30歳の亜紀は、夫・士郎との穏やかな生活を送る傍ら、高校時代からの親友・聡里からの深夜の愚痴電話に悩まされていた。被害者意識の強い彼女の話を「親友だから」と聞き続ける亜紀だが、心身は次第に削られていく。
心がざわつく原因は親友?
「亜紀、まだ起きてる?あのさ、聞いてほしいんだけど…」
スマホの画面に躍る『聡里』の二文字。時刻は夜の11時を回ったところ。30歳、結婚して3年。夫の士郎さんと穏やかに過ごすリビングで、私の夜はこの通知でげんなりしてしまいます…。
私の名前は亜紀。都内の事務職で働く、いたって普通の30歳。士郎さんとは価値観も合うし、大きな不満はありません。ただ最近一つだけ、どうしても心がざわつくことがあるのです。それが、高校時代からの親友・聡里との関係でした。
「聡里、 どうしたの?こんな時間に…」
「ごめんごめん…もう、本当に会社の上司が最悪で眠れなくてさ。私のこと何もわかってないんだから…」
親友なんだから、聞いてあげないと…
受話器越しに聞こえるのは、低くて重い、湿り気を帯びた声。聡里は昔から、少し引っ込み思案で、損をしやすいタイプでした。高校のころ、文化祭の準備で孤立していた彼女を助けてから、私たちは「親友」になったのです。当時の私は、自分を頼ってくれる彼女がかわいくて「守ってあげなきゃ」なんておこがましいことを思っていたんです。
「そっか~、大変だったね。具体的に何があった?」
「それがさ、私がせっかく作った資料を……」
そこから30分。私は相槌を打ち続けました。彼女の話は、常に「自分がいかに被害者か」という一点に集約されます。聞いていると気が滅入るのですが、友人として頼られているんだから期待に応えなくちゃと思っていました。
電話の後の疲労感
電話を切った後、どっと押し寄せる倦怠感。まるで見えない掃除機で、体中のやる気を吸い取られたような感覚です。
「亜紀、顔色悪いよ?」
ソファーで本を読んでいた士郎さんが、心配そうに覗き込んできました。
「……うん、ちょっと疲れちゃったかな。聡里の愚痴聞くのって、エネルギー使うんだよね」
「また愚痴? 亜紀は優しいのがいいとこだけど、あんまり抱え込みすぎるなよ。自分の時間がなくなるだろ」
士郎さんの言葉に、胸の奥がチクリと痛みました。そう、自分の時間。最近、聡里と話した後は、楽しみにしていた読書も、士郎さんとの会話も、何も手につかなくなる。ただ、どす黒いモヤモヤが胸に溜まって、ため息ばかりが出てしまう。
「うん…でもまあ、毎日じゃないし大丈夫。今日はもう寝るよ」
私は自分に言い聞かせるように笑いました。でも、その時の私はまだ気づいていなかったんです。友情という名の絆が、いつの間にか私を縛り付ける鎖に変わっていたことに―――。
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あとがき:優しさという名の「心の穴」
「友達なんだから助けなきゃ」という責任感、心当たりがある方も多いのではないでしょうか。第1話では、加害者側に悪気がない(ように見える)からこそ拒絶できない、現代女性のリアルな葛藤を描きました。
亜紀が感じている「見えない掃除機で吸い取られるような倦怠感」は、心の防衛本能が発するSOSです。優しさが、自分を傷つける刃になっていないか。まずはその違和感に気づくところから、物語は動き出します。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










