Ⓒママリ
幼稚園の送り迎えで出会った藤井さんと親しくなった柚月。共通点が多く“気の合うママ友”だと思っていたが、交流が深まるにつれ、少しずつ違和感が芽生え始める――。
この人なら、わかってくれると思った
「ねえ、明日も来ていい?」
あのとき、私はなぜか笑って「いいよ」と言ってしまった。でも、そのときからもう、予感はあったのかもしれない。
高瀬 柚月。私は、夫と二人の子どもと暮らす、ごく普通の母親だ。人付き合いは得意じゃないけれど、それなりに周囲と折り合いをつけながら、幼稚園の送り迎えをして、静かに暮らしていた。藤井さんと出会うまでは──。
ある日のお迎え。帰りの会終了を待つ間、ママさんたちと立ち話をしていた。すると、一人のママさんから「今度、公園遊びしに行きません?うちの子も遊びがってたし、子ども連れでも入りやすいカフェもあるの!」とお誘いがあった。「休日はお家にいたいなあ」「ほかの子ケガさせちゃったらどうしよう?」「カフェ代、どれくらいだろ?」という不満や不安を抱きつつ、快諾していくほかのママさんに同調する。
「さよーなら!」
子どもたちの元気な声を区切りに、立ち話が終わる。切り替えの早いママさんたちが子どもの元へ向かう中、出遅れていると、一人のママさんが残っていた。
彼女は藤井美奈さん。娘のまこと同じ年長クラスに、息子さんの悠真くんが通っている。藤井さんの印象は“おとなしい”感じで、ママさんたちの会話に混ざっていたのも少し意外だった。藤井さんも誘いにのっていたけど、表情の僅かな強張りから「私と一緒のこと思ってるのかな」と密かにシンパシーを感じていた。藤井さんも私の存在に気づいたのか、私に視線を向ける。気まずさを打ち消すように、私から話しかけた。
「……公園遊び、楽しそうだけど、準備とか、大変かもですね」
「……そうですね。カフェ代も気になりますし」
どうやら、感じていたことは同じだったようだ。
気が合うと思っていたのに
その日以降、藤井さんとの交流機会が増えた。登園・退園の立ち話に始まり、自宅に招くこともあった。それまで控えめだったためにお互いをよく知らなかったけど、交流を重ねるうちに似ている点が多いとわかった。インドア派で内向的、家族構成まで同じだった。
共通点の多さ、何よりも内向的な性格から「気の合うママ友になりそう」、そう思っていた。
ある日のお迎え。立ち話をしていると、下の子の陽翔が「早く帰りたい」とぐずり始めた。元々「藤井さんの話、少し長いなあ」と感じていたけど、おしゃべりさんだと思って聞いていた。
「陽翔くん、ごめんね?遊びたいよね?長くなってごめんなさい。気をつけます!!」
会話を中断させてしまうことに少し申し訳なさを感じつつ、帰ろうとした。そのときだった。
「あ、そういえばね……」
予想に反した行動に絶句した。ぐずる子どもを見て、私にも謝っていたのに、まるで何事もなかったかのように話に戻った藤井さん。子どもたちに申し訳なさを感じつつも、そのときの私は、波風を立てぬよう、ただ話を聞くことしかできなかった。
その人は、私の“家”に入ってきた
帰宅後、家事や子どもたちの寝かし付けがひと段落するころにも、藤井さんからLINEが送られてくる。ロック画面のバッチ通知は、全文を表示しきれずに途切れていた。一通だけでも返信に疲れそうな文面が、複数送られてきて、望まない夜更かしを強いられているようだった。
このころから私は、藤井さんの言動に少しずつ、違和感を抱き始めた。
とある日、子どもたちが体調を崩して休園した。子どもたちを心配する反面、「藤井さんに会わなくていいんだ」と、内心どこかホッとしていた。そんなとき、インターホンが鳴った。カメラを覗き驚愕した。そこには、藤井さんが映っていた。
「うちの子から、まこちゃんお休みしたって聞いて。食べられそうなもの買ってきてみたの」
「なんで家まで?」近すぎる距離感に恐怖さえ感じたけど、無視できない状況に玄関に出た。すると、心配を盾に自宅に上がり込んでは、結局藤井さんの話に付き合う形になった。ひとしきり話し終えると、帰り際、藤井さんがさも当然のように、無垢に微笑みながら言った。
「子どもたちも柚月さんも心配だし、明日も来ていい?」
私は曖昧に笑った。その瞬間、藤井さんの中で「この家は自分の居場所」と認識された気がした。
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あとがき:「気が合う」の落とし穴
本作では、共通点の多さから始まったママ友関係が、少しずつ違和感へと変わっていく過程を描いています。相手に共感したつもりが、いつの間にか深く踏み込まれていた——。そうした日常に潜む距離感のズレや、「気が合う」と思った相手との関係がどのように変化していくのかを丁寧に綴った物語です。静かに忍び寄る不安と、断りきれない葛藤が交錯する関係性の始まりを描いています。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










