家族で向き合った夜、ひよりは涙ながらに反発しつつも両親の思いを受け止め、翌朝には謝罪。スマホを返されたことで一時の平穏が戻るが、それは嵐の前の静けさにすぎなかった
🔴【第1話から読む】娘とスマホ、揺らぐ家族の日常|はじめての恋、見えない檻
家族の衝突と涙
夕食もやっぱり重苦しい雰囲気が漂っていました。
私はひよりの好物を用意し、なるべく自然に明るく振る舞いましたが、気を使われているのがわかったのか、笑ってはいるものの、居心地が悪そうでした。余計だったかな、と弱腰になりましたが、心を決めて食事を始めました。
最初はぎこちなかったものの、夫が朝の通勤時に見たかわいい犬の話や、今日の美味しかったランチの話などしてだんだんいつもの和やかな団らんになっていきました。食後にデザートを出して話をすれば、きっとわかってくれる。
そう思いながら食べていると、お酒の入った夫が機嫌よく言いました。
「あー、犬もランチもひよちゃんに見せたかったなー。写真、撮らなかったんだよ」
すかさずひよりが返しました。
「見れないよ。スマホないから」と。
空気が凍りつきました。わが家は家族のグループラインでなんでも共有しているのです。スマホが無いから送っても見れないよ、という口答えに夫の顔色がサッと変わりました。
私もひよりも、あ、やばいと思った瞬間
「……そうだな。スマホ、無いんだったな」
夫はそう言ってから、少し息を吐きました。
「なんで無いんだっけ」
ひよりは俯き、目が泳ぐだけで何も言えません。
「ひよ、5000円のこと、教えてくれ。なんで相手は送ってきたんだ?」
夫の口調は柔らかいけれど、目の奥は光っていました。
「……お小遣いだよ」
やっとひよりが答えると
「パパとママはひよを信じたい。でも、知らない大人からお金をもらうなんて、普通じゃない。それくらいわかるよな?」
「…」
「何もしてないのに、お金をもらえるわけないよな。パパの言いたいことわかるだろ?」
ひよりは俯いたまま、顔を真っ赤にして涙をこらえています。
「…変なことしてないか?写真を送ったりさ」
夫は静かに核心を突きました。
「変なことなんてしてないもん!」
「じゃあ、なんでお金をもらったんだ!」
「たくみさんはそんな人じゃないよ!優しくて、素敵な小説が書けて、すごい人なんだから!」
言い返してくるひよりに対して夫は激昂し
「普通の人は中学生と付き合ったりしないんだよ!勘違いさせるようなことも言わない!」
とはっきり言いました。
「好きって言われたもん…!」
目の端に涙を溜めて言うひよりに
「言うことを聞かせようとしたらどんなことだって言うよ。男も女もそういう奴はいるんだ。わかってくれ…。パパたちはお前を守りたいだけなんだよ」
と、夫は絞り出すように言いました。
思いを伝える難しさ
ひよりの目から大粒の涙が溢れたかと思うと、わっと泣き出しました。私はすぐさまひよりを抱きしめました。私の胸で小さな子のように泣く娘に、私も泣きながら、ネットでやり取りすることの危険性、私達にとってひよりが一番大事な存在であること、
ひよりに傷ついてほしくないこと、万が一にもひよりを失いたくないことを切々と伝えました。恋心を否定したいわけではないことも。
ひよりはコクン、コクンと小さく頷きながら泣き続け、夫も目や鼻を赤くしていました。そうしてしばらくしたあと、落ち着いてきたひよりに「もうその人と連絡しちゃだめだよ。受験だって言えばいいから」と言い聞かせました。
「しつこかったらパパが言ってやるからな」と、夫も強く言いました。ひよりは小さく「はい…」とつぶやきました。ヒクヒクとしゃっくりを上げながら、自室に戻るひよりの背中を見ながら夫に言いました。
「大丈夫かな。わかってくれたかな」と呟くと、「大丈夫だよ。わからない子じゃないよ」と夫も呟きました。なんとも言えない不安を抱えながらも、私達も寝室に向かいました。が、なかなか眠れません。興奮なのか、胸騒ぎなのか、落ち着きません。
かすかにひよりの泣き声も聞こえてくるのです。見に行こうか、というと夫は「ほっといた方がいい。泣くだけ泣けば正気に戻れるさ」と言うので迷いながらも従いました。
明日、ちゃんと反省していたら、スマホを渡そうかな。でも、もうちょっと様子見かな。でも、無いことで何かあったら…。パパに謝ったら渡そうかな…。堂々巡りしてばかりで、その晩はよく眠れませんでした。
一時の平穏と不安
翌朝、腫れた目でリビングに降りてきたひよりに、「おはよう」と声をかけました。普通に言ったつもりだけどうまく言えていたかはわかりません。ひよりも、「おはよう…」と小さく答えました。「パパにおはようって言ってきたら?」と促すと、もじもじして目をキョロキョロさせています。
その後ろから夫が「ひよちゃんおはよう」と現れました。ひよりは肩をビクッと震わせ、さっきよりも小さな声で、「…おはよう」と顔を伏せたまま返しました。
こちらをチラチラ見るので、「パパにコーヒー持ってって」とカップを渡すと、唇をキュッと結び、「パパ、ごめんなさい…」とカップを渡して謝ったのです。
夫は一瞬考えて、もう危ないことはだめだよ、と一言言い、こちらを向いて「ママ、スマホを出してあげて」と私に言ったのです。
ひよりが「いいの?」と夫と私を交互に見るので、「パパとの約束を守ってね」と言ってスマホを渡しました。
ひよりの表情はぱぁっと明るくなり、ありがとうと何度も言って朝食を食べ、学校に行きました。
夫と苦笑いしながら、ひよりにとっていい薬になるといいことを願い、今回のことは終わりにしました。それからしばらくは平穏な日々が続き、ひよりも落ち着きを取り戻し、スマホを触っている時間もほどほどになりました。
このまま平和な時間が続けばいいな、そう思っていたのも束の間、私達は本当の恐ろしい体験をすることになったのです。
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あとがき:涙の和解、そして…
親子の衝突が頂点に達し、ひよりは「反省って何?」と反発しながらも、両親の思いを受け止めて大粒の涙を流しました。真紀子さんが伝えたのは、恋心を否定するのではなく「守りたい」という気持ち。ひよりも謝罪を口にし、スマホを返されて一時の平穏が訪れます。しかし、それは本当の嵐の前触れにすぎませんでした。信じたい気持ちと不安のせめぎ合いの中で、あなたならどうしますか?










