「もしもし?どうした?」
少しだけ胸がざわつく。電話の向こうで、里奈が息を吸う音がした。
「奈緒……あのね」
その声は、いつもより低いトーンだった。
「ちょっと、聞いてほしいことがあって」
いやな予感が、じわりと広がる。
「私──」
少しの間の沈黙が、とても長く、おもいものに感じられた。
そして──。
「私……拓也が好きなの」
友人の突然の告白に、頭がまっ白になる。
「……え?」
衝撃のあまり言葉が出ない。
「彼も私のこと好きみたいで……」
鼓動がドクンと大きく鳴る。昼間、公園でならんでいた2人の姿が、フラッシュバックする。笑い合う横顔、自然すぎる距離…あれは、ただの友だちじゃなかったの?
「でもっ、誤解してほしくないのは……まだ、何もないよ?」
里奈があわてたように付け加える。
「ただ……気持ちが止まらなくて……」
10年来の友情、それぞれの家庭、子どもたち──。
全部がぐらりとゆれる。私はスマホをにぎりしめたまま、言葉をうしなっていた。 ※1
友人の告白に感じた危うさ
今日は、奈緒・里奈・拓也のそれぞれの子ども連れで公園遊びを楽しみました。ですが奈緒は、妙に里奈と拓也の距離感が近いことに気づき、胸騒ぎを覚えていたのです。何度も自分の中で否定したのですが、奈緒の勘違いではありませんでした…。
まさか、それぞれの家庭も子どももいるのに、ここにきて10年来の友情が崩れてしまいそうなことが起こるなんて、予想をしていませんでした。
このあと、里奈は拓也のことを気になり始めたころのエピソードを語り始めます…。
お互い抱えていた「負の感情」
ある日の公園。子どもたちが砂場に夢中になっている横で、拓也がぽつりと言ったらしい。
「俺さ……最近、家帰るのがしんどい」
里奈は最初、冗談だと思ったという。でも、拓也は笑わなかった。
「何か言うとさ、全部、否定されるんだよな」
「それはちがう」「あなたがわるい」「だから出世できないんだよ」
そんな言葉が、日常的に飛んでくるらしい。里奈は思わず、言ったそうだ。
「……実は、うちもなんだよね……」
それが、始まりだった。
里奈の夫も似たところがある。大声は出さない。手も出さない。でも、言葉でじわじわ削ってくる。
「お前は要領がわるい」「俺が稼いでやってるんだろ?」
冗談みたいに言うけれど、笑えない。
「私がわるいのかなって、ずっと思ってた」
里奈はその時、初めて本音をこぼしたらしい。拓也は、真顔で聞いていた。
「……里奈はわるくないだろ」
静かで強い怒りが込められたような拓也のその一言が、里奈の胸に刺さったという。
否定されなかった。味方になってくれた。ただ、それだけ。でも、それがどれだけ救いだったか。
「奈緒……分かる?」
電話越しの声がふるえる。
──分かる。分かってしまう。
だれかに「あなたはわるくない」と言ってほしい夜があること。でも、その“だれか”が既婚の異性であることが、問題なのだ。 ※2
里奈も拓也も、それぞれの家庭でツラい思いを抱えていました。しかも、似たような境遇だったため、共感せずにはいられなかったようです。傷のなめ合いが、お互いの心をグッと引き寄せてしまったのです…。
奈緒は、里奈の気持ちも、拓也の気持ちも、痛いほどわかってしまいます。ですが、子どもたちのことを考えると胸が痛みます。奈緒は「不倫は絶対にダメだよ」と伝えるしかできませんでした。ですがその後、修羅場が起きてしまいます…。
危惧していたことが現実に
数週間後。夜おそく、里奈から着信があった。出た瞬間、彼女は泣き声だった。
「奈緒……やばい」
私は、里奈を落ち着かせながら話を聞いた。すると、次第に彼女の涙の理由が明らかになり、私は戦慄した。それは、私が想像していた“わるい展開”だった。
里奈はその日、拓也にメッセージを送っていた。
「今日もまた夫に否定された」「私、そんなにダメかな……?」「あなたと話してると救われる」
いつもの、なんてことない弱音だった。しかし、それを拓也の妻に見られたのだ。
拓也がお風呂に入っている間、テーブルに置いてあったスマホ。通知に表示された、里奈の名前。そして、内容の一部…。
里奈はふるえながら話す。
「拓也の奥さんから電話がきたの……」
拓也の携帯からだった。拓也かと思って胸を弾ませながら出ると、怒りが込められた女性の低い声が、冷たく、耳を刺すように聞こえてきたという。
「あなた、うちの主人とどういう関係ですか?」
一気に血の気が引いたらしい。
「……友だちです」
それしか言えなかった。実際、不貞の事実はない。子ども抜きで、2人きりで会ったこともない。でも、“ただの友だち”と言い切るには、少しだけ、後ろめたさがあった。
拓也の妻はどならなかったらしいが、とても冷たかったという。
「既婚者同士ですよね?家庭があるの、わかってますよね?」
淡々と正論を突きつけられ、里奈は何度もあやまった。
「誤解させるようなやり取りでした。もう連絡は控えます」
そうして、その場はなんとか収まった。
拓也も「誤解だ」と奥さんに説明し、ひとまず、夫婦の間でもこの一件は収まったらしい。 ※3
不貞の事実はないものの、精神的な面でお互いに支え合い、まさに「共依存」の関係に陥った2人…。拓也の妻に、疑われるのも無理はありません。
このあと、奈緒は友人として「きちんと考えるように」と、里奈と拓也、それぞれに忠告。お互いのパートナーのこと、そして何より子どものことを最優先に考え、順番を間違わないで欲しいと伝えます。
すると、奈緒の真剣な気持ちが届いたのでしょう。里奈と拓也は、それぞれ離婚し、いばらの道を歩むことを決意したのです。
もしも、友人同士が不倫をしてしまったら…。友だちとして、奈緒のように正しさを示すのは、とても勇気のいる行動です。ですが、友だちのために、見て見ぬふりはできませんね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。










