泣きじゃくる聡里。しかし、話を聞いているうちに、私は違和感を持つようになりました。彼女が「つるし上げだ」と主張しているのは以前から聡里を指導していた先輩がミーティングで上司に報告をしただけの話で、聡里が同じミスをしている回数も多いのです。私が聞いているだけで同じミスを何度もしているということは、きっとその先輩も困った末の相談だったのではないでしょうか。
私はとにかく共感することに徹してきましたが、今回ばかりは共感は彼女のためにもならないと思いました。そして、意を決して聡里の話を遮って声をかけたのです。
「聡里、落ち着いて聞いてほしいんだけどね。私が聞く限りそれはつるし上げではないと思うよ。先輩も聡里が同じミスを繰り返してしまうから、どうにか仕組みで解決できないか考えて上司に話してくれたんじゃないの?」
一瞬、電話の向こうが静まり返りました。冷たい沈黙が流れます。
「……亜紀は、私が悪いって言いたいの?」
「そうじゃないけど、まずはミスを謝ってから、このあとどうすればいいかを…」
「亜紀も裏切り者だね」
一瞬、聡里が何を言ったのかわかりませんでした。聡里は興奮した様子で続けます。
「なにもかも順調な亜紀にはわからないよね。私だって努力してるのに、みんなして私のミスをつるし上げて、私が悪いって言うんだよ?こんなにつらい思いしてる私が悪いってこと?」
聡里の中では自分は悲劇のヒロインで、自分の仕事への指摘は批判や否定にあたるようです。こんな後輩がいたら、聡里の先輩も大変だろうと思ってしまいました…。
「聡里、ちょっと落ち着いてよ」
「もういい、もう亜紀には何も話さないから」
たしなめる私の言葉など意に介さず「ガチャン」と激しい音と共に電話が切れてしまいました。 ※1
親友のために、意見したのに
毎回毎回、電話でも会っても愚痴ばかりの聡里。今日も、深夜に電話がかかってきました。ですが、よく内容を聞いてみると、聡里にも非があり「つるし上げ」と騒ぐほどのことではありません。そこで、意見をすると、聡里は気分を害したのでしょう。逆ギレしたのです。
愚痴ばかり聞かされるのは、本当にしんどいですね。亜紀は、何とか解決策を探ろうと意見をしたのですが、それすらも無下にされてしまったのです。
ですが亜紀は、親友を怒らせてしまったことを後悔したのです。
翌朝になっても、心はどんよりしたまま
翌朝、私は会社を休みました。体が鉛のように重く、起き上がることができなかったのです。士郎さんは会社を午前半休にして、私のそばにいてくれました。
「俺も聡里さんと亜紀のことが気がかりでさ、ちょっと調べてみたんだけど…」
士郎さんが見せてくれたタブレットの画面には「エナジーヴァンパイア」という文字がありました。
「エナジーヴァンパイア?」
「うん。一緒にいるだけで元気を吸い取られる相手のこと。本人は相手に自分のネガティブ感情を投げつけてすっきりするけど、聞いた方は滅入ってしまって、まるでエネルギーを吸血鬼に吸い込まれたみたいになるらしい」
サイトを読み進めるうちに、私と聡里の関係にぴったり当てはまることがわかってきました。
「相手を支配したがって迷惑な時間に電話をかけてくる」
「相手の話を聞かず、自分の話ばかりする」
「アドバイスを攻撃と受け取る」
すべてが、聡里に当てはまっていました。私は親友だと思っていたけれど、彼女にとって私は「都合の良いエネルギー供給源」でしかなかったのかもしれません。
「聡里さんは自覚がないかもしれないけど、完全にこれに当てはまるよ。このままじゃ、亜紀の心が壊れてしまうと思う」
士郎さんの言葉が、真っ暗な部屋に差し込む光のように感じられました。私は自分を責める必要なんてなかったんだ。私が疲れていたのは、私の心が弱いからではなく、彼女に奪われていたからだったのです―――。 ※2
夫・士郎のおかげで、聡里の本性を知ることができました。それと同時に、亜紀は必要以上に自分を責めなくてもいいと思えたのです。原因がわかり、本当に良かったですね。
その後、こりずに聡里は再び亜紀に愚痴の連絡をしてきたのです。「昨日は言い過ぎた」と、軽い謝罪のあと、「会って話したい」というメッセージが続いていました。そこで、亜紀は…。
もう自分を犠牲にするのは辞める
私は、聡里へのメッセージを打ち込みます。なるべく感情的にならず、事実だけを淡々と綴ります。
「聡里、今までは聡里との友情を優先したくて話を聞き続けてきたけど、昨日の聡里の言葉ですごく傷ついたよ。聡里の問題を解決するのは、私ではなく聡里だよね。今の私はもう、話を聞く力は残っていません。どうすればいいか自分で考えて行動してみて。もう連絡は不要です」
送信ボタンを押した直後、すぐさま着信がありました。でも、私はもう直接の対話はしないと決め、それを拒否してブロックすることを選んだのです。SNSも含め、聡里とのつながりはすべて断ちました。
それから1か月。私の生活は劇的に変わりました。 まず、夜によく眠れるようになりました。スマホの通知に怯えることも、朝起きた時の憂鬱な気分もありません。士郎さんとの会話も増え、料理や読書を楽しむ心の余裕が戻ってきました。
一方で、風の噂で聡里のその後を聞きました。共通の知人によると、彼女は私にブロックされた後、職場の他の同僚を愚痴のターゲットにしたそうです。しかし、その同僚は私ほどお人好しではありませんでした。
聡里が「死にたい」「会社が悪い」「先輩を辞めさせたい」と騒ぎ立てたところ、その同僚は冷静に録音を取り、人事部に相談したそうです。「情緒不安定な言動で業務に支障が出ている」として、聡里は産業医の面談を命じられ、現在は休職中とのこと。自分のミスを他人のせいにし続けた結果、社内での信用を完全に失ってしまったようです。
自業自得、という言葉が浮かびました。でも、不思議とスカッとするというよりは、「これでよかったんだ」という静かな納得感がありました。 ※3
「親友」という言葉で縛られ、愚痴聞きに徹していましたが、この関係は本当の親友ではありませんでした。親友とは、ともに支え合い、ときには本音をぶつけ合うこともできるような仲です。一方的にエネルギーを吸い上げる関係は、都合のいい関係でしかありません。
今回、亜紀は自分が被害者であると気づくことができ、本当によかったです。あなたも、親友という言葉に縛られていませんか?「一緒にいて疲れる相手」は、要注意です。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










