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🔴【第1話から読む】“気の合うママ友”が、少しずつ怖くなっていくまで|もうやさしくできない日
距離をとっても見え隠れする、藤井さんの干渉や支配的な態度に怯える柚月。誰にも言えないまま、彼女は“限界”に近づいていく──。
深夜0時のLINE──止まらない“かまって”と支配の気配
藤井さんのお迎え時の追い回しや自宅前の徘徊は続いたけど、ばったり出くわさないようにお迎えの時間をずらしたり、おうち時間を子どもたちと充実させて何とかやり過ごしていた。卒園まで約半年、「絶対子どもには不自由させない」この意志と子どもたちだけが、私の拠り所だった。
藤井さんから逃れることにも“慣れ”を感じ始めていた、ある夜。穏やかな深夜の静寂を打ち消すように、LINEの通知が鳴った。嫌な予感が過ぎって、通知音が増えるたびに予感が確証に変わっていくように感じた。
返信しても無視しても終わらない──“歪な関係”の袋小路
スマホを手に取り、ロック画面で通知を確認すると、案の定、藤井さんからのLINEだった。連投されるメッセージに嫌気が差し、こまめに確認したのでは埒が開かないと思い、通知の音が止むまでスマホの画面を伏せて、その場を離れた。
時間が経ち、通知音が落ち着いた。時計は深夜0時を回っていた。2桁の通知バッチと全表示しきれないメッセージ内容を確認し、今夜中の返信は無理だと思い、眠りについた。
翌朝、洗濯物を干しながらスマホを見る。昨晩開かなかった藤井さんからの未読メッセージがそのままそっくり残っている。気が進まないがトーク画面を開く。長文かつ数十件に及ぶメッセージの内容は、“かまって欲しい”が前面に出た「もう寝ちゃった?」などの文に、厚顔無恥でどこか上から目線な質問と提案という構成だった。
「私の勘違いだったらごめんなさい。だけど、最近の柚月さん、なんだかおかしい。変よ」
「もしかして、私、何かした? もし、今の状態が柚月さんの“ふつう”なら、私も割り切ります!」
「もし不都合あるなら、私、ちゃんと合わせるから」
「私たち、気の合うママ友なんだから、何でも話してよ!」
下から伺うような文体に滲む傲慢さを、気づいていないことに気味の悪さを感じた。私を否定しつつ、自分はあたかも真っ当だと表現しているようで読むだけで疲れた。何を返信しても藤井さんに良いように解釈される気がして、私は返信のメッセージを打つことなくトーク画面を閉じた。
その日の深夜、くつろぎながらスマホで動画を見ていると、またLINEの通知音が鳴った。画面上部に一瞬映るメッセージ内容には「返信に困っているの?」と書かれていて、続いて送られてきたメッセージの通知には「やっぱり、何か変だよ。柚月さん」という文字。そこからは言葉を変えて、昨晩と同じような内容のメッセージが次々送られてきた。そして、このメッセージと私の既読・未読無視のやり取りは、その後数日続いた。
返信を送らないと止まないメッセージ。だけど返信したところで、結局は藤井さんの都合のいいように解釈されるオチは見え透いていた。一向に解決しないこの“歪な関係”のジレンマに、私は次第に追い詰められ、限界を迎えようとしていた。
理解されない痛みと、やさしさが壊れた夜
その週の金曜日。このままでは一人じゃ抱えきれないと感じ、夕飯後、夫に相談してみた。あるママ友に依存されていること、付き纏いのようなことをされたこと、連日深夜にも関わらずLINEを送ってくることなど、洗いざらい話した。
身体を向け、相槌を打ちながら聴いてくれて、本当の理解者はそばにいたんだと、期待に胸を膨らませた。しかし、話し終えた後に夫が放った言葉は、私が期待するものではなかった。
「大変だったんだね。いや〜でもママ友関係って、そんな複雑なんだね」
「ただ、その人も柚月を頼ってくれてるんじゃない? 柚月のそういうところ、俺はすごいと思うけどな〜」
「疲れてるんだったら、今月末旅行行こうよ!奮発して温泉なんか行っちゃう?子どもたちも喜ぶぞ〜」
元々、陽気で楽観的な性格だと分かってる。でも、今ほしいのはそんな言葉じゃないの……。急に独りぼっちにされたようで、激しい淋しさが押し寄せるとともに、その淋しさが急速に怒りに変わる。そしてその怒りの矛先は、なぜか近くで戯れていた子どもたちに向かった。
「うるさい!」
家族団欒のリビングに鋭い緊張と沈黙が広がる。そして、子どもたちの泣き叫ぶ声が沈黙を破った。
「ご、ごめんなあ。パパがママ怒らせちゃったみたい、あはは……」
澱んでしまった空気をなんとか持ち直そうと、夫が陽気に振る舞い、子どもたちを抱きかかえた。私は呆然とし、目の前の光景をゆっくり解釈する。何も悪くないのに怒鳴りつけられた愛しい我が子たちに、自分のせいでもないのに悪くなった空気と泣き叫ぶ我が子を持ち直そうとする夫……。
「私、もう終わらせよう」心の中でつぶやく静かな決心は、今までで最も強く、そして最も固かった。
あとがき:“優しさ”で押し殺した声が、限界を超えるとき
関係を壊したくない。子どもに不自由をさせたくない。そんな思いから、柚月は藤井さんの支配的な態度を“受け容れて”きました。けれどその選択は、少しずつ彼女の心をすり減らし、ついには“もうこれ以上は無理だ”という地点へとたどり着いてしまいます。
この話では、自分を守るために“優しさをやめる”という選択が必要になる瞬間を描きました。“優しさを、大切な人のために使う”──そんな静かな決意に至る柚月の姿は、「わたしも、誰かを優先しがち…」と感じたことのある人の心にも、きっと届くはずです。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










