間所得901万円超の方が該当します。
- 自己負担限度額:25万2,600円+(総医療費-84万2,000円)×1%
- 多数該当(※):14万100円
②年収が約770万~1,160万円
健保なら標準報酬月額53万円以上83万円未満、国保なら年間所得600万円超901万円以下の方が該当します。
- 自己負担限度額:16万7,400円+(総医療費-55万8,000円)×1%
- 多数該当:9万3,000円
③年収が約370万~770万円
健保なら標準報酬月額28万円以上53万円未満、国保なら年間所得210万円超600万円以下の方が該当します。
- 自己負担限度額:8万100円+(総医療費-26万7,000円)×1%
- 多数該当:4万4,400円
④年収が約370万円未満
健保なら標準報酬月額28万円未満、国保なら年間所得210万円以下の方が該当します。
- 自己負担限度額:5万7,600円
- 多数該当: 4万4,400円
⑤低所得者
住民税が非課税の方などが該当します。
- 自己負担限度額:3万5,400円
- 多数該当:2万4,600円
(※)多数該当とは、高額療養費を支給された月が直近1年間で3ヶ月以上あること。この場合、4回目以降は自己負担限度額がさらに下がり、負担が軽くなります。
標準報酬月額についてはこちら:協会けんぽ「標準報酬月額・標準賞与額とは?」
高額療養費の申請方法
高額療養費の申請方法は医療を受ける前と受けた後で異なります。いずれの場合も、申請可能な時期は医療費を窓口で支払った翌日から2年以内。つまり、申請をすれば過去2年分までさかのぼって払い戻しを受けられるということです。
医療を受ける前に認定を受ける方法
逆子や前置胎盤、双子を妊娠しているといった事情で予定帝王切開が決まっているなら、事前に高額療養費の認定を受けて「限度額適用認定証」をもらっておきましょう。退院時に窓口で支払う金額が自己負担限度額までで済みます。
必要なもの
- 限度額適用認定申請書
- 健康保険証
- 印鑑
申請・支給の手順
- 健康保険の窓口で申請書をもらう
- 申請書に必要事項を記入し、健康保険の窓口へ提出
- 限度額適用認定証を受け取る
- 産院での支払い時、限度額適用認定証を提示
限度額適用認定証は健康保険料を滞納しているともらえない場合があり、有効期間も最長1年と限られていますので注意してください。
医療を受けた後に申請する方法
帝王切開の手術を受けて退院後、高額療養費を申請する場合の手順は以下のとおりです。
必要なもの
- 高額療養費支給申請書
- 医療機関の領収書
- 振込先の口座番号
- 健康保険証
- 印鑑
申請・支給の手順
- 退院時に医療費総額の3割を支払い、領収書を受け取る
- 健康保険の窓口に申請書と領収書を提出
- 指定した口座へ高額療養費が振り込まれる
医療費が月をまたぐ場合の注意点
高額療養費の支給金額のもととなる医療費は、毎月1日から月末までの1ヶ月単位で計算されます。そのため、帝王切開の手術日から退院するまでに月をまたぐと、月をまたがない場合より自己負担が多くなる可能性があります。
たとえば帝王切開の手術日が8月31日、月をまたいで1週間後に退院したとします。手術を受けて高額の医療費が発生した8月分で高額療養費を申請することになりますが、9月に入ってからの入院費用は自己負担限度額を超える金額にはならず(食事代などはそもそも対象外、詳しくは後述)、高額療養費は支給されないのです。
妊娠の経過や妊婦さんの体調が第一ではありますが、予定帝王切開などで日程の相談が可能であれば、月をまたがないようにしてもらうのも一つの方法でしょう。
高額療養費制度の注意点
高額療養費は帝王切開で手術費用などがかさんだ方にとって心強い制度です。ただし、対象となる金額を計算する際、次のような注意点があります。
差額ベッド代や食事代は高額療養費の対象外
そもそも健康保険が適用される医療費でないと、高額療養費の対象にはなりません。そのため差額ベッド代や入院中の食事代、健康保険対象外の負担分は高額療養費の対象外になります。
医療費の合算には条件がある
自分の分だけでは高額療養費の自己負担限度額に届かなくても、世帯合算が可能です。同一世帯、同じ月で家族が支払った医療費があれば合算し、自己負担限度額を超えた金額を払い戻してもらえます。
また、同じ人が同じ月に複数の医療機関を受診した場合も合算が可能です。妊娠中の転院や里帰り出産で医療機関が変わった方がこのパターンに当てはまります。
ただし、1件あたりの自己負担額が2万1,000円以上であることが条件ですので注意してください(70歳未満の被保険者の場合)。