©ママリ
私の脳裏に、あるパターンが浮かび上がった。非通知着信が頻繁にかかるようになってから、私はいつその着信があったかを意識的に記録していたわけではない。しかし、漠然とした記憶を辿ると、非通知着信があった日は、決まって佐藤さんと何かしらの交流があったような気がする。公園で会った日、ママ友たちとのランチ会、そして今日のスーパーでの立ち話。
まさか。そんなはずはない。詩織さんは、優しくて、明るくて、私に新しい生活の扉を開いてくれた人の一人のはず。彼女が、私に嫌がらせをする理由など、どこにも見当たらない。だが、私の心の中には、一度芽生えてしまった疑念が、音もたてずにしかし確実に崩れ落ちていくのを感じていた。明日からも、彼女との交流は続くのだろうか。そして、そのたびに非通知の電話がかかってくるのだろうか。
私はスマートフォンを握りしめ、画面に表示された「非通知」の文字をじっと見つめていた。その日は眠りにつきづらく、寝返りを何度も打った。この疑念を、誰に相談すればいいのだろうか。家族にも、ママ友にも、話すことはできない。私は一人、夏の夜の闇の中で、水中に浮き上がった泥が溜まっていくような、そんな不安と向き合っていた。 ※1
非通知で電話をかけてくる相手は…
主人公・ゆきのスマホに、よくかかってくるようになった非通知での着信。気味が悪いと思いつつも、そのままにしていました。ですがふと、今日1日のできごとを振り返ったとき、ママ友・佐藤詩織の顔が浮かんできたのです。彼女と接点があった日には、必ずと言っていいほどかかってくる非通知の電話…。
さらに同時期、ゆきのパート先のお店に、信じられないような口コミが投稿されます。
低評価のクチコミを投稿した人物
画面に表示された内容は、私の目を疑わせた。以前見た「レジ対応が悪い」という低評価のクチコミが、編集されていたのだ。内容はさらに具体的かつ攻撃的になっていた。「おばさんのレジ応対が悪く気分が悪い、安いから利用はするけどなんで雇用してるかわからない」と、そこには書かれていた。
「おばさん」――それは、私に向けられた言葉のように感じた。そして、投稿者のアイコンに目をやった瞬間、私の心臓は嫌な音を立てた。そのアイコンは、子どもが描いた少し拙さが目立つ微笑ましい絵だった。
以前、参観日で「私の大好きな人」というテーマで詩織さんの娘がうれしそうに発表していたのを鮮明に覚えている。子どもの絵だから似たり寄ったりと感じる人もいるかもしれないが1人の母親として、断言できる。さらに、その投稿者の他のクチコミを確認してみた。すると、他のママ友が働いているお店に対して、ことごとく高評価のクチコミを投稿しているのが目についた。まるで、私以外のママ友たちのお店だけを、意図的に褒め称えているかのように。
これでもう、確信に変わった。非通知着信も、この悪意あるクチコミも、すべて詩織さんの仕業だ。どうして、そんなことをするのだろう? 何のために? 彼女とは、つい最近まで、新しい環境でできた大切なママ友だと思っていたのに。笑顔の裏で、こんな陰湿なことをしていたなんて。私の胸に、得体の知れない恐怖と、深い失望感がこみ上げてきた。 ※2
非通知の着信に、低評価のクチコミ。そして、見覚えのある手書きアイコン…。ゆきの中で、さまざまなパーツがつながり、疑惑は確信へと変わります。
まさか、仲のいいママ友の1人が、こんな陰湿なことをしているなんて信じられませんが、他のママ友を通じて、佐藤詩織の本性を知ることとなります…。
知られざる、ママ友の気質
「実はね、天野さん。詩織さんのこと、私たちもちょっと距離を置いているのよ。」
田中さんの口から出た言葉に、私はやはり、という気持ちと、胸騒ぎが入り混じるのを感じた。
「詩織さんね…、結構、気性が激しいところがあるでしょう? 前々からいろいろとあったんだけど、決定的なことがあってね。」
田中さんは少し声を潜め、私の顔をじっと見た。
「詩織さん、ご主人の浮気が発覚した時にね、腹いせに自分も浮気をしたらしいのよ。」
私は思わず息をのんだ。耳を疑うような話だった。
「でね、それを私たちママ友に、まるで当然の権利であるかのように『相談』してきたの。ご主人が浮気したんだから、自分も同じことをするのは当たり前だ、って。最初はみんな、彼女が可哀想だと思って話を聞いてあげてたんだけど…あまりにも話の内容が、なんていうか…その…常識外れで。」
田中さんの言葉は、詩織さんの意外な一面を私に突きつけた。
「彼女はね、自分は何も悪くない、被害者だ、って一点張りで。それでいて、浮気相手との関係を赤裸々に話したりするの。まるで武勇伝みたいにね。みんな、さすがに引いちゃって…」
田中さんは言葉を選びながら続けた。
「結局、多くのママ友が彼女をブロックしたの。私も、連絡を取るのがしんどくなっちゃって…。浮気相手からも、結局ブロックされたらしいわよ。あまりにもしつこかったから、って話だけど…。」
私は絶句した。私の頭の中で、詩織さんの数々の行動と、田中さんの話がつながっていく。非通知着信、クチコミの悪意ある編集。これらすべて、彼女の歪んだ心理からきているのかもしれない。 ※3
夫への報復に、自分も同じ行為をしたなんて…。さらに、周囲のママ友へは、武勇伝のように語ったようです。佐藤詩織の、意外な一面を知ることとなりました。
このあと、ゆきは詩織にランチに誘われ、思い切ってカマをかけてみることに。非通知着信と中傷クチコミに悩み、弁護士に相談しようと考えていると告げます。すると、詩織の態度は急変。気性の荒さが露呈し、自ら犯人であるかのようなことを言い、その場を立ち去ります。
その後、詩織との交流はなくなり、クチコミはひっそりと削除されていました。すっきりとしない幕切れでしたが、勇気をだして話をしたゆきに、エールを送りたくなる作品です。
※このお話はママリに寄せられた体験談をもとに、個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。










