Ⓒママリ
🔴【第1話から読む】不妊治療中、ママになったかつての友人との再会
主人公・マキは友人・ユウコが息子との関係に悩んでいたことを知り児童相談所へ通告。怒るユウコを説得し無事相談所へ行き、彼女の心を癒すことに成功しました。そして、それからしばらくして…。
虐待に走った自分を見つめ始めた母
児童相談所での面談のあと、ユウコからぽつりぽつりと話を聞くようになりました。あの日を境に、彼女の口は少しずつ開いていったのです。
「たぶんね、私、ずっと張り詰めてたんだと思う」
そう言ってユウコは、自分の両腕を抱きしめるようにして座っていました。目の下のクマはまだ残っていましたが、表情はどこか穏やかでした。
「ユウタが生まれた時は、すごく嬉しかったの。だけど、すぐに“なんか違う”って直感があって。泣き方とか、寝ないとか、目が合わないとか……。でも誰も信じてくれなかった」
彼女は、ひとつ息を吐いて続けます。
「“神経質すぎる”って言われてさ。夫にも、“母親ならちゃんと育てろ”って……。自分の感覚すら信じちゃいけない気がしてた」
私はその場で何も言えませんでした。ユウコは決して、もともと乱暴な性格ではなかった。むしろ人の気持ちに敏感で、友達思いの子だった……だけど、そんな彼女を追い詰めたのは、きっと「無理解」と「孤独」だったのです。
歯止めの効かなかった苦悩
「ねえ、マキ。私が“こんな子産まなきゃよかった”って言ったの、覚えてる?」
私は黙ってうなずきました。
「本音じゃないよ。だけど……口から出ちゃうの。あの瞬間だけ、何もかも終わらせたくなるくらい、苦しかった」
それを聞いて、私はようやく確信しました。ユウコは、「子どもが嫌い」なんかじゃない。「母親失格」なんかでもない。ただ、あまりにも長い間、たった一人で苦しみ続けていたのです。
「マキが通告してくれて、正直、最初はすごく腹が立った。裏切られたって思った。でも……今は、ありがたいって思ってるよ。私、助けてって言えなかったから」
「……言ってくれて、ありがとう」
私の声も震えていました。
その後、ユウタくんは専門機関での発達検査を受け、「自閉スペクトラム症(ASD)」の可能性があると診断されたそうです。医師からは、早期の療育が非常に大切だと説明され、支援を受ける手続きを進めることになりました。
「ユウタが“おかしい”ってことじゃないんだよね。ちゃんと理由があって、ちゃんと関われば、きっと変わっていくんだって知って……ほっとした」
ユウコはそう言って、初めて涙を流さずに笑っていました。
一歩ずつ前進する親子
夫には、話し合いの末、離婚を申し入れたそうです。
「『じゃあ勝手にすれば』って言われて、なんか拍子抜けだったよ。あの人、たぶん最初から、子どものこと他人事だったんだよね。下の子も妊娠中なのにその態度だったら…もう1人で育てた方が良いなって」
その後、ユウコは子どもを連れて実家に戻りました。お母さんもお姉さんも事情を理解してくれ、いまは家族の協力を受けながら、療育センターに通っています。数ヶ月ぶりに会ったユウコは、以前のように明るく、そして少しふっくらとしていました。あの日のげっそりとした顔が、まるで嘘のようでした。
「マキ、見てよ。ユウタ、少しだけ集中して遊べるようになってきたんだよ。この間は自分で描いた絵をね、わざわざ私に見せてくれたの」
「すごいね……」
私は感動しながらその様子を見ていました。そして心の中で、何度も何度も言葉を繰り返しました。――あのとき見過ごさなくて、よかった。
「マキのおかげだよ。私、自分がどれほど疲れてて、異常な状態だったか気づいてなかった。あのままだったら……本当に取り返しがつかなかったと思う」
ユウコの言葉は、あのときの決断が間違っていなかったことを、静かに教えてくれていました。そして、私自身にも心境の変化がありました。不妊治療は相変わらず続いていますし、先はまだ見えません。でも、以前のような焦りや絶望ではなく、「私はちゃんと人を思って生きている」と、自分の生き方を信じられるようになった気がします。
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あとがき:自分を思ってくれる人がいる心強さ
児童相談所への相談がきっかけとなり、前進を始めたユウコ。
彼女の苦しみにひたすら寄り添ったマキからしても、安心できたのではないでしょうか。
果たしてユウコは、優しかったかつての彼女に戻れるのでしょうか。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










