姉からの一本の電話が告げた現実
家族間のお金の貸し借りって、皆さんはどうしていますか?
私は岸本美和。3年前に結婚し、夫と子どもと慎ましくも楽しく日々を過ごしていました。そんなある日。私のもとに一本の電話がかかってきました。相手は3姉妹の次女で私のひとつ上の姉、真希からでした。
「もしもし〜。どうしたの?」
「もしもし美和。……ちょっと、相談いい?」
重く暗い声のトーンに、不穏な空気を感じ、私は身構えました。
「実はさ、お母さん、車買い替えるらしくて。美和からもいくらか出してくれない?」
またか━━。身に覚えのあるお願いに、深いため息が漏れる。この話題の時だけは、どうにも気分が落ち込むのです。
私は三姉妹の末っ子で、長女の春香、次女の真希とともに母子家庭で育ちました。父親はギャンブル好きで、私たちが小さい頃に貯金を使い込んで逃げたと、母から聞いています。そんな背景もあって、特別仕送りはしていなかったのですが、母の生活周りの支払い、携帯代や車の支払いなどは、次女の真希と私が協力して支払いをしていました。ちなみに長女の春香は、社会に出てすぐ結婚。早々に旦那さんの元に嫁いだこともあって、母のお金の話にはあまり参加することがありませんでした。
「そうなんだ……ちなみに、いくらぐらいするの?」
「……150万するらしい」
とてつもない大金。2人で折半しても1人あたり75万円、なかなかの負担です。言葉を失っていると、通話越し、姉が深いため息を吐く音が聞こえました。その音はどこか震えているようで、いつになく追い込まれているような、そんな危うさを感じました。
「お姉ちゃん、どうかした?」
そう姉に尋ねると、しばしの沈黙の後、震える声で姉は話し始めました。
「……実はね、これが初めてじゃないの。お母さんに大金を貸したの」
「えっ?」
学生時代から続く母の無心と依存
初耳でした。姉の話によると、どうやら母は、姉が学生の頃からまとまったお金を無心していたようです。
その中でも姉は、自分の学費をバイト代で全額払っていたらしいのですが、追い討ちをかけるように母が一時期宗教にハマり、水晶や壺の購入費用も立て替えていたらしいのです。もちろんこれには猛反対したらしいのですが、「絶対返す」という言葉を信じて貸し、10年経った現在も返済はないそうです。
正直、いまの今まで姉が母から無心されていたことに、私は気づきもしませんでした。
「どうして、今まで言ってくれなかったの?」
「だって、美和は妹で末っ子だから、私も背負わせたくなかった」
「春香にはお母さんが『結婚して旦那さんもいるし、迷惑かけたくない』って言うから……」
その時、私は次女である真希の優しさに庇われていたことを痛感しました。たった1人で学生時代から大きな経済的負担を背負い込んでいた、いや、背負い込ませてしまっていたことに、深い罪悪感が込み上げてきました。
「お姉ちゃん、ごめん。私、気づいてあげられなくて……」
「いいの……。でも……もう、嫌だ……」
涙ぐむ姉の声に、胸が詰まりました。「なんとか姉の負担を減らしたい」その一心で、私は姉にある提案をします。
「お姉ちゃん。まず、お母さんに3人で3等分しようって提案してみよ?私から話すからさ」
三姉妹平等案の拒絶と母の執着
━━後日、私は母の元を訪れました。電話で相談した場合、姉伝いに聞いたことがバレて、姉に怒りの矛先が向くことを予想したためでした。一見、穏やかそうに見える母。雑談をしたり、子どもと触れ合ってもらいつつ、私はそれとなく車に話題を向けました。
「うちで乗ってる車も長くなってきたから、『買い替える?』なんて話を夫としてるんだ」
「そうなの?実は私の車もガタが来たみたいでさ、買い換えようかな〜、って」
母はうまく食いつき、私はそのまま話を進め、支払いの話に持ち込みました。
「買い替えってなったら、お金足りるの?」
「そこのところは真希に相談したから大丈夫。美和は心配しないで」
悪びれもなく姉に頼ろうとする母の一言に、一瞬言葉を失いました。しかし、すぐに我に帰り、私は母に提案します。
「言っても、額も大きいんでしょ?真希だけじゃ厳しいと思うし、春香にも相談して姉妹で3等分するよ」
すると、穏やかだった母の表情が急に曇り、首を横に振りました。
「ダメよ〜。春香と美和は結婚して家庭があるんだし。旦那さんにも心配させちゃうでしょ?」
「いや、でも……」
「このことは真希に頼むから!ね?」
母の圧に、私は思わず口をつぐんでしまいました。異常なほどの母の真希に対する執着や依存の姿勢に、私は家庭の問題の根深さの一端を知ることになりました……。
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あとがき:「お金」だけでは終わらない、家族の歪み
本エピソードでは、母の金銭依存と、それを長年一人で支えてきた姉・真希の存在が浮き彫りになりました。金額の大きさや返済の有無だけでなく、特定の子に負担を集中させる偏りは、家族全体の関係性に深く影を落とします。単なる経済問題に見えて、その奥には感情や役割意識の歪みが潜んでいる━━そんな現実に直面した美和が、今後どのような選択をしていくのか、次回への緊張感を残す幕開けとなりました。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










