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🔴【1話から読む】入園以来、10人も先生が退職…こども園で一体、何が起きているのか
こども園の実態について、ママ友たちと市役所に訴えた、加代子さん。しかし、園長のけん制によって追い詰められます。その後、事態は思わぬ人物によって大きく動き出し…。
園長からのけん制
直美さんたちと、こども園の実態について市役所に訴えに行った、翌日…家族に朝食を作り、子どもたちの身支度をして園に行きました。
いつもどおりの先生たちの笑顔…。私は、昨日のことが頭に浮かび、妙に落ち着かない気持ちになりました。その日は、一日中ソワソワして、仕事も手につかない気持ちでした。そして、仕事が終わり、いつものように、子どものお迎えに行くと、今日は園長先生がわが子を連れて私の前にあらわれました…。
「はるとくんママ、お時間をいただけますか?」
ニコニコと張りついたような笑顔とやわらかな声の奥に、いい知れぬ圧力を感じました。
(市役所から、もう指導が入ったのかな…それとも、昨日、私たちが市役所に行ったのを、誰かに見られていたのかしら…)
園長先生に言われるがまま、園長室へと入ると、そこには直美さんたちもいました。直美さんは、私が部屋に入ってきたのを見ると、不安そうなまなざしを向け、そのまま床に目線を落としました。
「昨日、皆さんでどこかに行かれてたみたいですね。本当に仲良しのお母さまたちでいらっしゃいますね。なにか、困ったことでもありましたか?」
ただの雑談のようですが、その言葉にはあきらかな敵意がありました。さらに、園長先生は直美さんをしっかりと見据えて言いました。
「そういえば、きょうすけくん、ねんざをされたそうですね。ろうかを走っていたそうで…。ろうかを走ってはいけないと、ご家庭で教えていらっしゃらないんですか?この園では、ご家庭のしつけは大前提なものですから…」
どなるわけじゃない…。それどころか、歌でも歌っているかのような、しなやかな声でした。その、静けさと言葉の圧力が、私たちの心に重くのしかかってくるのでした。
反撃とその代償
その時、和美さんが叫ぶように言いました。
「園長先生が園内でお寿司を食べていたの、知っているんですよ!鮨まさの特上寿司!」
すると、園長先生は和美さんを見つめたまま、表情ひとつ変えずに言いました。
「私の実家と鮨まささんとは先々代からのお付き合いがありましてね、時々、差し入れてくださるのです。それが、お母さまたちに何か?」
静けさが広がり、誰も何も言いませんでした。園長先生は「きょうすけくん、お大事になさってね」と言って、去って行きました。
私たちは、とんでもない人を敵にまわし、とんでもないことをしてしまった…。そう気づいた時には、もう手遅れでした。私はいたたまれない気持ちで、頭を下げました。
「みんな、ごめん。私が変なこと言ったから…」
「そんなことないよ。市役所に行こうって言ったのは、わたしだし…」
直美さんの目には涙が浮かんでいました。いつも堂々としてクールな直美さんが泣いている…。
私は申し訳なくて、もうどうしていいかわかりませんでした。和美さんは、口をキュッと結んだまま、何も言いませんでした。いえ…ショック状態で何も言えないのです。
佳織さんは、
「相手が悪かったよ!きっと、不正疑惑もさ、完璧に隠ぺいしちゃうよ。モンスターじゃん、あんなの…。もしもの時はさ、転園しちゃえばいいよ!みんなでさ!」
と、明るく励ましてくれます。ですが、その後はなんとなく会話がへってしまい、グループLINEも途切れてしまいました…。
あの日以来、私は他の保護者からの、冷ややかな視線を感じ、逃げるように過ごしていました。きっと、「園長先生にたてついたおろか者」として、ウワサになっているのでしょう…。他の先生ですら、園長ににらまれるのをイヤがってか…以前のような親しみはなく、距離を置かれているような感じがします。
見てくれている人がいた
子どもの送り迎えをするだけの日々…。その日も、すぐに帰ろうとした、その時でした…。
「加代子さん」
声をかけてきたのは、まほさんでした。次女のゆずかと同じクラスでしたが、若いママで、グループも違うため、普段はほとんど話すこともありませんでした。
彼女は物静かで、いつもニコニコしています。何だろう…と、少し固まっていると、まほさんは静かに言いました。
「加代子さんたち、大変でしたね」
優しいねぎらいの言葉でした。
「なかなかできることじゃないですよ」と、澄んだ目で私を見つめる まほさん…。私はとまどい、何も言えなくなりました。
10歳以上も若い彼女に、温かい言葉をもらってありがたい気持ちと、恥ずかしいような気持ちになりました。「ありがとう」と照れ笑いをする私に、まほさんが言いました。
「私にも手伝わせてください」
まほさんは続けました。
「私の父の知り合いに、市の人がいて…話してみたんです。そしたら、会計の話も含めて“調査に入れるかもしれない”って言ってました」
「えっ…ほんとに?」
「はい、きっと大丈夫です」
まほさんはまっすぐに私を見て、言い切りました。
園に戻ってきた、心からの笑顔
「でも、どうして協力してくれるの?まほさんも園長先生ににらまれちゃうよ?」
「私、加代子さんのこと尊敬してるんです。保護者の役割を、イヤな顔ひとつせず、一生懸命やってる姿をずっと見てました。イモ掘りも発表会の準備も…ぜんぶ」
目頭が熱くなり、視界がボヤけました。
「加代子さんを助けたいんです。それに、加代子さんたちと同じ理由です。今の園には、安心して子どもを預けられないですしね」
私が、「先生たちを助けたい」と思ったのと同じ理由で、私を助けたいと言ってくれる人がいる…。感激して、私はまほさんに頭を下げてお願いしました。
数週間後…。矢島園長先生と小杉先生の退職が伝えられました。まほさんが動いてくれた後、すぐに行政から調査が入り、横領や備品購入時のキックバックがあったと言うことでした。すぐに、新しい園長先生が赴任するという知らせに、直美さんたちとガッツポーズをして、よろこびました。
まほさんは、やっぱり静かにニコニコしているだけでした。本当に敵に回しちゃいけない、強い人って、まほさんみたいな人なんじゃないかと思います。本当に、まほさんには頭が上がりません。
そして…なんと、のりこ先生が新しい園長に就任。子どもたちと先生の心からの笑顔が、やっと園に戻りました。私は、ふと、あやか先生の顔が頭に浮かびました。
あの時、あやか先生が話してくれなかったら…。きっと、私も行動しようとは思わなかったでしょう。
(あやか先生…きっと、すてきなお花屋さんになってるよね。でも、今の園を見たら、よろこんでくれるかな)
私は結局、何もできなかったけど…。勇気を出して行動した…それだけで自分を誇りに思います。
あとがき:勇気の一歩が変えた未来
園長の圧力に、一時は泣き寝入りをするしかない状況に追い詰められた、加代子さんたち…。ですが、そんな加代子さんに、思わぬ救世主があらわれます。まほさんの協力により、園長たちの悪事が白日の元にさらされました。結末には、スッキリとした展開が待っていましたね。
加代子さんの行動は、仲間や子どもたちを守る一歩となりましたね。たとえ小さな声でも、確かに届く瞬間があります。報われないと思えた努力が、思いがけない形で未来を変えることもあるのですね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










