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「窓の外から自転車の車輪の音が…」無表情で自宅前にいるママ友が怖い|もうやさしくできない日

2学期が始まり、藤井さんと距離を取る柚月。しかし、噂話、ママたちの視線、そして“近づく車輪の音”が、彼女の気配をじわじわと近づけてきます。「見られている気がする」が確信に変わったとき、柚月のなかで“ただの違和感”は“はっきりとした恐怖”へと姿を変えます──。

Ⓒママリ

🔴【第1話から読む】“気の合うママ友”が、少しずつ怖くなっていくまで

藤井さんの“同調の圧”に戸惑いつつも、花火会に参加した柚月。楽しい時間の裏で芽生えた違和感は、やがて理不尽なLINEと共に、確かな“恐怖”へと変わっていきます――。

距離を取ったはずなのに──“噂”が追いかけてくる

悪口 PIXTA

2学期が始まった。幼稚園の門をくぐるたびに少しだけ、肩の力が抜けるのを感じる。

1学期、そして夏休みのこともあって、私は藤井さんと距離を置くことにした。藤井さんには最低限の挨拶だけをして、深く関わらないようにした。彼女もそれを察したのか、以前のように話しかけてくることはなくなった。

“いつも一緒にいた人”と距離を取ることに、初めは罪悪感もあったけど、不思議と気持ちは軽くなっていた。幸い、子どもたちの園生活にも支障をきたすことはなかった。

ほんの少しだけ、息ができるようになった気がした。

そんなある日のお迎え。同じクラスのママさんたちから、視線が集まるのを感じる。「私、何かしたっけ?」身に覚えのない視線に戸惑うことしかできず、子どもたちの帰りの会終了を待っていると、一人のママさんがそっと近づいてきた。
 
「ねえ、柚月さん……ちょっと聞きたいことがあって」

彼女が向ける苦笑い混じりの表情が、不安を膨らませた。

「ほんと、噂だから気にしないでほしいんだけど……なんか、“あの人、誰とも仲良くなりたくないんじゃない?”って言ってる人がいるみたいで。その、もしかして……無理に誘ってたりしたのかなって……」

本音混じりの噂の話に、動揺してしまった。たしかにインドア派だし、社交の場が苦手ではあった。けど、お誘いを受けるのは嬉しかったし、何より子どもたちが喜んでいたから、迷惑とは思っていなかった。
 
「そんな……!私は、子どもたちも喜ぶし、お誘いしてもらえるの嬉しいですよ?でも、どうしてそんな話が?」

「そうなのね!それなら良かった!……実は、藤井さんが話してたの」

その名前を聞いて、腑に落ちた。途端に疲労感が全身にのしかかる。

「そうでしたか……。」

「もちろん、私たちも話半分で聞いてたの。その、藤井さんってどこかこう、“思い込みが激しいタイプ”っていうか……」

言い淀んではいたけど、他のママさんが思っている“藤井さんへの印象”を初めて聞けた。「私が“気にしい”なだけじゃなかったんだ」それが知れただけで、少しホッとした。しかし同時に、「なんで私だけ目の敵にされてるの?」という疑問も湧いた。

「とにかく、噂が嘘って知れて安心した!大変だけど、気にしないのが一番よ。何かあったら言ってね!」

噂は拭えた。でも結局、この問題の解決に、“誰かの協力は期待できない”ことがうっすら感じ取れてしまった。

“車輪の音”が迫る──ふたたび始まる“支配”

ママチャリ amana images

次の日のお迎え。前日の噂の話もあって、晴れない気持ちのまま、どこか上の空で幼稚園に出向いていた。子どもを連れてとぼとぼと歩いていると、後方、少し離れたところから声をかけられた。

「柚月さ〜ん。こんにちは〜。」

声だけでわかった。藤井さんだ。振り返りたくない。でも、近づいてくる自転車の車輪の音。子どもたちの手前、そして関係悪化は避けたいという思いから、私は仕方なく足を止めた。ただ今日はいつもとは違う。「すぐに帰る。言い訳を使っても帰る」と心の中で唱えた。

「最近、あまり直接話さなかったから久しぶりじゃない?」

「そうでしたね。ただ藤井さん、ごめんなさい。この後、用事があって急いで帰らないといけないんです」

「あら、そうなの?残念だわ……」
 
上手く往なせたと思った。だけど、言葉は続いた。

「せめて、お家の前まで話しながら帰りましょうよ。それが良いわ!」

その言葉に、藤井さんの私に対する支配的な姿勢が詰まっていた。私は怖くなって、取り繕う余裕もなくなっていた。

「ごめんなさい……。ほんとに、急がないといけなくて!」

会釈もほどほどに、藤井さんや子どもたちの声がけも無視し、早足で駆け出しては自転車に乗り、必死にペダルを踏み込んだ。

途中、交差点の信号に止められる。我に返って見た子どもたちの表情には、不安が表れていた。申し訳なく思いつつ、予告点灯が残り1つになるのを確認する。その時ふと後ろを振り向くと、長い直線の奥に、小さいながらもはっきりと、藤井さんの姿を確認した。「無我夢中で漕いできたのに……」抱いていた“違和感”は恐怖へと変わっていた。

窓の外、“じっと見つめる目”──違和感は、確信に変わった

カーテン 監視 PIXTA

自宅に戻るとすぐに施錠し、カーテンを閉めた。明らかに怯えた私の様子に、子どもたちも異変を感じたのか、私のそばを離れない。そんな子どもたちに縋るように、そして何かあったときは守れるように、私は強く子どもたちを抱きしめた。
 
窓の外から自転車の車輪の音が聞こえ、自宅前で止まった。車の通行音が端切れ良く通り過ぎる中、1分ほど経っても自転車の車輪の音が聞こえない。私は恐る恐る、カーテンの隙間から外を覗いた。すると、自転車に跨りながらじーっとこちらを見つめる、無表情の藤井さんが門前に佇んでいた。

 その日以降、藤井さんはお迎えの時に追いかけてきたり、自宅前を彷徨くようになった。誰かに相談しようとも思ったけど、誰かを巻き込むのも怖くて、言い出せなくなっていた。

🔴【続きを読む】“受け容れなきゃ”が、限界を超えた夜|もうやさしくできない日

あとがき:距離をとっても接近してくる──依存された人の苦悩

“ただ距離をとっただけ”だったはずなのに、気づけば自分の意思では抗えない関係の渦に巻き込まれていた柚月。噂、視線、そして迫る“藤井さん”──それらが静かに、しかし確実に彼女を追い詰めていきます。

この話では、身近にある“見えない支配”と“誰にも言えない孤独”が、どのように人の心を追い込むのかが描かれています。ほんの少しの異変が、確かな“恐怖”へと変わる瞬間。無自覚な狂気に翻弄される柚月。──もしあなたなら、どう感じるでしょうか?

※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています

🔴【全話読む】もうやさしくできない日

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