Ⓒママリ
🔴【第1話から読む】“気の合うママ友”が、少しずつ怖くなっていくまで|もうやさしくできない日
一線を越えた藤井さんの言動に、ついに柚月は“やさしさ”を手放す決断をする。止まらない干渉、続く依存──その夜、彼女は本心を伝える覚悟を持った。
“もうやさしくしない”決意を、今夜こそ伝える
固い決心を逃すまいと、私は今晩中に藤井さんに返信することにした。
子どもたちを寝かしつけ、穏やかな寝顔を目に焼き付ける。「ママ、行ってくる」そう心の中で子どもたちに宣言してリビングに戻る。
「柚月、さっきはごめん。俺、何も分かってなくて……」
リビングに戻るや否や、夫が申し訳なさそうに駆け寄ってくる。決して夫が悪いわけではない。むしろ私が謝らないといけないのに。
「私こそ、カッとなっちゃった。ごめん。例のママ友とは、今夜LINEではっきり自分の気持ち、伝えるから」
その時、テーブルに置いていた私のスマホが鳴った。聞き飽きたLINEの通知音。時間帯から察するに、きっと藤井さんだろう。
「大丈夫?一緒に返信考えるよ?」
夫が心配そうに私を見る。楽観的で少しズレる時もあるけど、夫の根っこにある寄り添う優しさが、私は好きだ。
「私だけで大丈夫。ありがとね。先に寝てて」
「分かった。何かあったら全然起こしてね」
夫の優しさを勇気に変えるように、深く息を吸ってスマホの画面と相対する。例に漏れず、藤井さんからのLINEが現在進行形で連投されている。
「柚月さん。もしかして、具合悪い?」
「最近、お家行ってなかったよね?お見舞いついでに何か買っていくよ?」
「気を遣わないでね!柚月さんのためなら張り切っちゃうから、私!」
メッセージの内容は、相変わらず下手に出ているようで、一方的で厚かましい感じだった。私が藤井さんとのトークルームを開き、既読をつけるとメッセージの連投が止まった。目を閉じて、再度深呼吸する。言った後の最悪の結末が過ぎり、動悸がする。ためらう私の頭に子どもたちと夫が浮かぶ。そうだ。もう、退かない。
直後、今までの思いが堰を切ったように溢れ、文字が入力されていく。率直ながらも、最低限の敬意を持って綴ったメッセージを打ち終わると、最後に一通り確認し、送信ボタンをタップする。
「藤井さん。親身に接してくれてありがとう。だけど、深夜になっても続けるLINEとか、お迎えの時に追いかけてきたり、家の周りをうろうろされたり、私は怖かった。気が休まらなかった。純粋に仲良くしてくれてたと思うんだけど、私は疲れちゃった。だから、少し距離を置きたい。距離を置きましょう。」
今までの不安、恐怖、憤りなど湧き上がった感情をそのまま、送ることもできた。でも、それは違うと思った。それは結局、私が「やめてほしい」と思ったことを、そっくりそのまま藤井さんにぶつけることでしかなくて、それをしてしまったら、終わりがないと思った。湧き上がる感情を整理しつつ、淡々と文字を入力した。
“わかりました” 一晩の勇気が、すべてを変えた──
送信したメッセージはすぐに既読がついたが、一向に返信がない。空白の時間に、また不安が漂い始める。「逆上されたりしないだろうか」「誠意を持って伝えたつもりだけど、ダメだったかな……」そんな思いが反芻する。
一度離れようと、画面をオフにしてスマホを置いた。その瞬間、LINEの通知が入る。藤井さんからだった。ロック画面の通知バッチには端的に「わかりました」の6文字のみが映り、それ以降、追撃のメッセージが送られてくることはなかった。
あの夜以降、藤井さんからのLINEはパタンとなくなった。帰りに追いかけられたり、家の周りを彷徨かれることもなくなった。子どもたちの幼稚園生活にも支障はないようだった。長かった私の“依存ママ友”問題は、“一晩の勇気”で終わりを告げた──。
“優しさ”の履き違えを越えて、わたしは歩き出す
思い返せば、反省することが多い。「子どもたちのため」「円滑な人間関係のため」と、理由をつけては自分が感じる違和感を見過ごしていた。“無理してでも合わせる”ことが“優しさ”だと履き違えていた。
もちろん、ある程度の許容や妥協は必要だと思う。だけど、私も一人の人間。感じること、思うことがある。関わるひとに敬意を払いつつ、誠実に自分の考えや思いを伝えることが大切であることを、身を以て学んだ。
藤井さんもきっと悪いひとではないと思う。ただ今回はお互いに、“伝える”上で、なにか欠けるものがあったのだと思う。相手への敬意だったり、伝える勇気だったり……。
「ママ、いってきま〜す!」
「いってらっしゃ〜い!楽しんでおいで〜!」
いつぶりだろう。こんなに清々しく、登園できる日は。晴れやかな気分で子どもたちを見送ると、ママ友さんたちに話しかけられた。
「柚月さん、おはよう〜!なんか表情明るいね。なにかあった?」
「おはようございます!いえ、特には!」
「そういえば、また柚月さんの悪い噂、出回ってるっぽいよ。『親切にしても文句しか言わない人』って」
「またか……」
少し目を伏せる。なんとなく噂の出どころには予想がついた。分かり合えないことに少し哀しくなるけど、これ以上は引っ張られない。
「そうなんですね。……噂はもう、仕方ないです!」
そう。私はこれから、胸を張って、淡々と歩いていく。
あとがき:“優しさ”を守るために、私が決めた距離
自分の心の限界に気づいた柚月は、静かに、しかし確かな意志で“距離を置く”という選択をします。大切なのは、感情をぶつけることではなく、自分の感情を誠実に伝えること──。
この話では、相手との関係を断つことが“逃げ”ではなく“自分を守る勇気”であることを描いています。誰かに気配りしすぎてしまう人ほど、柚月の行動にきっと共感を覚えるはずです。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










