祖母の介護をきっかけに、母と叔母の関係がこじれ始める。姉妹の対立はやがて主人公・美咲と従姉妹の間にも影を落とし、かつての親しい絆が少しずつ壊れていく。
始まりは「支え合おう」の言葉から
夕食後のリビング。私、佐倉美咲の視線の先には、母が眉をしかめている。穏やかなはずの空間は、どこか緊張が張り詰めていた。
そんな中、私のスマホの通知が鳴った。画面に表示されたメッセージの送り主は従姉妹の彩花。
「おばあちゃんが大変で皆んなで支えようとしてるのに、そっちのお母さんも自己中だね」
「都合のいい時に見舞いだけって、どうなの?ウチらだって働きながら介護してるのに」
冷たく、棘のある言葉が並べられた通知が溜まっていく。私は母の表情を窺いつつ、自分の部屋に場所を移すと、チャット画面を開いて履歴を遡った。そこには、彩花からの祖母の介護に対する母や私への嫌味と、それに対する謝罪と必死の弁解をする私のメッセージのやりとりが長らく続いていた。
しばらく上にスクロールしていくと、急に画面に彩りが増えた。そこで初めて気づいた。ここ最近のやりとりで、絵文字やスタンプが全く使われていなかったことを。
「お誕生日おめでとう!今年も素敵な一年になりますように!」
「お盆おばあちゃん家来るんでしょ?一緒に買い物行こうよ!」
彩花と仲の良かった頃のメッセージを見返し、胸が苦しくなる。私たちは一体どうして、こんなに拗れてしまったんだろう──。
私と従姉妹の家族仲は、世間的にみても他の親類と比べてもとても良かった。私が思うに、母と叔母の恵さんの姉妹仲が良かったことが大きかったのだと思う。年に数回、親類が集まる席でも気づいたら母と叔母がくっついていて、話に花を咲かしていた。周りを置いてけぼりにするほど、母と叔母の間には2人だけの空気感があった。
そんな親の背中について回っていたこともあり、私と彩花は自然と仲を深めていった。彩花たち従姉妹家族とは離れて暮らしていたから、会えても年に数回だった。けれど、母と叔母と同じような私たち特有のフィーリングがあったのか、少ない時間でも深い信頼関係を築いていった。大きくなってからはSNSを通じて、近況を伝え合いもしていた。
そんな関係に影が差し始めたのは、つい最近のこと。きっかけは祖母の余命宣告と介護の開始だった。祖母の病気は末期で、判明した時にはすでに手の施しようがなかった。その状況で祖母の「自宅で過ごしたい」という意向を汲むべく、在宅緩和ケアの道を探っていた。
在宅となれば、弱っていく祖母の身の回りを支える介護が必要になる。そこで、祖母の家に比較的近い場所に住む、私たち家族と叔母家族が中心になって介護をすることで話が進んだ。私はおばあちゃん子だったし、母や叔母、従姉妹も同様だった。祖母の最期を皆が思いやっていた。
話し合いは両家の両親が中心となって進められた。介護費用の分担や世話の当番など、現実的な話を一つひとつ整理していった。そして見えてきたのは、様々な負担。自分たちの生活をしながら、それらを負うという甘くない現実に直面することとなった。
最初の話し合いでは、身の回りの世話は祖母の自宅により近い叔母の家族が平日担当し、週末や祝日に私たち家族が担当することに。それもあって費用面は私たち家族が少し多く出すことで着地した。苦慮しながらも決めた介護計画に沿って、互いの家族は前向きに介護に向き合っているように思えた。
崩れゆく介護計画と、母の苛立ち
しかし、そんな計画も早々に陰りが見え始めた。
週末や祝日に祖母の身の回りの世話を担当することになっていた私たち家族だったが、仕事の繁忙期など都合が重なり、叔母家族に代わってもらうことが増えた。さらに、叔母の旦那さんの持病が悪化し、そこにかかる医療費が増えたことで、祖母にかかる費用への手出しを減らしたいという相談がされるようになった。バランスを取った介護計画の均衡が崩れ始めていた。
当初の計画と実際が噛み合わなくなり始めると、家庭内での母の雰囲気も変わり始めた。表情は曇り、どこか殺気だった雰囲気すら醸し出していた。極めつけは、通話での怒鳴り声。通話相手はおそらく叔母で、介護の内容についてだった。
「仕事なんだから仕方ないじゃない。有給も介護休暇もとっくに使い切ったの!」
「そっちが厳しいのも分かるけど、こっちだってカツカツの中で多めに出してるの!」
この時すでに計画の破綻に気づきつつも、代替案が出るわけでもなく、ただ「祖母に穏やかな余生を過ごしてほしい」という思いのみが、無理くり介護を継続させていた。
画面の向こうで、冷たくなっていく言葉
とある日の夕飯後。母はまた叔母と通話で口論しているようで、リビングの外から怒声が漏れ聞こえていた。不安がっているとメッセージが届いた。従姉妹の彩花だった。
「お母さんから介護費用の話聞いた。そっちの家計も大変なんだろうけど、もう少し検討してもらえない?」
「そっちだって仕事があるとはいえ、当初の介護当番できずにこっちが代わったりしてるんだしさ……。美咲からも由紀子さんに言ってくれない?」
一見すると穏やかな文面の中に、従姉妹の静かな憤りを私は感じていた。介護を巡る母と叔母の不和が、私と彩花の間にも冷たい影を落とそうとしていた。
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あとがき:想いがすれ違う瞬間に、家族は試される
介護は、誰かの善意だけで続けられるものではありません。仕事、生活、心の余裕──それぞれの事情が絡み合う中で、誰かの「頑張り」が誰かの「不満」になる。母も叔母も、祖母を思う気持ちは同じだったのに、それを確かめ合う余裕すらなくなっていました。家族の“想いのずれ”が、人をどれだけ孤独にするのかを痛感するエピソードでした。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。










