私の番が来た。深呼吸し教卓の前に立つ。
「〇〇ユイの母です。いつもお世話になっております」
定型文の後、一呼吸。
「あの…実は娘のユイですが、まだ一人で学校に来ることが難しく、新しい環境に慣れるのに少し時間がかかっている状況です。ですので、毎朝付き添ったり、メンタルケアの先生にお力をお借りしたりしています。もしかしたら授業中に落ち着きがなかったり、ご迷惑をおかけすることがあるかもしれません。本当に申し訳ありませんが…一年間、どうぞよろしくお願いいたします」
言い終えると同時に深々と頭を下げた。
顔を上げると、教室はしーん…と静まり返っているように感じた。
(実際はそうでもなかったかもだけど)
保護者の皆さんの視線が痛いほど突き刺さる。早く席に戻りたい一心だった。
保護者会が終わりどっと疲れて帰宅。
(あんなこと、言わなきゃよかったかな)
後悔と、でも胸のつかえが少し取れたような妙な解放感もあった。 ※1
勇気を出して告げた娘の現状
登校しぶりが続く、娘のユイちゃん。保護者会で、そのことを打ち明けるべきかどう悩んだ末、「迷惑をかけることもあるかも」と考え、勇気をだして話してみました。正直に話してみたものの、気持ちは晴れなかったという、わたし。
そして、保護者会の翌朝、今日もユイちゃんの学校へ付き添います…。
翌朝、温かい光景が広がっていて
そして、運命の翌朝。
いつも通りユイと手を繋ぎ学校へ。下駄箱に着くと、昨日までとは明らかに違う光景が待っていた。
「ユイちゃん、おはよー!」
「あ、ユイちゃんだ!一緒に教室、行こ!」
「ねえねえ、昨日、カブトの折り紙いっぱい持ってたでしょ?すごいね!」
クラスメイトの子たちが、次から次へとユイに笑顔で話しかけてくれるのだ!
当のユイは相変わらず少し俯き加減でモジモジし、はっきりした反応は返せていない。
(そこは通常運転、笑)
でも、そんなことはどうでもよかった。子どもたちの、屈託のない、優しい声かけのシャワー。それを見ているだけで、私の目から熱いものがポロポロとこぼれ落ちた。うれしくて、ありがたくて、涙が止まらなかったのだ。
(……ああ、きっと……)
確信した。
昨日の保護者会の後、家に帰ったお母さんやお父さんたちが、自分の子どもたちに話してくれたんだ。
「ユイちゃん困ってるみたいだから、優しく声をかけてあげてね」
って。
そうとしか考えられない、明確で温かい変化だった。
なんて、なんて優しい人たちなんだろう。胸がいっぱいになった。
この学校で、このクラスで、本当によかった。 ※2
昨日とは明らかな変化に驚いたという、わたし。同じクラスの保護者と、子どもたちの温かさを感じた朝でしたね…。
ですが、結局、一学期中は登校しぶりが続いたそうです。長い夏休みへ突入し、親子はしばしの休息期間へ。そして、あっという間に夏休みが終わります。
夏休みが終わり、再び不安にかられ…
夏休み明けから数日経った、何の変哲もない朝。私が「ユイ、そろそろ学校の準備…」と言いかけた時だった。
リビングで絵本を読んでいたユイが、ぱたんと本を閉じ、私の顔をまっすぐに見上げた。そして、信じられない言葉を口にしたのだ。
「……ママ。あのね、今日、一人で行ってみる」
……えっ?一瞬、時が止まった。今、なんて言った?幻聴?混乱する私をよそに、ユイはもう一度、今度は少しはっきりとした声で繰り返した。
「一人で、学校、行ってみるから」
私の目を見つめるユイの瞳は、少し不安そうに揺れていたけれど、その奥には確かな決意の光が宿っていた。
嘘じゃない。聞き間違いなんかじゃない。
「……う、うん……!わかった……!」
私は、込み上げてくる熱いものを必死でこらえながら、震える声でそう答えるのが精一杯だった。 ※3
夏休み明け、ユイちゃんは「一人で学校へ行く」と言いました。小さな一歩かもしれませんが、今までの苦労を考えると、大きな成長を感じますね。半年間の母子登校から、前進した瞬間でした。
わが子のことを話すのは、勇気のいることですね。ですが、周囲を頼ったことで、助けてくれる人がたくさんいました。先生やまわりの保護者に「SOS」を出すことで、親子ともに救われる結果となりましたね。行き詰まった時、一人で抱え込むのではなく、周囲を頼る勇気も必要だと、改めて考えさせられるエピソードです。










