先生は湊の目をまっすぐに見て言いました。
「湊さん。君が行こうとしている高校は、一学年で300人以上の生徒がいる。クラスも8つに分かれるんだ。美奈子さんと同じクラスになる確率は、宝くじに当たるよりは高いけれど…それでも、たった8分の1だよ。もし、同じクラスになっても、そこにはあたらしい友だちが200人以上待っている。中学のように、特定の一人と向き合いつづける必要はないんだよ」
湊はだまって聞いています。
「それにね」と、先生はつづけました。
「ランクを下げるのは簡単だけど、一度下げたら、君のこれまでの努力はどうなる? "イヤな子から逃げるため"に、自分の将来をせばめるのは、あまりにももったいない。先生は、湊さんなら、今の志望校でも、十分にやっていけるし、そこでの生活の方が、君を成長させてくれると確信しているよ」
さらに、先生は私に向かって、こうアドバイスをくれました。
「お母さん、実はこの地域には、湊さんの成績なら、もう一段階上の、私立高校の特待生もねらえる可能性があります。そこなら、美奈子さんは受験しません。公立が第一志望なのは変わりなくても、そういう選択肢があることを知るだけで、心に余裕ができませんか?」 ※1
面談がきっかけで、変わり始めた未来
「トラブルの相手が同じ高校を受験する」のがイヤで、志望校のランクを下げようと考えていた娘。ですが、親としては、娘の努力と将来を手放すわけにはいきません。先輩ママにも相談をし、担任の先生と話し合うことにしました。
すると先生から、娘の努力を認めるような言葉をもらい、さらには新たな選択肢も示してもらうことができました。
面談を終えた娘は…
帰り道、湊の足取りは、少しだけかるくなっていました。
「お母さん。先生、あんな風に思ってくれてたんだね……」
「そうだよ。湊の努力は、先生も私も、お父さんもみんな見てる。友だちのことで、自分の未来をあきらめる必要なんて、どこにもないんだよ」
夕食時、正光にも、先生との話を共有しました。正光は、湊に向かって、しずかに語りかけました。
「湊…お父さんも昔、友だちに合わせて塾を選んで、失敗したことがあるんだ。結局、自分に合わなくて、途中でやめちゃった。自分の人生の主役は、自分じゃなきゃいけない。だれかの影にかくれて生きるのは、もう終わりにしよう」
湊は小さく、でも、力強くうなずきました。 ※2
人間関係のトラブルが原因で、自分の将来を諦めてしまうのは、本当にもったいないですね。努力を認めてくれる人、応援してくれる人がいることに気づき、「自分のためにがんばろう」と思えるようになった娘・奏。大きな成長ですね。
そして志望校を変えず、受験まで努力を重ねます。その結果、公立高校も私立高校も、両方合格という最高の結果を手に入れることができました。
いよいよ高校生活のスタート
そして迎えた入学式。
里佳子が言っていたことは本当でした。広い講堂に集まった新入生たちは、だれもが期待と不安を胸にした、あたらしい顔ばかり。
美奈子ちゃんも同じ高校に入学していましたが、別のクラスになり、部活動もちがう道を選んだため、顔を合わせる機会すら、ほとんどなくなったそうです。
「お母さん、あたらしい友だちができたよ! 吹奏楽部の先輩もすごくやさしくて……」
毎日、楽しそうに高校生活を語る湊。
あんなにおびえていた美奈子ちゃんとの関係も、「あぁ、そんなこともあったね」と笑えるくらい、今の湊には、自分の世界が広がっています。
もし、あの時、湊の「志望校を下げたい」という言葉をうのみにして、「逃げの選択」をさせていたら…。今のような湊の笑顔は見られなかったかもしれません。
私は、里佳子にお礼のメールを送りました。
「里佳子、本当にありがとう。あの時、背中を押してくれたおかげで、湊は自分の足で立ち上がることができたよ」
里佳子からは、すぐに返信が来ました。
「よかったね。親ができるのは、選択肢を広げてあげることだけだから。最後に歩くのは、子ども自身だもの。お互い、これからも見守っていきましょう!」 ※3
あのとき、逃げの選択をせず、本当によかったですね。親身になって相談にのってくれた先輩ママ、そして先生にも感謝ですね。
受験をする本人がいちばん大変ですが、受験生の親も同じくらいプレッシャーや葛藤を感じるもの。親として、どのように寄り添い、導いていくべきか、とても参考となる作品です。ときには、周囲の力を借りることも必要ですね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










