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🔴【1話から読む】入園以来、10人も先生が退職…こども園で一体、何が起きているのか
園の夏祭りに対し、違和感を抱えていた、加代子さん…。ある日、退職した先生から、園長の言動やお金の流れについて聞かされます。ママ友たちに園長の不正疑惑について伝えた加代子さんでしたが…。
退職した先生との再会
それは、思いがけない再会でした。
スーパーで値引き品をみていたら、はるとが、「あっ、あやか先生だっ!」と叫んだのです。振り返ると、少し離れた場所に、先日、急に退職したあやか先生の姿がありました。
はるとが年少のときにお世話になった、優しくて真面目な先生です。
はるとはあやか先生にかけ寄り、「あやか先生〜!どうしてこども園にこないの?」と話しかけていました。
「はると!」と、あわててたしなめると、あやか先生は笑って、
「いいんですよ。ごめんね、はるとくん。先生、もう先生じゃなくなったんだ」
あやか先生は、少しさみしそうに言った後、
「先生ね、今度からお花屋さんになるんだ」
と、ほほえみました。はるとは、困惑したような表情で私の顔を見上げました。
「あやか先生、お花やさんになるの?」
「そうだよ。先生のおうちはお花屋さんなの。お母さんのお手伝いをするんだ。はるとくんもお母さんのお手伝いするよね。おんなじだよ」
あやか先生は、優しい笑顔と声で言いました。
「うん…」と返事をしながらも、はるとは下を向いてしまいました。
「はるとくん…先生はお花屋さんになるから、こども園にはもう行けないけど、元気にいっぱい遊んでね。お友だちや妹ちゃんたちとなかよくね」
はるとは小さくうなずきました。あやか先生の「お花屋さんになる」という言葉は、まるで子どもを傷つけないための、魔法の言葉みたいにやさしく聞こえました。
私も思わず涙ぐむと、あやか先生はぽつりともらしました。
「はるとくんママ…お気づきですよね。いろいろ変わっちゃいましたよね」
私は言葉に詰まりました…。
違和感が確信に変わった瞬間
あやか先生は私の表情を見て、何かを覚悟したような強い眼差しを向け、静かに話し始めました…。
3年前…前任の園長先生が病気で退職されたあと、赴任してきた「矢島園長」。矢島先生が園長になってから、園内でさまざまなことが変えられてしまったという。
最古参の のりこ先生を退職に追い込み、古株の小杉先生が矢島園長の右腕のような状態になったこと。市の予算を下回る予算で運営させられていること…。
そして、園長の陰湿なプレッシャーについて。否定や無視、揚げ足取りの毎日に心を削られていったこと…。保育士という仕事に対して、自信もうしなってしまった…と、小さくつぶやきました。
「子どもたちや、保護者の方にも申し訳なくて…。でも、のりこ先生がいないんじゃあ、私…」
あやか先生の目には、涙がにじんでいました。
のりこ先生…。園児にも、若い先生方にとっても、お母さんみたいな先生でした。そして、私の子育ての恩人でもあります。園長先生と一緒に、園のためにいつも頑張ってくれていた先生でした…。
「この間の夏祭り…会費は高くなったのに、お昼は持参だし、ヨーヨーなんかポリ袋で…。ちょっと変だなって思っちゃって…」
私が思わず、抱えていた違和感を口にすると、あやか先生は視線を下げたあと、すぐに私の目をしっかりと見て、教えてくれました。
「私、資料室で見たんです。備品の発注記録…。太鼓のレンタル費、今年はすごく高くなってました。隣組から、いつも格安でお借りしていたのに…」
太鼓…。やっぱり…。私の中で、点と点がつながりました。
(矢島園長になってから…のりこ先生がやめてから、やっぱり何かがおかしくなってる)
あやか先生の話で確信を得た私は、ある決意を胸にしました。
ママ友たちの予想外の反応
「これ、ちょっと見てくれない?」
仲良しのママ友のランチ会で、私は持ってきた資料をそっと差し出しました。佳織さん、直美さん、和美さんがそれをのぞき込みます。
「今年の夏祭りの収支表…前のと比較してみたの」
「太鼓のレンタル費、去年の3倍?え、なにこれ…」
直美さんが顔をしかめます。
「しかも、ヨーヨーは手作りになったのに、材料費は上がってるし…。お菓子の数も減ってるのに、おやつ代は前年と同じなの。お昼だって持参だったよね?」
私は息を吸って、はっきりと言いました。
「矢島園長がピンハネしてると思うの…。この間、偶然、あやか先生に出会って聞いたんだけど…パワハラもすごいみたい」
言った。言ってしまった。胸がドキドキして、背中に汗がつたうのを感じました。
「ちょっと神経質じゃない?」
わずかな沈黙の後、和美さんが苦笑まじりに言いました。
「2000円なんて…今どき、どこもそのくらい取るよ?安いくらいでしょ」
直美さんも、諭すように言います。
「先生の退職なんて、そりゃいろいろ事情あるでしょ。子どもにとっては、たった一人の先生だけど、先生からしたら、一つの職場に過ぎないよね」
さらに佳織さんが続けます。
「パワハラとかさ…最近の若い子って、すぐそういう言い方するよね〜。ちょっと注意したら騒ぐっていうか…」
ママ友たちに伝わらない思い
私は資料を手に、声を震わせながら言いました。
「みんな、本当に何も感じなかった?最近、先生たちはピリピリしてたし…。夏祭りが毎年、ちょっとずつ不自然に簡素になっていくの…見てたよね?」
一瞬の間があり、みんなは口々に言いました。
「世の中、儲からないことをやるわけないからさ…」
「子どもが楽しめたなら、いいんじゃない?」
その言葉を聞いて、私は気持ちを飲み込みました。
子どもが楽しかった…確かに、それがすべてであり、大前提です。ママ友の言葉に、私はもう何も言えませんでした。
ランチの後、帰り道。いつもの川沿いの道を歩きながら、私は一人でつぶやきました。
「私がおかしいのかな……」
にぎりしめたレシートが、手の中でぐしゃっと音を立てました。あやか先生の表情…。私に希望を託すような目が、頭から離れません…。あやか先生は、あの時、どんな気持ちで、園の状況を私に話してくれたのだろう。
すばらしい先生たちが、理不尽な思いをして、園をやめていく…。あやか先生のように、保育士という道すら、断念してしまうほど、つらい思いをした人もいる…。
あやか先生やのりこ先生の顔を思い浮かべると、悔しい思いでいっぱいでした。
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あとがき:保護者としてできることとは
園長の不正疑惑について、ママ友たちにはっきりと意見を伝えた、加代子さん…。ですが、ママ友からの反応は意外なものでした。皆、園の変化に気づきながらも、それを見ないふりをしているかのようです。
あやか先生の告発にも近い訴えを聞いた加代子さんは、もう、園の理不尽な状況に対して、見過ごすことはできなくなっていました。不信感のある場所に子どもを預けなければいけない状況は、保護者としても放っておけませんよね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










